TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

鬼ヶ式うらが歩んできた人生は散々なものだった。…いや、正しくは純粋な人ではないのだから、人生と表すのもおかしな話だが。


鬼に惚れた母から産み落とされた自分はどうしようもなく「バケモノ」で、物心つく頃には既に自分は牢屋の中にいた。バケモノと交わった母は異端者として既に殺されたあとだった。こんな身に産んでくれた母を何度恨んだことだろう。何度夢であってくれと、自分は人間だと思おうとしただろう。しかし看守から受ける暴力がすぐに治ってしまうこの身が、自分がヒトではないことを何より表していた。国に仕える看守達は自分を飼い殺しにすることで鬼のことを探ろうとしたのだろう。真綿で首を絞める日々が続いた。それ以来国に仕える人間は苦手だ。



自分が嫌いだった。ろくに食事も与えられないのに死なない自分が。

世界が嫌いだった。半分ヒトではないというだけで理不尽に牙を剥いてくる世界が。



永遠に続く様に感じられたそんな生活も、13のときに実にあっけなく崩れ去った。


物心ついた頃から居た監獄を、怨霊の群れが襲ったのだ。半妖を虐める生活しかしていなかった彼らはあっさりと全滅した。そして崩れた建物の隙間から初めて月を見た。

血のように赤い、とても大きくどこか怪しい雰囲気の満月だった。


監獄が文字通り無くなってから、どうしたのかは正直あまり覚えていない。ただ、自身の中の「鬼」が疼き、気がついたらあんなに居た怨霊がいなくなっていた。

そこから先は宛もなく彷徨い、半妖であろうと襲いかかってくる怨霊をただひたすらに祓う生活を繰り返していた。少女はそれしか自分にできることを知らなかったから。

そうした日々の中で少女はいろいろな人間に出会った。自らの鬼を抑えていれば、初対面のただの人間に正体が感付かれることもなかった。そうして少女は社会を学び、また、外見だけで近寄ってくる人間を寄せ付けないために男装を覚えた。案外過ごしやすく気に入ってしまったのは誤算だったが。


そんな生活も5年たった頃だっただろうか、同業者に出会った。今の会社の社長であり、辻斬りと化していた自分にきちんとした祓い方を教えてくれた。この会社に所属する祓い屋は皆、政府公認の祓い屋になることが出来ない「訳アリ」であり、半分鬼の自分にとって初めてできた居心地の良い場所だった。



そしてさらに数年が経ち仕事にも慣れた頃、あの日と同じような赤い満月を見た。

それがあの子との出会いだった。


今回の仕事はいつもの怨霊退治と一味違い、「怨霊に憑かれた人間」が相手だった。しかも複数。どうもその怨霊に憑かれた人間達が集まって更に怨霊を呼び寄せようと企んでいるらしい。放っておくと大惨事になりかねないので、こうして私が対応に向かっている。

しかし話を聞いてから疑問に思っているのは「どうやって怨霊を呼び寄せようとしているのか」ということだ。陰陽術であれなんであれ、何かを呼び寄せたり術を使うには必ず代償が必要である。陰陽術の場合は自身の霊力を代償として発動させるものだが、怨霊に憑かれたとはいえ普通の人間は霊力を持っておらず、何を代償とする気なのかが引っかかっていた。

それも現場に着いたらすぐにわかることとなった。


人間だった。まだ15くらいだろうか。怨霊に憑かれた人間達に手荒く扱われたのか、小柄な少女はあちこちに傷を負っていた。順調に怨霊を倒し切る事が出来たと思ったらこれだ。胸糞悪いことこの上ない。かつて囚われていた昔の自分を見ているようで、見ていられなかった。

しかも、さらに最悪なことに、この少女は怨霊がやたらと寄ってくる体質であるようだった。このまま放っておくわけにもいかず、昔の自分と重なったのもあり自分の家で保護することにした。


それがおチビとの出会いだった。



どうも少女も中々に凄惨な人生を歩んできたようで、愛を与えられたことがなかったらしい。そんな少女が自分を助けてくれた人に心を許すのも時間の問題だった。そして助けた側としても、共に時間を過ごすうちに少女のことがとても愛おしく大切な存在となるのに時間はかからなかった。

そうして足りないパズルのピースを埋め合うように、どこか欠けた二人は怨霊蔓延る世界の片隅で息をする。





その後お互いが共依存し歪な愛情を抱くようになったのはまた別のお話。

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