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「あれ、斗亜くん?起きるの早いね」
不意に声がしてその方を向くと、控えるようにのぞく樹さんがいた。
「おはようございます……」
昨夜のことを忘れられるわけがなく、少し気まづい気持ちが渦巻く。樹さんはいつもといたって変わらない態度でにこにこと笑いかけてくる。気にしているのは自分だけなのか、と意識させられてるような気になってそわそわしてたまらない。
「優太はまだ寝てるのか。斗亜くんは先にリビング行ってもいいよ」
部屋に入り込み、少し散らかっている部屋を片付け始める。やっぱり、どこをどう見てもいいお兄さんだ。
「僕も手伝います。優太と一緒にいたいので」
樹さんは、仲良しだね〜、とにっと笑う。わらった顔は兄弟そっくりで、微笑ましかった。
「あ、あと…昨日は…ごめんね。」
はっとして目線を向けるが、既に顔は背けられていた。樹さんもちゃんと覚えていたという安心感と、辛い思いをさせてしまったという罪悪感を感じた。
「僕も何も考えずにすみません。」
突然の事で互いが黙る。沈黙は今まで以上に静かで、それでも意識は手を逃れようとするかのごとく必死に動かす。
なにかできることはないか、と思考する。樹さんが僕のことを好きならば、何してくれるのが嬉しいだろうか。自惚れてる気分で少し恥ずかしい。
「あのさ、斗亜くん……もし、俺の事が嫌なら…さ……」
「え、嫌なんて—–」
「俺、家出るわ。」
……衝撃が走る。そこまでして自分のことを気遣ってくれるなんて、という思いと、人様の家庭を壊してしまうという思いが頭の中を暴れ回る。
「あ、ええ?だッダメです!そんなこと!!」
「いや、そろそろ一人暮らしした方がいいかなって……」
なんで?と言っているような顔を向けてくる。この人にいつ葛藤が消えたのかと困惑する。一体、どういう人生を歩んできたらこうなるのだろうか……。
「俺は全然いいよ?優太ももう大きくなったし」
「いや、そうじゃなくて……うぅ、あぁもう!」
「いッ樹さん!!僕とデートしましょうッ!!」
……
「へ?」
ああああああ!!何を言ってるんだ僕はーッ!!樹さんを誘惑したいとかそんなんじゃないけど…口が勝手にとか……じゃないけどッッ?!
「そ、それってどういう意図で……?」
「えっぁ?あ!違うんです!!変な下心とかはないんです!!あのあのッ……!!」
熱で真っ赤に染まった頬を両手で叩く。どう見られているか分からなくて目線を下にしてしまう。どうしよう……!!
「かッ考えといてください!いつでもOKです!」
「え?えッ?!」
「じゃッじゃあ!!」
そのまま勢いでドタバタと階段を降りていく。正直、自分のことを落ち着いた性格だと思っていたが、焦って逃げ出す自分をみて恥ずかしくなった。
行ってしまった……。嵐が去ったような感覚だった。家を出ると言っただけで、あんなに慌てて、やっぱり可愛い。それに、デートまで言われて今までにない幸せを噛み締めている。
「お顔真っ赤っかにして…可愛かったなぁ……。」
「誰が可愛かったの?」
「……うわぁッッッ?!?!」
不意に声がして大声をあげる。さっきのことで優太はぱっちりと目を覚ましてしまったようだ。
「誰が可愛いの?」
「え、いや……その……」
「……斗亜でしょ絶対。」
「ま、まぁそうなんだけど、変な意味じゃないから!!」
「ふーん……」
ジト目でこちらを見てくる。ほっぺをプクッと膨らませて、不服そうな表情だ。とても可愛い。
「あ!嫉妬してる〜?」
「…してないし。」
我が弟は今日も可愛い!と、思ったが、斗亜くんのあの反応を見ると浮気している気分になる。もしかして、俺ってショタコンだったりするのかな……。
