類司(類が若干闇、司が非常にメンヘラ)
〈設定〉
白百合→天馬司(王子)、花里みのり(司の使い、天使)、星乃一歌(司の婚約者(お互い好意はない)
黒百合→神代類(王子)、望月穂波(類の使い)、日野森雫(類の婚約者(お互いあまり好意はない)、東雲彰人(雫の使い、騎士)
あまり考えなくても読めると思います🙌
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「もう行かれますか?」
「ああ。よろしく頼む、花里」
真っ白い羽に、黒いコートを着て乗る。
花里はその羽を元気にはばたかせた。
「無事にお帰りさなってくださいね、司さん。」
「…どうだろうな、」
優しい顔でそう言ってくれている一歌に、少し罪悪感が湧く。
今日でたぶん、終わり。
「あれ、お二人方、お別れのキスはしないんですか?」
「……え?」
「…は、?」
突然の花里の発言に、時が止まる。
「わ、わたし、何か言ってはいけないことを言ってしまった気が…………!!」
そうだぞ。オレと一歌の前では禁句だぞ、それ。
いや、でも花里はまだ知らないのか、オレ達の事情を。
「い、いや、いいんだ。花里は仕方ない」
「そう、ですね。言っていなかった私達が悪いので…」
少し、というか相当気まずい空気になってしまった。
「その、オレ達、婚約者という関係ではあるが、お互いを恋愛対象として見てはないからな?」
オレがそう言うと、花里は急いでこちらを振り向いた。
「えっ、そうなんですかっ!?た、大変失礼しました!!!」
「ただの仲がいい幼馴染っていう認識だから…ね」
一歌も苦笑して言葉を付け足す。
「…む、そろそろ行かねばならんぞ。人が少ないのはこの時間帯までだ。」
「そうですね!夜にパレードがあると聞いていますし…」
「では行きましょう!一歌ちゃん、司さんのことは任せて!!」
花里がいかにも「任せろ!」という顔で言うものだから、一歌も嬉しそうに笑った。
「うん、任せたよ、みのり」
「…では、行ってくる!!!」
オレがそう言うと、花里は空に向かって思いっ切り飛び立った。
全く、このオレを乗せているというのに、頑丈な翼だな。
さて、まだ間に合うだろうか。
〜〜〜
「っと、着きました!ここが─」
「…奇妙な臭いがすると思ったら」
「あら〜、素敵なお客さんだわ」
「…お前達は、」
「あら、そんなに怯えないで頂戴」
「私は、黒百合の王子の婚約者、日野森雫よ」
女は華麗に口を動かす。
「類の婚約者…、ゔっ、はあ、、」
考えたら考えるだけ、吐き気がオレを襲った。
違う、類はオレので、オレは類のなんだ。やめてくれ、早く殺してしまいたい。
「つ、司さん!!どうしよう、わたし…」
「…なんで王子の隣にいるのに、何もできねえんだ?」
「王子を助けることもできねーなら、処刑されるべきじゃねーの?」
「ひっ……」
「こら、彰人くん、天使さんを怖がらせてはいけないわ。」
「あんたが言えますかねえ…」
「い、や…嫌だ、死んでくれ…頼む」
苦しい、自分がこんなに妬みたがりだとは思っていなかった。
大丈夫、大丈夫だ。類はオレのことを、ちゃんと、ちゃんと。
「はあ、こいつもうるせーのかよ」
「おいお前、用があるならさっさと済ませて、早く帰れ」
頭を掴まれた気がした。痛い気がした。頭がぼやける。ハッキリしない。
用?類、類のところに行かないと。そうだ。オレは類に会いに行くために─
「そう、だな。そう、そうする。だから、」
「さっさと、ここを通してくれないか、」
「…は?」
「花里はもう、帰っていいぞ。危険だからな。」
段々と、呼吸が落ち着いてくる。
「えっ、でも─」
「……はい、承知いたしました。王子。」
花里は何かを感じ取ったように、光の速さで国に戻っていった。
「うむ、これでいてオレの使いだ。」
「やはり、花里は他の奴と違って、主に従順だな。」
「ここを通らなければいけないということは、王子に用があるのね?」
「悪いけれど、王子は今眠っているわ。誰かしらの病のせいでね。」
「ああ。重々承知だ。なんせ、その為に来たんだからな」
「それに、その病とやらは、類のせいなんじゃないのか?」
「お前、王子に失礼だぞ…!」
「…黒百合の者は皆、上に従順だと聞いた。」
「だが、従いすぎても、主のことをよく知れんぞ。」
