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──だるい。面倒臭い──
実家の子供部屋でポテチを寝転びながら食べる俺──斉藤正吾は今日も今日とて、とある育成ゲームに毒されていた。
「こいつ、いつになったら進化すんだよ」
百万以上注ぎ込んだはずの、お気に入りのキャラクター。だが、どれだけ経っても進化する気配がない。
「はあ……あと一万か。よし、ママに頼も」
あと一万もすれば進化しそうな気がしたので、その場から立ち上がり、部屋を出る。
母親のいるリビングは一階、階段をゆっくりと下りていく。
「待ってろ、次こそは進化させてやる」
お気に入りのキャラクターが進化する光景を頭の中で描き、ウキウキで足を進める。が
「あっ────」
足を滑らせ、頭上から落下していく。
今年四十五にもなって、実家の子供部屋暮らし。職もなく、怠けてばかりの生活。
そんな生活を続けている内に、俺は駄目人間になってしまったのだろう。
それに気付いたのは、もう亡き者になったその瞬間の事だった。
◇◇◇◇
「どこだ?ここ」
気が付けば、正吾は何もない空間に一人、ぽつんと立ち尽くしている。
周りを見渡しても、勿論何もなくて、生きていくにも暇すぎる空間だろう。
こんな所に何故いるのか、正吾が頭を回転させていると、どこからか声が聞こえた。
「おい怠け者、貴様にチャンスをやろう」
声がしたのは頭上の方。
正吾が頭上を見上げると、頭の中ですぐにイメージできるほどの女神がいた。
確信的なことは何も聞いていないが、本能か何かで分かった気がする。
「チャンス?」
正吾が聞き返すと、女神は鳥の羽のように軽く短めな説明を始めた。
「貴様の哀れで怠惰な人生。見てて退屈であった。じゃから、今度は別の世界に転生して、私を退屈させないでくれということ」
「その頼みが貴様へのチャンス」
哀れで怠惰、正にその通りだろう。
こんな自分にも、ラノベのようなチャンスが舞い降りてきた。これ程までに幸せな事があるものか。
「……任せてください」
「次こそは、女神様を退屈させない。むしろ、夢中にさせる人生を描きます──!」
正吾の宣言。
人は改心しただけでこうも変われるのかと言いたくなるほどの変わりよう。
「言ったな?では、貴様があちらの世界でも生きていけるよう、ギフトとしてスキルをプレゼントしよう」
女神がそう言うと、上から沢山のステータスボードのようなものが降って、正吾の周りで渦を巻き始める。
「その中から一つだけ、好きなスキルを選ぶと良い」
「得たスキルはあちらの世界、所謂、異世界で相当役に立つそうじゃからの」
女神の司令通り、正吾は自分の好きな、というよりか、自分に役立ちそうなスキルを選び始める。
「……基礎能力上昇にするか?いや、やめておこう」
異世界転生と言えば、無双もの。
何か、無双できそうなスキルはないのか。
探し続けていると、とあるスキルを発見する。
「進化……?」
あの育成ゲームのように、キャラクターが強くなったりするあれだろうか。
「それくらい説明はいらんじゃろうに」
「進化、というのは人類が生きていくため、動物が生きていくため、姿を変え……」
「あー分かりました、ていうか分かってます」
つまり、自分の限界を迎えた時、更に強くなるための力のようなものだろう。
「じゃあ、これにします」
進化なら、色々な可能性がある。が、姿が変化するのは少し嫌な気もする。が、この姿の奴が何を言っても無駄なことだろう。
「承知した。では、これから貴様を異世界に転生させる」
「スキルは同時に授けるから、心配しないで良かろう」
女神がそう言うと、優しく微笑む。
「貴様の人生、楽しみにしておるぞ──」
女神が放った次の瞬間、光が正吾を包み込んだ。