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そういえば、地下深い洞窟のはずだが、特に気温に変化はないようだ。
これも異空間だからだろうか。
魔物の種類も、昆虫のようなタイプが多い。
あとは、たまに洞窟の壁と同色のゴーレム。
大きいものから小さいものまで……小さいのはちょっとかわいい。
亜種と呼ばれるものも時折現れるが、今回の目的は別にある。
なので、素材ごと死体は、放置できるものは放置。
必要に応じて火葬される。
ちょっともったいないな……。
「――――ってことで、私は見返さなくちゃいけないの……ねぇ、ちゃんと聞いてた?」
あぁそういえば、プリンさんの長い身の上話の途中だった。
「ちゃんと聞いてましたよ……覚えてはないですけど」
多分耳には入ってたと思います。
脳に届いてたかは定かではありません。
「はぁ……これだから、素材の良さに胡坐かいてる女って嫌いなのよねぇ」
奇遇ですね。
僕もあまりペラペラ喋る女性は好きじゃないです。
メイさんとかだと不快感ないんだけどね。
不思議だ。
それと、一応訂正しておこう。
「というか僕、男ですからね?」
その言葉を聞いた途端、ピタッとプリンさんの足が止まる。
「……は?」
あんまり驚かれると、それはそれでショックなんですが……。
プリンさんは信じられないといった顔で、こちらの胸を触ってきた。
「この僅かな弾力……発育途上というよりは……胸筋?」
僅かとは失礼な。
これでも多少は鍛えてんだぞ。
「本当に男……今たしかBランクか……さらにスピード出世と考えたら今後それ以上にも……身長は同じぐらいか、ちょっと頼りなさそうだけど、顔は良いし……」
何やら一人でブツブツと言い始めた。
ゴルグとギードは、「あーあ……」とあきれ顔だ。
「あの……プリンさん? どうしました?」
様子を伺うと、突然プリンさんは膝を曲げ、姿勢を低くして胸を強調し、無理矢理上目遣いでこちらに甘く囁いてきた。
「……どう? お姉さんと良いことしない?」
目の前で堂々と罠を設置された気分だ。
オマケに、嫌いな食べ物を釣り餌に使われてるときた。
「残念ですが、そういうのは間に合ってます」
そう言って僕は、リズさんのほうを見る。
すると、さすがのプリンさんもそれ以上しつこく来ることはなかった。
「壊し屋リズリース……たしかに私じゃちょっと分が悪そうね」
ちょっと……?
随分と自己評価の高い人だ。
「なんだ? 私がどうかしたのか?」
名前が出たことでリズさんが反応する。
そして、プリンさんは不敵に微笑んだ。
おそらく、本人はちょっとした冗談だったであろう。
「ねぇ、良かったらエルリットを一晩貸してくれない?」
とんでもないことを言いだした。
ちょっと待って、僕はOKしてないよ。
変に誤解されないよね?
動揺する僕に対して、リズさんからは殺気が放たれる。
「たしかプリンといったな? 手足の4本ぐらいは覚悟してもらおうか」
ぐらいも何もそれ全部じゃん。
四肢もぐ気じゃん。
「ひッ……!」
殺気にあてられてしまったプリンさんは、その場に尻餅をつく。
「落ち着いてくださいリズさん。ここじゃ人目があるんで……」
とりあえずリズさんを宥めたつもりだが、なぜかゴルグとギードは武器に手をかけ、臨戦態勢になった。
なぜか僕のことまで警戒しているような……なんかおかしなこと言ったっけ?
