コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「真依、ここ押してピッってなったら始まるからな」
「うん! 分かった!」
俺はビデオカメラを持ちながら大まかな説明を、隣りにいる女の子_真依にすると、真依は元気よく返事をした。
カメラを手渡すと真依は危なげに録画ボタンを押す。
_ピッ
「出来たぁ!」
「あぁ、出来たな。上手だ」
「えへへ。はじめまして、みねかわ まい です。よんさい です」
真依はそう言って、俺にカメラを向けたまま自己紹介をする。
「カメラ貸してみ。俺が真依の姿を撮ってやる」
ついでに、ちゃんとカメラが回ってるか、確認しておかねぇと。
「ううん! まいは さいごにとるから だいじょうぶ!」
「そうか……」
失敗したな。録画し始めてから渡せば良かったか。
……後で後ろから出来てるか確認しておこう。
そんな後悔を募らせていると、カメラを構えたままの真依が不機嫌そうに近寄って来た。
「お兄ちゃん、早く! じこしょうかい!」
「あぁ、分かった。俺は嶺川 秋良、天翔の総長だ。よろしく」
笑顔で軽く手を振ると、カメラを覗いてた真依が「フフンッ!」と得意げな顔をした。
フフンッってどんな笑い方だよ。
しかもなんで、真依が得意げにすんだ。
──まぁ、そんな所も可愛いわけだけど。
「こんどは、リンちゃんとる!」
楽しそうに真依が言うと、背後のテーブル席でパソコンを弄っている凜人の所へと走って行った。
瞬間、カメラを持った手を下にして走る真依にカメラが落ちるかと思って俺は焦った。
こ、怖ぇ……!
マジで落すかと思った。
手首にハンドストラップを通しているとはいえ、子供にはビデオカメラは重い。
今のところ真依は気にしてないが、長時間持つには厳しいかもしれない。
「リンちゃん!」
「なーに、真依ちゃん。」
真依に呼ばれた凜人は、パソコンから目を離して笑顔を向ける。
このヤロウ、また王子様スマイル浮かべやがって……。
真依を誘惑すんなって、何度言ったら分かんだよ。
「あのね! じこしょうかいするの!」
「自己紹介ね、良いよ。カメラは回ってるかなー?」
「うん!」
真依は楽しそうにカメラを構えると、俺はさりげなく後ろに付いて、録画が出来ていることを確認した。
「大丈夫だ」
「じゃぁ、自己紹介するね。天翔副総長の泉野 凜人です。
高校生二年生で、真依ちゃんが大好き! よろしくね!」
「えへへ。わたしもリンちゃんすきっ!」
「ありがとう。嬉しいなー!」
「──おい、俺の妹を口説いてんじゃねぇよ。殺すぞ」
「アハッ! もう目で殺しにかかってきてんじゃん!」
そんな会話から俺が凜人に手刀を入れると、凜人は軽やかにそれを受け止めた。
そんな攻防がしばし繰り広げられ、その早さは段々と上がっていった。
「あー! ケンカはめっなんだよ!」
「大丈夫だよ、真依ちゃん。これは喧嘩じゃなくて、戯れ合いだから」
「そうだな、戯れ合いだ」
凜人は一見、爽やかなイケメンのなりと王子様みたいなオーラに振る舞いをしているが、その実、中身は魔王のように喧嘩が強く、女好きな面がある。
「次、みっちゃんとるー!」
「おう! 俺はこっちだぞー!」
真依が次に撮りに行ったのは、同じ部屋のソファに座っている男のところだった。
「手塚 道弘。天翔の幹部兼、真依の専属騎士を務めている。よろしくな!」
「きしさまー!」
アイツ、何役作りしてんだよ。
合ってるから特に否定はしねぇけど。
道弘は幹部の中で一番図体がデカく、パワーがある。
もちろん 喧嘩も強いが、人を投げて倒すと言う、人間離れした力の持ち主だ。
敵からは良く怪物と恐れられている。
「では真依姫。我が下部の騎士たちの下へ参ろうぞ!」
「うむ! いきましょー!」
これは──、時代劇の言葉遣いと混ざってるな。
真依が楽しければ何でも良いけど、正しい知識で覚えていてほしいからな……。
──っても騎士の言葉遣いなんて知らねぇし。
……まぁ、良いか。必要になったら直していこう。
「真依、階段気をつけろよ」
「みっ……きしさまにおぶってもらうー!」
「良いですぞ! では持ち上げます!」
そう言うと道弘は真依を片腕で抱き上げ、部屋の扉を開けた。
持ち上げます?
