往生堂の客郷鍾離は、ファトゥス11位公子タルタリヤのことを好いていた。
そのことは鍾離自身も認識していた。
ただ、友人関係から恋人同士になる為の、あと一歩が踏み出そうとはしなかった。
なぜなら、鍾離はその関係を壊したくない、この関係で満足はしているからだった。
それに、彼が自分1人に縛られるべきではない、将来、横に立っているのは自分では無い彼に見合った良い女性であると、思い込んだ。
そんな二人が酒場に行った梅雨の日、その日は大雨だった。
静かな部屋なら雨音がうるさいぐらいで、窓には水滴がついていた。
「それで、テウセルがさぁ!」
と、タルタリヤが相変わらず、がばがば呑んで家族の長話をしている夜だった。
そして、その隣で酒を嗜んでいる鍾離はタルタリヤの長話を最初から最後まで、楽しそうにしっかり聞いていた。
時間がかなり経ち、10時半頃まできた時、公子の兄弟の長話がやっと終わった。
そのすっきりしたような彼から、思いも寄らない質問がきた。
「あ、先生前から気になってたんだけど、恋愛、どうなの?」
と、少しニヤつきながら小悪魔みたく問いかけてきた。
ふむ、と手を顎に当て、どう返そうかと考えてみると、1つ、なかなかいい事が思いついたので、試す事にした。
「逆に、公子殿はどうなんだ?其方から言ってくれれば答えよう。」
と、試すように投げかけた。
「いいけど、相手の名前は言わないよ。」
「ほぅ、相手はいるのか。」
「まぁ、ね。」
意外にもいるらしい、それに公子の顔が少し赤くなった気がした。
なんだか面白そうだと思ったが、
「これ以上はなし、弱味握られても、こっちにはメリットないからね。」
少し呆れたような口調で話した。
「お二人さん、もうそろそろ閉店ですよ。」
頭から店主の声が降ってきた。
もう閉店時間だったようだ、公子殿といる時間は何故か早く感じる。
「じゃあ、お会計いいかな。」
と、いつも通り公子が全て払ってくれたが、今日は持って来ていると話す隙もなかった。
彼もこの習慣に慣れているようだった。
それくらい忘れているのかと反省しつつ、店を後にした。
そして、外に出てると公子が
「鍾離先生の恋愛事情はまた今度聞くから、覚悟しておいてよ。」
彼から会うきっかけがまたできたと、心の奥がじわっと暖かくなっていると、雨がざぁざぁと降ってきた。
その日から何十年もたった頃
「…案外あの時嬉しかったぞ。」
「もしかしたら、告白できるきっかけなのではとも考えたな。」
あの時と同じような雨が降ってきた。
鍾離の声は周りには何も聞こえず、雨音だけが響いている。
そして、その鍾離の横には アヤックス、彼の本名が書かれた墓があった。
「公子殿は意地悪だな。」
いくつもの仲間の死を見て来た彼には特に仲間の時とあまり変わらなく、怒り、悲しみ、苦しさ、なにも感じられなかった。
「…今はまだ余裕があるはずなのだがな…」
「鍾離さん風邪、ひいちゃうよ」
往生堂の堂主、胡桃が何故か悲しそうな声で傘を渡してきた。
「まだまだ先は長いでしょ?貴方は」
「そんなことないぞ」
「えぇ?そうかな?」
なんだか物言いたげに聞いてきた。
「…ずるいよ私も仙人がよかったなー、なんちゃって。」
「ははっ、いつかそうなればいいな。」
「もう…なんで教えてくれなかったの…?」
途切れ途切れ涙を堪えながら抱きしめてきた。
「…もう、お前達は安全だ、天理もいないここではなにも起こらず平和に過ごせるだろう?」
「なんで…っ、なんで貴方様はっ…いつも、そんなにお一人で、っ抱え込むのですか…」
ついに泣き出してしまった胡桃は鍾離の肩を痛いくらいに掴んでいる。
「摩耗で忘れたのやもしれんな。」
「公子さんの事…ごめんなさい…っ」
まるで親しい誰かが死ぬくらいの声量で泣き出した。
「謝らなくて良い、俺は気に病んでない。」
「ごめんなさいっ…」
公子タルタリヤ、邪眼に精神を蝕まれ
「ねぇ俺の事殺さないで⁈」
「いやいやこっちの方が良いだろう!」
フリーナが公子の発言を否定する。
「だとしても先生可哀想じゃん‼︎」
「だ!か!ら!これ劇だよ!過保護な彼氏くんは黙っててくれ!」
フリーナが珍しく怒鳴った。
「あーぁ、もう涙出ないってー。でも化粧可愛いからいいけど〜。」
「流石に疲れたか」
何故か演者はゆっくり休んでいる。
コメント
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っ⁈まって下書き確認せずにとうこうしちゃった⁈