L side.
私は知らなかった。
あの日、運命の人に出会えることを。
いや、運命ではなく必然なのかもしれない。
私たちの出会いは。
ざーっざーっ!と強く雨が打ちつける中、私たちは学校へと向かう。
まあ、これでも高校生だ。
さすがに単位のためにも友達のためにも学校には行く。
行きたくない理由もないし、行きたい理由もない。
でも、単位と友達のためだけに学校へと通うのは、何か足りない気がして、痛かった。
あの、痛バとかの痛いじゃないよ。
なんていうか、私は他の子と同じように同じことを楽しめてるのかな?って。
不安になる。
不安で押しつぶされそうになる。
でもその感覚を楽しんでいるような、余しているような。
そんな自分が、心の底から憎たらしい。
嫌いなだけじゃなくて、憎たらしい。
憎くて憎くて、仕方がない。
いつのまにか雨は止んでいる。
私を励ましてるの──なんて一瞬も思わなかったが、それくらい希望を見れるようになりたい。
もう傘をさす必要はない。
でも、なぜかたたみたくない。
この傘は、雨だけでなく他の何かも遮ってくれる気がして。
なんとなく、なんとなく。
自分から何かを守ってくれるような。
意識の高い奴が書いたポエムみたいなこと考えてんじゃん、
なんて思う。
我ながらポエム書くのに向いてるのかもなー、なんて冗談を、1人で笑った。
正面玄関には、生徒がちらほらといる。
まだそこまでの人がいないのは、早い時間だからだろう。
仕方なし、と傘をたたみ、傘立てに立てる。
とんっ、と控えめな音を立て、傘が倒れそうになる──
と思いきや、傘立てに立てた状態でのことなので、当然、倒れはしない。
傘立ての構造からして、倒れるはずはない。
けど、視点を変えれば、倒れやすいのかもしれない。
傘と傘立ては、持ちつ持たれつの関係だなー、と呑気に考える。
それとともに、傘が羨ましく感じた。
理由はとても簡単。
私にはない、支えてもらうものがあるから。
傘立てに立てれば、傘は倒れない。
でも、私には傘立ての存在がない。
──傘立ての存在を、運命の人と言うならば。
私は喜んで、その人を「傘」として守り続けるし、愛し続ける。
そんな夢物語が叶うはずもないし、心から愛せる相手なんかできたこともない。
でも、夢をみることは大切、叶いますように、と考えてしまう自分もいた。
そしてその自分が、とてつもなくいじらしくて、恥ずかしくなった。
教室に入ると、既に来ている生徒は2人。
別に仲良くも仲悪くもない2人。
喧嘩もしないし、談笑もしない。
それ以上の関係になろうとは思わないし、なりたくない。
この中途半端な塩梅が、中途半端な私にはちょうど良い。
なんて考えつつ、少々時間があるため、課題を進めることにする。
課題を進める、と決めたはずなのに、なぜか手は動かない。
否、動かせなくなった。
なぜ?
答えはひとつ。
──ひとめぼれ。
ある一点、いや1人に、視線が釘付けになった。
ひとめぼれ、といっていいのだろうか。
教室の入り口から控えめにこちらを覗く「傘立て」は、その小さな口を開いた。
青 )…あのーっ、1−Bってここであってます、…?
恐々とそう問うと、今更恥ずかしそうに首筋をかく。
その仕草が、いやその存在が、全てが、自分を惹き込むような。
そんな感覚に陥った。
教室にいる他の2人は、無言で自分の作業を進める。
答える気はないようだ。
赤 )合ってますよ…、転校生ですか?
転校生なのか、聞いてみる。
これで転校生と言われたら、運命を感じるほかない。
青 )ぇえと、一応… 親が地元この辺なので、引っ越してきて。
少しばかり緊張したようすの「傘立て」。
いや、人を物と同等にしてはいけないな。
訂正。
私の、「運命の人」、否、「光」。
赤 )これからよろしく…! (微笑
そう言わざるを得なかった。
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コメント
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あたいこの話好き、! 結婚しとく?🫶