「さすがに冗談だよ。本気でやるつもりなら、もうやってる」
そう言って、リズさんは殺気をしまい込んだ。
まぁ、そもそも本気なら僕には止められませんし。
それにしても、ゴルグとギードの二人は、プリンさんのために咄嗟に動ける辺り大したものだ。
二人の事、もっと見てあげればいいのに……。
……それはそれで結局三角関係になるのか。
マジカルプリンセス……難儀なパーティのようだ。
地下19階終着点。
この先にいる魔物対策のため、打ち合わせが行われた。
ここを下った先、地下20階にいる魔物は1体だけだが、巨大な岩のゴーレム亜種らしい。
だが何度砕いたところで再生する上に、ゴーレムの核となるコアも見つからないため苦戦しているとのこと。
(なんだか第2遺跡のスケルトンと似てるな……)
あの時は後方に本体が紛れてたが、今回はゴーレム1体だけ。
なので、基本的な作戦としては、エターナルの6人がゴーレムの相手。
そして他のパーティは、遊撃とコアの捜索。
「ゴーレムか、それなら我々金狼が足止め役を買って出てもいいが?」
カマスはゴーレムの亜種との戦闘経験もあるのだろう、自信があるようだ。
だが、アルベルトはそれを認めない。
「ゴーレムと言っても他の亜種とは違う。非常に頑丈だし……なにより素早い」
素早いゴーレムってあまり印象にないな。
岩だし鈍重なイメージだ。
実際道中のはそうだったし。
「Cランクの者は極力戦闘には参加せず、周辺の探索をお願いしたい。それと、月華のメンバーは一緒にゴーレムの相手を頼む」
月華はアルベルトからの信頼があるようだ。
Aランクの者もいるし、実はすごいパーティなのかもしれない。
そして金狼のメンバーは、カマス以外はCランク。
戦闘には参加しないのが無難だろう。
「Bランクの俺は、臨機応変に動いていいんだな?」
カマスはパーティではなく単独で動くつもりらしい。
「それは構わないが……くれぐれも無茶はしないでくれ」
そう言ったアルベルトの表情には、やや陰りが見えた。
戦闘はエターナルと月華が担当してくれるんだ。
僕は臨機応変に、周辺の探索に集中させてもらうよ。
「あ、でも飛行魔法を扱える者には、上空からの支援に期待したいかな」
いつの間にか、アルベルトは笑顔でこちらを見ていた。
臨機応変に支援しろってことね。
◇ ◇ ◇ ◇
地下20階のゴーレム戦は、思った以上に苦戦を強いられることとなった。
「くそッ! なんだこれは……硬すぎる!」
カマスは予想外の事態に直面する。
己の剣が、まったくゴーレムに通じなかったのだ。
「無理に前へ出るな! 一旦下がれ!」
アルベルトは大きな盾を持って、ゴーレムの攻撃を一手に引き受ける。
広く、そして高さのある洞窟内で、僕は飛翔し、上からゴーレムを観察する。
同じように、エターナルの黒いローブの女性も飛翔し、上空から氷の矢を放つ。
飛行魔法を扱える者は少ないと聞くが、さすがエターナルのメンバーといったところなのだろうか。
あとは月華のリーダーである、小柄なおかっぱ頭の少女も、上空からゴーレムを観察していた。
しかし飛ぶというよりは、見えない足場の上に立っているかのようだ。
それに……ひどく目が冷めてるというか、つまらなさそうに見てる気がする。
さて、問題のゴーレムだが。
もっとずんぐりむっくりしてるものだと思ってた。
道中現れた通常のゴーレムがそうだったからだ。
しかしこのゴーレムは思ったよりスタイリッシュで、人型兵器っぽくてちょっとかっこいい。
そしてかなり素早い。
10m程の図体で、俊敏に洞窟内を駆け回っている。
(じ、実は操縦席とかないよね?)
なんだか少年心をくすぐる容貌だ。
そう思った矢先、エターナルの連携でゴーレムの右腕が砕ける。
そこに月華の剣士が畳みかけ、左腕を切断した。
両腕を失ったゴーレムがバランスを崩したところに、アルベルトは盾ごと突進する。
ゴーレムの胴体は砕け、弾けた破片は飛び散っていく。
カマスはただ呆然と眺めていることしかできなかった。
「……ない」
上空で見えない床に立つ月華の少女は、手を筒状にしてゴーレムを覗きつつ、そうつぶやいた。
これは、隣にいる僕が相手をしてあげないといけないのか……。
「……ない?」
「うん……あれにコアはない」
少女はそう断定した。
「ゴーレムの体にはないってこと?」
だとしたら厄介だね。
周囲を隅々探索する必要性が出てくる。
「違う……コア自体を必要としてない」
必要としてない……?
じゃあどうやって再生を止めたら……。
「それって永久機関じゃ……」
僕がそう言うと、少女はこちらに何かを差し出した。
「ん、正解……あげる」
飴玉をもらった。