これは、私が実際に夢で見た話。
私には時折、夢の中で経験した人物と心が一致し、彼や彼女の心のまま起きる。
だとすると、朝私が目を覚ます景色は、彼らの生活するそれじゃない訳ですから、心は入り乱れ、自分を取り戻すのに精一杯なのです。
何かの病気、なのでしょうか。
では本題へ入りましょう。
この物語は昭和、とも、平成、とも、なんとも言えない世界線がごみくちゃに混ざり合った世界線となっております。
気持ち悪いと思うかもしれませんが、そこはどうぞご理解願いたい。
それでは、どうぞ。
「お会計ーー円でーす。」
定員の元気ない声が耳で反響し、呆然と意識を飛ばしていた一点の景色から目を覚ます。
今の自分はなんとも言えない奇妙な格好をしていた。
「作家は変わっている」とは言えども、甚平に灰色パーカーはどうにも合わないだろう。
買った握り飯を片手に、私は通付けのゲームセンターへと足を運んだ。
そこは大通りのすぐそばにある神社、その裏手に隠れるようにして建っていたもので、来るのはせいぜい近所のガキ共だけだった。
白い袋を片腕に下げながら店内へと入ると、先程例に挙げた奴らの視線を仰ぐ。
そんなのはどうでもいい。
入った手前には使えなくなったクレーンゲーム、使用不可能なガチャガチャなどが置いてあった。
奥へと進めばおとなが楽しむパチンコ台やビリヤードなどがズラリと並んでいた。
普通に並ぶのではなく、一台一台床に付属するように陳列して、、、だが。
立った左手前の台は、ぐしゃりとコインが撒き散らされていた。
そこに敢えて座る。
この静かな空間が、なんとも心を落ち着かせる。
パーカーのフードを深く深く被りながら、暗闇と化した視界に眼を塞ぐ。
さっき食べた握り飯の味が程よく残っており、数回、口をもごもごと動かしてみた。
空間に溜息をつき、散乱していた誰のコインとも知らないもので台を回そうと手を伸ばす。
ガシッ
「また人のコインで遊ぶ気か?」
腕を掴んだ正体を知るため、右上へと視線を上げると、長身の男が1人こちらを見下ろし立っていた。
その目は不服そうにも、悲しそうにも捉えられ、やがて私の中では面倒に変わっていく。
「何、離して」
「人のコインで得る金は美味いか?」
尚、コイツに関しては初対面ではなく、保育園からの幼馴染で同じ小説家だ。
しかし彼は私とは正反対…いや、私がとは比べものにならない程成人的に生きている人間だ。
働き、食べ、寝て、合間で小説を書く。
人と触れ合うのが好きな部類である。
彼の声に面倒が降り積もり、やがて限界を突破して腕を振り払った。
驚いた顔をするも、諦めたことに喜びを感じたのかすぐ不適な笑みを浮かべた。
「今度からもやるんじゃないぞ」
子供扱い、過保護、と打てば彼が変換に出てくるぐらいのそれに、呆れてため息も付けない。
「そういえば、今日は花火大会らしいじゃないか。お前も見に行ってきたらどうだ?」
茶色の帽子を深く被り歩く背中に着き、パーカーのフードを浅くかぶる。
「花火には興味がない。爆弾を見る暇があれば、上の神社へ参りにいく」
「お前が参りに?そりゃ滑稽だ」
彼は私が神社へ参ったことがないことを幼少期に馬鹿にしていたことがあった。
正論を並べ続ける彼にとって、あまり印象に残る過去ではないだろうが私は覚えている。
しかし、憎んではいない。
「今日も塾講師のバイトか?」
袋に数個、まだ残った握り飯を口に含んで言う。
数刻の間、彼と他愛無い話を続けた。
この鳥居前と歩道橋の間は道路からは確実に死角となり、誰からも見ることはできない。
おまけにここは常に人通り少ないがときた。
彼は口を開かず、こくりと頭を下げる。
「…なぁ、ーーー。」
名前が思い出せない。
名前を呼ばれたことに反応したのは分かるけれども、文字が見出せないんだ。
