「あ……っ、う、ううん、大丈夫……」
奏多の顔が近くに来たことで驚いた私は慌てて少し距離を取りながら「大丈夫」と口にする。
「……そんな風には見えねぇけどな。まあ、そういうことにしといてやるよ。なあ稚菜、これから出掛けねぇ?」
「え?」
「昨日は陽向と居たんだろ? なら、今日は俺と過ごそうぜ? な?」
「な、んで……私と陽向が一緒に居たって、分かるの?」
奏多の言葉に驚いた私が何故と問い掛ける。
「だって昨日、陽向の部屋は電気消えてたから、稚菜の部屋に居たんだろ? 陽向」
考えてみれば、陽向の部屋の前を通るわけだから明かりが消えていれば居ないことは分かるし、陽向は夜遅くに出掛けたりしないから部屋に居ないのなら私の部屋に居るかもと思うのも普通のことだ。
「あ、う、うん……一緒にご飯食べて、そのまま、映画観てた……」
「やっぱりな。帰ってから俺も行こうかと思ったけど、昨日は疲れてたからさぁ、シャワー浴びてそのまますぐ寝ちまったんだよなぁ」
「そ、そっか……」
奏多のその言葉に、私は安堵する。
もし昨日奏多が訪ねて来たりしたら出られなかっただろうし、かと言って出ないのも不自然だし、何より、シャワーの後はすぐに眠ったという話を聞いたことで、陽向との行為が聞こえていなかったこと、知られる心配が無かったことに胸を撫で下ろしていた。
「っつー訳で、俺と過ごそうぜ?」
「う、うん。それじゃあちょっと待ってて。すぐに準備するから」
「上がっていい?」
「うん」
こうして私は出掛ける準備をするまでの間、奏多を部屋へ上げた。
奏多はまるで自分の部屋に居るかのように寛ぎながらテレビを観て、私が準備を終えるのを待っている。
正直あまり出掛ける気分にはならないのだけど、このまま一人で部屋に閉じこもっていても余計に考え込んでしまうだけだと思うから、奏多と居る方が気が紛れるかもしれない。
三十分程して用意を終えた私は奏多に声を掛けた。
「ごめんね奏多、お待たせ」
「いや、全然。じゃ、出掛けるか」
「うん」
どこに行くかを話し合いながら家を出た私たちは徒歩で駅へと向かって行く。
「ってか陽向、どこ行ったんだろうな。バイト以外で出掛けるなんて、滅多にねぇのに」
「そ、そうだね……」
「昨日何か言って無かったのか?」
「と、特には……」
「そっか。まあ、アイツにだって付き合いくらいあるよな」
「う、うん……」
陽向の話題を出されると、どうしても昨夜のことを思い出してしまうからなのか、ついつい狼狽えてしまう。
「……もしかして稚菜……陽向と何かあった?」
「え? な、何で……?」
陽向のことを話すと明らかに様子のおかしい私に気付いたらしい奏多は、遠慮がちにそう質問してきた。
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