「照れちゃって〜!あ、てかもう朝ごはん食べちゃう?斗亜くんも下行ったし。」
「うん。兄さん運んでって」
「?いいけどなんで?」
「乗り心地良さそうだから」
俺は車か……(´˙꒳˙ `)と、思いながらも優太を背中に乗せて部屋を出た。
「あ、樹、朝ごはん運んで〜」
リビングにつくなり母は、俺に手伝えを言ってきた。優太を背中からおろし、トーストを手に取り、机に置く。まだ出来たてのようで、バターの香ばしい匂いが俺の周りを覆った。幸福だ。
「いい匂い!やっぱ朝はパンに限るよ〜」
「ええ、兄さん日本人ならお米じゃない?」
「何言ってんの?朝はパン!夜がお米だよ?」
いやいや、一日中お米がいいよ!、と言い返される。いつも似た者兄弟と言われる俺たちだが、食の趣向はいつもこう異なる。
「えー、斗亜はどっち?」
優太が、斗亜くんに問いかける。リビングのソファーでくつろいでいた斗亜くんは少し驚いたように見てきた。
「ん……パン、かな」
「えー!斗亜もパンなの〜?」
優太は残念そうに発する。2対1の状況において、こうも活気的にいれるのは優太持ち前のコミュニケーション能力の良さからだろう。俺と斗亜くんはどちらとも愛想笑いだった。
「まぁ、斗亜がそういうならパンもいいかもしれないね……」
「え?俺は?」
「兄さんは主張弱いもん!」
ガーン……と頭の中で流れた。自覚はあるが、面と向かって言われると動じずにはいられない。2人は仲良いもんね……優太も俺より友達を優先してくる年になってきたか……。
「って、早く食べよ。冷めちゃう!!」
「お世話になりました。また、明日。」
『はーい!』
元々はお昼までいる予定だったみたいだけど、親からの連絡が来て帰ることになってしまった。斗亜くんの顔を見れなくなるのは寂しかったが、また会えるからよしとした。
「あー、斗亜帰っちゃった。宿題一緒にやろうと思ってたのに」
「じゃ、兄ちゃんが教えてあげるよ〜?数学なら任せて!」
「斗亜の方が教え上手なんだよな〜」
なんだかツンツンしてるなー。さすがに兄離れか……寂しい。
「あ、そういえば、優太。斗亜くんと連絡ってとってる?」
「え?まぁ、とってるけど……兄さんも欲しい?」
「そうそう。ちょっと話したいことあってね」
デートいつにするかを話し合いたいなんて口が裂けても言えない……。少し恥ずかしいけど、デートはしたい。
「いいよ。後で送るね」
「うん!ありがと。」
「デート、いつにする?……っと」
斗亜くんに初の連絡を送る。この待ち時間の緊張は今までにないくらいに幸福だった。気づけばスマホ以外に目を逸らせなくなる。
「あ!既読ついた。返信……くるかな」
そういえば、彼女がいた時もこんな感じだっただろうか。こんなわくわくはしてなかったけど、返信が楽しみだった記憶がある。結局、俺が振られて終わったしょっぱい思い出である。
「まあ、好きでもないのに付き合った俺が悪いのであって……」
そう自覚する度、自分の情けなさに打ちのめされる。なんなら優太の方が真っ直ぐな感じがする。弟に憧れてどうする。
「あ……」
【明日……とかだめですか?】
明日ッ?!と、思うが内心嬉しい。それに、駄目をひらながで打ってるところがなんとも可愛らしい。
【全然いいよ!お昼くらいでいいかな?】
【じゃあ、11:00にそちらに向かいます。どこかお店でお昼でも食べたいです……( ..)՞】
……可愛いッッ。顔文字可愛い。お昼食べたいって誘うの可愛い。もう全部可愛い。
って、こんなの駄目だ。いつか犯罪履歴になりそうな気がしてならない。落ち着け俺……!
【いいよ〜!楽しみにしてるね(´﹀`)】
斗亜くん、どんな気持ちで打ってるんだろう。妄想するだけでも楽しい……