夜中、俺は飛び起きた。
「あっ゛……はあっ、はあっ…あれは、ゼパルさんだ……。」
体中冷や汗が流れ、荒い呼吸をする。
とても嫌な夢を見た。
いつの日の記憶が、また頭をよぎる。
ゼパルさんが呼吸も、拍動も止めて横たわる姿。
夢の中でも、かつての記憶の中でも、目の前にいる彼の手は悲しいほど冷たかった。
その感覚がまだ残っているかのように、俺の手は微かに震えている。
寂しい、悲しい、そんな閉じ込めていたはずの感情が溢れかえり、涙となってこぼれる。
「ううっ、ひぐっ……ひぅっ」
どれだけこらえようとしても、あの光景が頭から離れない。
もしまた俺の大切の人が目の前で事切れたら?
嫌だ。そんなの、絶対に嫌だ。
俺はそんな不安を消すために強くなってきたのに、それでも敵わない相手なら?
「いやだっ、もう、あんな思いはしたくない゛っっ……。」
体を丸め、布団に顔を擦り付ける。
怖い、怖くてしょうがない。
あの姿のゼパルさんも思い出したくないし、不安も消し去りたい。
でも、暴れる感情が、こびりついた記憶がそうさせない。
「こわい、こわいよぉ゛……ひぐっ、うぅっ」
「………レ、…ッルーレ、…フルーレ。」
「んっ゛」
少し、聞いたことのあるような声がして、恐る恐る顔をあげた。
「……ラト?」
「フルーレ、大丈夫ですか?寝れません?」
暗くて顔はよく見えないけど、心配そうな声で俺に問う。
「フルーレ、私は貴方の兄ですから…少し、話を聞かせてくれませんか?」
いつもならウザくて堪らない兄語りも、今は気にならなかった。
俺は前置きなんて忘れて話し始めた。
「……嫌の夢を見たんだ。ゼパルさんが死んじゃった日の夢。最近は見てなかったから、凄い動揺しちゃった……ごめん、」
なんで最後に謝ったかは、自分でも分からない。ただ、口から溢れてしまっただけ。
「謝らないでください。夢を見るのはフルーレのせいじゃありませんから。」
「……そこ?」
ラトの前だと調子が狂う。でも、それが案外いいのかもしれない。
「フルーレ、眠れそうですか?」
「いや、多分むり……。また一人になったら泣く、かも……。」
「そうですか。じゃあ、私が寝るまで一緒にいますよ。」
「えっ」
俺の布団をひっぺがし、その体を納める。
「フルーレ、少し端へ避けてください。」
「えっえぇ……ラト、これどういうこと?」
「どういう…って、兄である私が、弟と添い寝しようかと。」
「そ、添い寝……?」
「一人だと寝れないのでしょう?だったら、一緒に寝ればいいだけです。」
「……」
ラトが色々おかしいのはいつものことだ。今の俺には突っ込みられない。
「ほら、フルーレ。貴方も横になってください。」
既に俺のベッドに横になって、俺を待っているようだ。
一人になったら泣く、と言ったのは俺だ。珍しく俺は素直にラトの隣に寝っ転がってみた。
「おや、今日のフルーレは素直ですね。よしよし…私が傍にいますよ。」
「……ラトは、俺の前から居なくならない?」
何を聞いているのだろうか、俺は。
「ふふっ、大丈夫ですよ。フルーレを一人にはしませんから。勝手に居なくなるような人に見えますか?」
「見えるよ。ラトったら、身勝手なんだら。」
「そうですか?」
「そうだよ。……でも、ありがと。」
「いえいえ…兄として当然ですから。」
「もう、お前は俺の兄じゃないって、何回いえばぁ……。」
ポカポカとラトの体温で自然と体が暖まっていって、目蓋が重くなる。
あんな夢を見た後なのに、今日はぐっすり眠れそうだ。
「……フルーレ?」
「んん、おやすみ…ラト。」
「はい、おやすみなさい。フルーレ。」
そっと頭を撫でられた気もしたが、俺の意識はそこで途切れた。
今日の仕事は大変だった。
ここまで遅いと、さすがにラトくんもフルーレくんも寝ているだろう。
二人を起こさないように、静かに扉を開け、地下の部屋に入る。
「あれ、ラトくん?」
自分のベッドに行こうと通った彼のベッドには、誰もいなかった。
まさか、またどこかに行ったんじゃ。
そんな不安が頭をよぎるが、その心配は無かったらしい。
「……二人とも疲れてたのかな?こんなにぐっすり…ふふっ、いい夢を。」
もう一人のベッドに、仲つつまじく眠る二人の姿があったから。
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最高すぎますッッッ