類は昔からずっと、自分が嫌いと言っていた。
最近に至っては、ときどき自殺行為をしている。
今回もきっとそうだろう。
「それに、オレは強い。あまり舐めていると─」
「痛い目に遭うぞ?」
オレは類の婚約者という、憎い女の首を狙った。
「い”ッ…」
ナイフから黒い血が、一滴、また一滴と落ちる。
「日野森さん!!」
「クソッ、どうすりゃ…」
「ほら、どうした?何故、王子の婚約者が隣にいるというのに何もできないんだ?」
「そんなこともできないなら、処刑されるべきなのではないのか?」
「おまっ、ちょっと待て!!」
「オレはもう行くぞ。」
「愛する王子が待ってるからな!」
自分でも、言われた方はかなり腹が立つと思った。
けれど、それ以上に
類のことを守れない無能がこの世に存在していることに、腹が立っていた。
〜〜〜
「つ、司さん、!?」
類の部屋の前で、幼馴染が見張りをしていた。
「おっと、久しい顔だな。穂波。」
穂波とは、小さい頃よく遊んでいた仲だ。
だが親の血がオレ達とは違って、黒百合の血だった。
百合の国が白黒に分裂してからは、もう会っていない。
「こ、こちらこそ、お久しぶりです、」
「えっと、王子に用…ですか?」
相変わらず内気だなと思う。
「ああ。見舞いをしに、な。」
オレがそう言うと、少し暗い雰囲気になった。
「…敵国だというのに、お人好し、ですね。司王子。」
どうやら、白百合と黒百合が仲良くするのを拒んでいるそう。
「敵だと思っているのはそっちだけだぞ?」
「此方はただ、もとの百合の国に戻そうとしているだけなのに。」
オレがそう言うと、穂波は少し寂しそうにした。
いつになっても、感情が理解りづらい表情をしていると思う。
「そう、ですか。」
「話が逸れましたね。えっと、王子の部屋、入ってはいけないんです。」
「どういうことだ?」
「張り紙、してあるじゃないですか」
穂波はそうドアに貼ってある紙を指差した。
そこには「部屋には入らないでくれ」とだけ書いてある。
馬鹿らしくて、思わずふざけているのかと内心笑ってしまう。
普通、主が病に冒されていたら看病するだろう。
「ノックをしても返事が無く、生存確認をしたんですが」
「流石に失礼だと思い、今は部屋に誰もいません」
「いや、流石に失礼でも入るだろ…」
こればっかりは自分が正しいと思った。
やはり、黒百合の住人は主に従順すぎないか。
「でもオレは入らせてもらうぞ。」
1歩前に出ると、穂波は慌ててこう言った。
「えっ、だ、駄目です!王子に失礼です!!」
「オレは許可を得ているんだ。いつでも部屋に入っていいとな」
「誰にです!」
「類にだ」
「ゔ、じっ、じゃあいいです…」
「負けました」とでも言うように、穂波はドアを静かに開けた。
〜〜〜
「…類、起きてるか?」
コートを椅子にかけ、ベッドに座る。
声を掛けても、微動だにしなかった。
類の机には、病の原因らしき薬が置いてあった。
近くにフラスコや花が置いてあったので、きっと類が作ったのだと思われる。
「お前、いつになったら起きるんだ?」
「類がいないと、暇なんだ」
類の手を握る。冷たかった。黒百合の毒は皮膚にも通っているので、
多少チクチクして痺れたが、あまり気にならなかった。
いつも触っているから、慣れたのかもしれんな。
「いつも…」
寂しくなる。このまま類が起きなかったら、もし類が死んでしまったら、
そうネガティブなことを考えてしまう自分が嫌で嫌で、どうしようもなかった。
類の胸に手を当てた。ああ。ちゃんと動いている。
少し安心した。が、それでもまだ寂しくて、類を思いっ切り抱きしめた。
類の綺麗な瞳が見たい。類の優しい声が聞きたい。
類のあたたかい手で、撫でてほしい。
「そう、だ。オレが、治してあげれば…」
阿呆な考えに至る。でも、不可能ではない。
白百合には、治癒効果がある。類にキスをすれば、明日にはきっとピンピンしてるはず。
でも、その代わり、その交換条件として、
オレは黒百合の毒で死ぬ。
まあ、類に命を捧げるなんて、安いもの。
でもオレが死んだら、類は寂しいと思った。
「…お前が今まで散々、オレが寂しくなるようなことをしてきたお返し、ということでどうだろうか」
「類だって、オレが死んでもすぐ追ってくるだろう」