私は彼を見る。彼も私を見る。
「好きだ。」の3文字が聞こえるまでは。
複雑な気持ちになった。
まるで彼が私であるかのように、複雑で、気持ち悪くて、けれど嬉しくて。
叶わぬ恋なのだと、諦めて欲しいとその顔にぶつけてやりたかったが、
悲しそうな顔をしている彼には無理だった。
「…少し、考えさせてくれ、」
言う途端に走り出していた。
その場にいたくなかった。
私は夢の中で、彼の中で、本当に好きな人を思い浮かべていた。
浮かべて、助けに来てくれないかと、必死に、何度も切に願ったが、夢は夢でなく私の願いを聞いてはくれなかった。
道路沿いを走って、やがて息が切れる。
被っていたかったフードはいつの間にか外れ、長い髪の毛が顕になって視界に映り込んでいた。
こんな姿を、他の友人に見られたくない。
友人なんて限られた数しかいないのに、道路沿いを走っていれば不特定多数の視線を感じる。
こんな場所で何をしているんだと、訴えかけられているような圧を、体全体に浴びる。
誰か助けてくれと、夢から覚ましてくれと。
体が酷く重たく感じた。
呼吸を整えるため歩いていると、場面不足なのかまたあの神社が見えて来た。
彼の姿はもうない。
息を吐き、物珍しいことに鳥居に足をかけてみた。
鳥居の奥には更に景色が進んでおり、管理が行き届いていないのか枯れ草や枯れ木などが石畳を基準に一列に並んでいた。
規則性あるその景色を無視し、端から端までざっくり歩いてみると拝殿を支えるはずの大きな木の柱が見えた。
この神社は不思議なことに、中身がない。
賽銭箱もないし、拝殿すらない。
しかし土台があるため、観光名所みたいな休憩場所と化している状態だった。
毎晩ゲームセンターから帰る最中、鳥居を潜り足を進める彼は何をしていたのだろうか。
土台端に男性を持ち上げた女性の姿があった。
学生服を着ている為か、何やら意識を失った様子で運ばれているものに気がつく。
興味本位で横にあった石階段を即座に登り、その様子をじっと見ていれば肩を突かれる。
「こ、こんな場所で何してるんですか?」
1人の若娘だった。
全く時代設計がなっていないこの夢は、人に着せるものが定まっていないらしい。
彼女は某人気アニメのサザ〇さんならぬ髪型をし、着物を着ていた。
化粧を塗った肌に高揚を見せる姿は、多分私に向けられたものなのだろう。
どうしたものか。
「私のことはお構いな…」
「あの、宜しければ今からお茶でもご一緒しませんか?」
時刻は夕暮れ時。
お茶に誘うにはあまりにも遅すぎる。
「すみませんが、遠慮いた…」
「ではお買い物にでも…!」
腕をぐいぐいと引っ張られる。
何をすれば苦行に苦行を重ねられるほど不幸なことが積み重なるのか分からなかった。
呆れて溜息をつき、ふと前に視線を戻すと先程の2人はいなくなっていることに気がつく。
怪しすぎる2人組を逃してしまったことに対する悔しさと後ろで嘆き続ける娘に苛立ちを覚える。
そして、ついに言ってやったのだ。
「私は女性に興味がない!」
えんえんと泣き続けるものだから、無性に腹が立ち腹の底から限界が来たのだ、仕方ない。
しかしこれが逆手となったのだ。
「じゃあ男性になら興味あるのか?」
若娘の後ろから低い声が聞こえると同時に、今だけは絶対に会いたくなかった彼が姿を現した。
夕暮れの逆光で顔が黒く染まり見えない。
しかし、口ぶりから口角が上がっているのだけは分かるそれにまた苛立つ。
「そうは言っていない」
「そう取れたのだがな」
おかしいなと顎に手をする彼。
彼を見ているとどうにも落ち着かない。
その場からいち早く退散しようとそっぽ向いてやると、後ろから腕を掴まれる。
「離せ」
「返事」
苛立ちが募る。
「時間をくれと言っただろう」
