「はぁ〜…だりぃ」
二週間ぶりの我が家に息をつきたい気持ちと、罪悪感。今日は稀咲の誕生日だった。なのに時間はもう昼過ぎ。稀咲は家に居て、レシピ本と睨めっこしながら何か作っていた。
「稀咲!ごめん、誕生日おめでとう」
「ん…、別に。お疲れ」
手でフードの首元を掴まれ、頬に稀咲の唇が当たる。どこで覚えた。そんなの。
「ふ、何?ご機嫌?オレが居るから?」
「ちげーわ。自惚れんなバカ。手洗ってこい」
誕生日プレゼントとして用意したのは写真集、アルバムみたいな冊子と外国のネクタイ。アルバムには景色が一割以下で、八割が稀咲。残りはオレとのツーショットの豪華ラインナップだ。ささっと手を洗い稀咲のところへ戻る。
「なーな!ケーキ食う?苺でよかった?」
「…食う」
それなりの量になった荷物を片付けたり、皿やらフォークを出している間にコーヒーの香りが部屋に広がる。
「オレブラックがいい」
「知ってる」
オレのカップにはコーヒーだけ。稀咲の方にはミルクと砂糖を少し。キサキおめでとー!なんて言ってホールケーキを見せる。[てったくん誕生日おめでとう]とかかれたチョコプレートを見て、机の下で足を蹴られた。全く痛くない。
「美味い?」
「ん、悪くない」
稀咲ははにかみながら口元のクリームを舐める。外じゃ絶ッッ対しない仕草だった。外国にいた二週間の事を話して、ひと段落した時に稀咲にプレゼントを渡す。ネクタイは喜んでくれたし、ほとんどオレが写ってんじゃねぇか。と笑ってくれたので、サプライズは成功、だと思う。
「なぁ稀咲。何作ってたん」
「明日の朝の分。フレンチトースト」
「…甘いパンみたいなやつ?」
「多分それだな。正確にフレンチトーストはアメリカと…ヨーロッパ、アジアの一部で朝食や軽食として食われてる、卵と牛乳混ぜた液に浸して焼くパンのことだ。最古のものでは古代ローマで記録されていたそうだ」
「ふぅーん……」
急な饒舌に言葉が出ない。なんにせよ、明日の朝は稀咲の手作りらしい。そこがまず嬉しかった。オレにドヤ顔する為に慣れないケータイを使う稀咲見たかった……気がする。
「聞いてないだろ?……冷蔵庫に入れとくけど、食うなよ」
「オレのことなんだと思ってんの?」
「………コイビト」
冷蔵庫にスペースを作ってる稀咲に言うと一瞬動きが止まるが、ふれんちとーすとを入れ切ってドアを閉めた後小さく呟かれた言葉と赤い顔に隠しダネを使わざるを得なくなる。
「稀咲、」
「んだ…よ」
小さい手のひらに乗るくらいの箱の蓋を開け、中身を見せる。小さくダイヤのついた指輪。世間様でいう、婚約指輪。
「稀咲。オレと__」
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