気がつけば雪山にいた。
目の前には誰が住んでいるとも分からない居住地と呼べるかも分からない倉庫が仕切りに並ぶばかりで、他は辺り一面雪景色だった。
猛吹雪の中、倉庫方面から人が数名、こちらに歩いてくるのが見える。
「君は協力者?それとも裏切り者?」
彼の格好はさながら街中を歩いているような普通の格好で、けれど寒そうな仕草など一つも見せなかった。
ふと違和感を感じて自分の服装を見てみる。
不思議と、彼となんら変わりのない服装をしているのにも関わらず寒さを感じなかった。
「俺は…」
「まあ、ここじゃ何だしとりあえず行こう」
そう言って何個も並んでいる倉庫の一つ、中央に位置していた一番大きなものに向かって行く。
彼の背中に何人かの人間が無言で着いて行く様子に変な気持ち悪さを感じた。
彼らの後ろを歩いているうちに、雪の表面が体重をかけられたことにより凹んでいるのが目に入った。
もしかしたら自分がどこから進んできたのか分かるのではないか、なんて思いながら後ろを振り返るも、まっさらな雪が地面を覆い尽くしているだけだった。
薄い希望が軽く打ち砕かれた瞬間だった。
「ここが皆の居住地としている場所だ」
基本的には好きに使ってくれて構わないよ、と言う彼は大きく幅を取っていたソファへと腰を下ろす。
大きく幅を取っているといっても1人があんなに両手を広げ大々的に座れば他の人達が腰を据える場所がなくなってしまう。しかし、その様子に、誰も、何も言わなかった。
それどころか、女性2人が彼の脇部分へ座り、何度か肩を触られその手を跳ね除ける光景を目にするばかりだった。
注意するのも億劫なのだろうか。
「あ、食料ならそこのデカいのに聞けば教えてくれるから」
彼が自分の後方を指差す。
振り返ると、先程まで皆が背負っていた荷袋を全て担いだ大きな図体をした男性がいた。
あまりの大きさに見上げながら驚いてしまう。
「あ、それとさ」
彼がまた指をさそうと腕を動かした瞬間、倉庫内にあったブザーらしきものが大きく鳴り始める。
突然のことに自分の鼓動が早くなるのが分かる。けれど彼らは慣れたように先程の状態のまま変化を見せないでいた。
「ここではこの警報音は1日に一回の頻度でなる物だから大丈夫だよ」
いつの間にか自分の足元にあった小さな土台に座る端正な顔立ちの青年が説明をしてくれた。
彼はチャット型アプリをしているようで画面から一切目を離さず、器用に指を動かし続けている。
当然、自分を見向きすらしない。
「ああ”新人”、ソイツはやめとけ」
大層な態度を取る彼が言う。
「ソイツは最近越してきたばかりの”裏切り者”なんだ。近寄らない方が身の為だぞ〜…」
話す相手ではなく女性の方をやらしい目で見続ける彼に説得力が一切感じ取れなかった。
青年の横にしゃがみ込む。
驚いたような表情を向けられた気がしたけど、敢えてそれを見ることはしなかった。
青年の横に自分、そして大きな男性がしゃがむ。
皆が過ごす目の前の姿。
これが、彼らの普通の姿なのだろう。
また倉庫内に警報音が鳴り響く。
『侵入者ガオ見エニナリマシタ____』
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!