「またゲーセン行くつもり?」
私が向いている方向的では確かにそう見えるだろうが、今回は違う。
「帰るんだ」
「家に?」
「それ以外に何がある」
まさか野宿しているとでも思っていたのだろうか。
「…花火見ない?」
グイと力強く後ろへ引っ張られ、そのまま体制を崩して大きくよろける。
後ろから頭を打たないようにと優しく脇の下に手を入れ、持ち上げてくれる彼。
それらの行為がいちいち鼻につく。
しかし体は彼のもので、私のものではない。
ドキドキと煩くなる心臓は夢主である私のものではないと再度確認させられる場面だった。
「は、…なび?」
体を持たれたせいで後ろにいた彼と顔の距離が近ずいてしまう。抵抗すら出来ない。
焦った私は、2つ着いたその瞳を交互に見ておどおどと聞き返してみた。
彼はにこりと笑った。
「そう、花火」
彼に連れられ、先程私が見学していた学生たちがいた土台へと登る。
するとドタンと大きな音が響き、何か何かと見てみれば複数の家屋の隙間から小さく見える花火があった。
彼が言うには終了の時間帯に差し迫っているから、もう少し早めに見せたかったんだけど…と口篭った言い方をしていたが、彼なりの準備があったらしい。
それにしては私自身の気持ち、彼の気持ちを準備する時間を無視して連れて来られましたがと心の中で思いながらも蓋を閉じた。
「私は、花火は嫌いじゃない」
「え?」
彼の疑問に、考えたことがそのまま口に出てしまっていたことに気がつき赤面する。
流石に恥ずかしい。
「花火興味ないって言ってたよね?」
口調から、口角丸あがりな彼にいじられながらも瞳を閉じ無視し、遠くからの音に耳を澄ます。
ふと、腕からかけた袋に彼への握り飯を持って来ていたのだと思い出し手を突っ込む。
花火に見惚れていた私が急に動き出したものだから、横の彼も驚いた様子だった。
「はいこれ、渡しそびれていた」
「…なんで敢えて棒状なの、」
彼の為に、彼が買った物なのに頭を悩まされても私は知らない。
しかしリアルの世界で何度もそれ系のものを読んできた私にとって、彼がそれに頭を悩ますことはなんとなく理解出来た気がした。
渡したのはこちらだが、申し訳なくなって来たので「要らなければ私が食べる」とだけ言い花火を続行して見惚れた。
数秒後、ガサガサと外装を外す音だけが聞こえそれを渡してくる辺り彼は相当、この体の本人へ惚れているらしいとわかった。
「…厭らしいな、お前」
「う、うるせぇ!」
事を理解している私にとって、この体の本人はどう対処してくれるのだろうかと考えた。
が、こちらはモグモグと口を進め、相手は赤面する絵面しか考察出来なかった為、彼自身に体を預けるのはまだ早いと考えることにした。
ぱくりと一口齧ってみる。
「ん、うまい」
私の口元をじっと見つめる彼。
非常に食べづらいな。
「ん!?」
観察していた彼の口へと、ぐさりとそれを刺してやると驚いた顔をする彼。
自分はやるつもりが無かったらしい。
「食べ物で想像するな。欲求不満にも限度があると思うぞ私は。」
「ごめんって、」
口に入れられた分を静かに食べる彼。
そのあとは彼に譲ってみることにした。
ここまでが私が覚えている内容です。
途中から私が出て来たと思いますが、あれは私自身であり彼ではありません。
体の本人である彼を彼と表記し、恋人となる彼を彼と表記し分かりにくかった場面が多々あるでしょうがご了承願えたらと思います。
今度はどんな夢を見るんでしょうかね。
長文お疲れ様でした。
また次回の小説でお会いしましょう。
コメント
6件
なんか、不思議な夢だな... どっかの小説でありそう
ギリギリセンシティブではない!と断言します…、はい。 分からない箇所などありましたらお答えするのでお気軽にご相談下さい🙇