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… 今は、何時だろ。朝なのか、夜なのか。日当たりの悪い締め切った部屋では分からない。 ぱ、っと顔をあげてスマホを見ると 、今は 朝の五時。 早く起きてしまったなと 、 ぼけっとした頭で、 隣を見ても いつもいるはずの彼はいなくて。寂しくて寂しくて 、どうしようも無くなったから 彼を探した 。
すると隣の部屋で彼は寝ていて 、 その綺麗な寝顔に 口付けをした。
なんて、若者言葉でいう「エモい」。そんな雰囲気の日。キスも 、 何もしてくれなくなった恋人の頬を撫でる。 冬だからか、酷く冷たい。だからしっかりと布団を被せてやった。 それから、起きない彼を放っておいて、 リビングに向かう。 寒さで苛立つが、 彼の為にと台所にたち朝ご飯を作る。
ぷっくり膨れた手首の跡を撫で、今日も正を実感した。 やる気も、何も起きない。そんなゴミみたいな日々の俺の太陽。 ニキ。
あいつはいつも眩しくて…なんて。俺はいつから詩人になってしまったのだろうか。 少し鳥が鳴き出した。嫌でも朝を実感する。締め切ったカーテンから、 朝日が差し出した頃。俺は まだ起きない恋人を待たず パンを口に運んだ 。 彼とでは無い食事は、相も変わらず味がしないな。美味しくも無いものを口に入れたくは無いから、 机の上に置いて。目が霞む。まだ眠かったっけな 。
五感が薄れているのだろうか。妙にふわりとした感覚に襲われている。 なんて、ぼーっとしていると 時計は昼の12時を指した。時の流れとはこんなにも早いものだったか、と。いや、彼との時間はいつもあっという間だった。でも、今は寝ているはずなのに何故早いのだろう。そんなことは、どうでもいいか。 とか何とか、小さい欠伸をしつつ考える。その時、なにかに頬を叩かれたような感覚がして、俺の視界は晴れた
鮮明になった頭であたりを見回した。
部屋はこんなに汚かっただろうか。腐ったような匂いが蔓延っている。体が重い。頭も手首も酷く痛い。 嫌な匂いのする方へ、嫌な予感がしつつ向かった。
… ガチャ。 そんな静かな音を鳴らしてドアを開ける、そこにあったのは寝ている恋人。いつ起きるのだろうか。いや、分かっている。彼が二度と起きないことを。
。分かっているはずなのに、俺は本能的に現実から目を逸らしていたのだろう。目の前で倒れる黒髪の彼。それが瞼の裏に擦り着いている
そもそも、なんでこの人は死んでいるのだろう。。嗚呼、そうだ。彼に急に別れよう、そう言われて。悲しそうに笑っていたな。あの時の俺はそんなの気にしてられなかったけれど。また、死体から目を背けて部屋を見渡す。
。これは、だれだ。人が死んでいる。
頭が痛い。 何も分からない
サイレンの音が響く。 通報したから。
なんで、俺の家で知らない人が死んでいるんだ
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「 待ってください、 先生。 ぼびー が、 ぼびー が 若年性認知症 、? 」
「 ならいつか、 俺のことも忘れちゃうんですか !? 、」
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ぼびーが認知症になった。 まだ、20代だと言うのに。 男同士で付き合えた。こんな幸運に対する代償だとでも言うのだろうか。それにしてはデカすぎる気がする。
物忘れも酷く、たまに俺のことも忘れてしまう。 どれだけぼびーの介護生活になっても、俺は離れる気なんてサラサラなかった。でも いつか、 認知症が進行してきて ぼびーの記憶から俺がほとんど消え始めた頃。
ぼびーが苦しそうに言った。 いつものぼや、っとした話し方ではなく、ハッキリとしていた。そこには久しぶりにぼびー、白井裕太を感じた。
「 次、 俺がお前ん事 忘れたら 別れてくれ、笑 」
そんなことを言われてしまったからには、断れなくて。次の日 、 ぼびーは 俺の事を忘れた。きっともう思い出してくれないんだろう。だから俺は言った。悲しさも、悔しさも全部飲み込んで
「 別れよ、笑 」
ぼびーは、目を見開いたと思ったら 俺にナイフを向けてきた。 あぁ、良かった。愛されてたんだね。
ぼびーから簡単にナイフを奪い、俺は自分の腹を自分で刺した。元々死ぬつもりだった。なら、 愛されていたとしれた今。 この世に未練は何もないんだ。大丈夫、ぼびーは捕まらない。
「若年性認知症者の介護に苦しんだ末自殺」
きっとそうなるはずだから。俺のことも、この事件も。全て忘れてね。ぼびー。
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「 白井 さ ー ん、散歩 行きましょ ! 」
「 ん、 あぁ、 はー い 」
結局のところ、何も分からない。俺は若年性認知症という病気らしく、記憶が曖昧だ。それでも施設でまあまあ楽しく暮らせている。施設に、来る前の記憶はほとんどないけれど。少しずつ回復に向かっている。でも、本当に、施設に来る前の記憶は何もない。聞く気もない。
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「 ちょ、俺まだ 準備出来て へん っすよ に … き …、? 」
不意に、 誰かの名前が口に出た。
胸が締め付けられるような感覚がした
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コメント
3件
ええ感動すぎます😭 頭の片隅にはやっぱりにきくんがいたんだね😭😭
襲い受けを書く予定だったんですけど…?