「オレ以外に、誰も止めてくれる人がいないからな」
オレは、死にたくてもすぐ見つかってしまう。ずっと使いが見張っているから。
オレが命令をしたって、自分の意見を貫く。厄介に頑固な使いだ。
「類、お前と出会ってから、オレはずっと楽しかった。」
「危なっかしい毎日だったが、いつだってお互いを守っていたな」
「きっと、一緒にいることが生き甲斐なんだろう。」
そんな毎日も、今日で終わりだ。
類の頬に手を当てて、自分の服を少し乱れさす。まるで、そういうことをしているように。
「お前が今も起きていたら、オレは、そういう、えっちなことだって、したかった」
我慢できなくなって、涙が溢れてくる。本当は死にたくない。類を置いて死ぬなんてできない。
類と心中したかった。一緒に死にたかった。
でも、好きな人をこの手で殺すなんて、できないから。
「…好き、大好き、愛してる、ずっと、ずっと愛してる、ごめんなさい、不器用で、こんな愛し方しかできなくて、ごめん、」
「愛してる、っ愛してるぞ、類」
ゆっくりと顔を近づけ、唇を擦り合う。嬉しかった。でもやっぱり、少し痛かった。
それから、舌を少し絡めてみた。あたたかい。気持ちいい。頬に涙が流れた。
息を吸うために、口を離した。
「はあ、っはぁ、」
「苦い、な…」
「でも、少し甘いかも」
暑くて、羽織を脱いだら、少し変なものに気がついた。
「…背中に、茎がある?」
鏡で見てみると、本当に生えていた。
黒百合の茎らしきものが、心臓の裏側に。
ここで、最悪な考えをしてしまう。
「このまま生えてきたら、オレは…死ぬ?」
そういえば、昔、本で読んだ気がする。
黒百合が体から生えて、最終的に心臓を突き破る。
類の黒百合に殺されるなら、別に嫌ではなかった。
「怖いなあ」
そう呟いた瞬間、右目に激痛が走った。
黒百合が眼球を突き破ったのだ。
「…ッあ””!!? 」
鏡を見ると、右目から綺麗な黒百合が生えていた。
「くらくら、する」
今にも倒れてしまいそうなとき、声が聞こえた。
「…つかさ、くん」
「え、っる、い、、るい、?」
己の耳を疑った。
今、類の声がしたんだ。
「司、くん、ごめん、ごめんね、」
類はオレを優しく抱きしめてくれた。
本当に、類が起きて、いる。
「類の、ばかたれ。」
「類のせいで、オレはこんなに、醜い姿になって、」
「その姿も美しいよ」
「本当に、綺麗」
皮肉に聞こえるだろうが、嬉しかった。
類に認めてもらえた気がして。
「ふっ、まあな!」
本当は、こんな元気なんてない。
けれど、類に心配をかけたくなくて、つい笑顔を偽ってしまう。
「ねえ、司くん。キスしていい?」
類に髪を結んでいたリボンを解かれる。寂しそうで、少し怒っていて、でも嬉しそうな顔だ。
小さく頷くと、類はオレの背中を持ち上げ、優しく唇をくっつけた。類に体を委ねる。
この幸せな時間に浸っていられるのもそう長くはなく、類が口を離しこう言った。
「司くんの黒百合、また増えてる」
「…え?」
理解する暇もなく、黒百合が心臓を穿いた。
「かはッ”…!!?」
口から出てきたのは、見慣れた赤い血ではなく、真っ黒に染まった血だった。
類は目を丸くしていた。まさか、生えてきた黒百合が心臓を突き破ってきたなんて、流石の類でも思いもしなかったのだろう。
オレ、死んじゃうかも。そう呟いたとて、類は口をポカンと開けたまま、一言も喋らない。
ただシーツが真っ黒に染まるばかり。そこで類がやっと言葉を発した。
「つか、さ…くん」
じわじわと痛みが強まっていく。もう鼓膜が機能していない。視界も眩んでいる。喉も動かない。
類の声が聞こえないのが悲しくて、でも最後に聞けた言葉が「司くん」で少し嬉しくて、寂しくて。力を抜き、これでもう終わりなんだとすべてを悟っていると、類は何かを掴んでいた。
何か喋っているようだったが、何も聞こえない。口の動きで解読してみる。
ぼく、い、う、?いや、く、かもしれん…??…全くわからん!
そろそろ意識が途切れる。というところで、類は何かをした。
何かが飛び跳ねてくる。何かが落ちる。何かが自分に触れる。
最後に唇に触れた“何か”は、とても冷たかった。
コメント
4件
さてはこれ…メリバか(大歓喜) そう言うの大好きだ(ハンス)
儚いのもいいな...🥲