「アイツ、騎士つったよね? 言葉遣いが訳分からん過ぎて、流石に笑えないんだけど……」
「道弘だからしょうがねぇ。……俺たちも下行くか」
「だねぇー。にしても疲れたなぁ。秋良ぁ、おぶって」
甘えた声で両手を差し出す凜人に、俺はバシッと両手で払った。
「ふざけんな。だったら一人で休んでろ」
「はいはい、歩きますよ。休むわけないでしょ。折角の“下準備”をさ!」
「だったら最初から自分の足で歩け」
「だぁって、誰かさんのせいで疲れたんだもぉん」
「その口調やめろ。あと、お前が “いつも” “毎度” 真依を口説くからだ!」
「ふふっ。真依ちゃん、俺にぞっこんだもんね。大変だね、お兄ちゃん。
俺はこの顔に生まれてきて良かったー!」
そう言いながら部屋から去って行く凜人に、殺気が芽生えながも、真依の前で喧嘩は良くないので理性をフル活用して抑えこんだ。
階段を降りて下に向うと、開けた場所の一角に人溜まりが出来ていた。
真依は専用のソファの所か。
その方が安全で良いな。
『天翔』の本拠地は廃倉庫だ。
一階の開けた場所が下っ端の溜まり場になっていて、階段を上がった先の大部屋は、幹部メンバーの部屋になっている。
主に真依が休む場所もニ階になっているが、下っ端の奴等と遊ぶことも多い為、下の階段横にも長ソファを設置してある。
そして『天翔』は創立ニ年の暴走族で、構成員が50人と言う小規模の集団だ。
人数は少ないが、バイクで街中を走ってるし、喧嘩もしてるから名目上、暴走族と言ってる。
まぁ、もともと族を作りたくて集まったわけじゃねぇしな。
「おーい、秋良ー! 大体撮り終わったってー!」
階段を降りている途中で、先に合流した凜人が状況を教えてくれた。
「なら、最後に真依を映してやってくれ」
「だってさ」
すると周りの男たちが、ぎゃあぎゃあと騒がしくなる。
一体、何で騒いでんだ?
大方、カメラマンをやりたいとでも言いあってんのか?
「僕が先に真依ちゃんと写りたーい!」
「はぁ!? 俺が先だろ!」
……違った。全く、面倒くせぇ奴等だな。
「おい、カメラかせ」
「うわっ! は、はいっ!」
新入りの男の手からカメラをひょいっと奪い取ると、集団の中から子ども用の小さなテーブルを取り出した。
「どけ。テーブル使うぞ」
「アハッ! カメラ置く三脚持って来れば良かったね!」
凜人は俺の行動を察したのか、本来ならソレに必要だった物を言う。
「お兄ちゃん?」
「真依はちょっと待ってろ」
「あぁ、なるほど! オメェ等、全体写真撮るってさ!」
バカの道弘でも分かったみたいだな。
真依はまだ良く分かってないらしいが。
離れた所にテーブルを置いてその上にカメラを置くと、レンズのピントを一度真依に合わせてアップを撮った。
少し、困惑してんな……。
安心させてやるか。
どうやって安心させようか考えていると、良いことを思いつきフッと笑う。
“アレ”なら直ぐに安心するな。
今度は全体が入るようにピントを合わせると、俺はその場を離れた。
「さて。全員じゃないから予行練習だが……、しっかりやれよ?」
『はいッ!』
「いや、これビデオカメラだけどね?」
「良いじゃねぇか。この顔、何かするつもりだぜ?」
俺の顔を見て、道弘は笑った。
ソファは真依が真ん中に座り、左に凜人が座っている。
右はさっきまで道弘がいたが、移動して地べたに座り込んでいた。
「道弘、少し前出ろ」
「お?」
一歩ソファから離れる道弘に頷くと、俺は笑顔で真依を呼んだ。
「真依、おいで」
「ちょっ、秋良……!?」
俺は真依を抱き上げると、クルッと向きを変えて膝の上に乗せた。
それに真依がどんな顔を浮かべたのかは分からないが、いつも通りなら笑顔になってるだろう。
「マジか!」
「総長、本当に真依ちゃん好きッスねー!」
これだけでも安心しただろうけど……。
もう一つ──。
周りの囃し立てる声を無視して、今度は絶対に真依が喜ぶアクションを起こす。
「真依、好きだよ」
_チュッ
もう一度抱き上げて横向きにさせたあと、俺は真依の頬にキスを零した。
『ギャーーッ!』
周りが興奮の声を上げる。
──ったく。たかが頬チューでそこまで騒ぐか?
そんな周りの反応の中、真依はというと──。
まん丸のおめめをパチパチさせて驚いたあと、キスされた事に気がついたのか照れ笑いを浮かべた。
「えへへ」
可愛いな……。
「見せつけやがって……」
周りが騒いでる中、隣りで凜人がぼやく。
「別にいつもだろ」
「は? 滅多にしないでしょ?」
「ううん。お兄ちゃんいつも、おやすみ言ったあとチュってしてるよ」
「え、そうなの……?」
「あ、あとね! おきたとき!」
「マジかよ……」
凜人が言ったのはまぁ半分正解で、半分不正解なのは黙って置こう。
今、真依が照れ笑いを浮かべてるのは、「おやすみ」と「おはよう」の時しかしてないからであって。
しかも、家族全員で下の弟妹二人にしてるからだ。
つまりは、さっきの頬チューは結構珍しいことだと言える。
「真依ちゃん。俺もお別れする時、キスして良い?」
「うん!」
「凜人はしなくてもいいだろ」
「ううん! みんなにする!」
──ん?
みんなにさせるつもりじゃないよな。
そうなると……、そのままの意味か?
「真依からするのはやめた方がいいぞ。
……そうだな。させるなら手の甲にしてもらえ?」
「手のこう……、ココ!?」
首を傾げた後、思いついたように手を重ねて見せた真依。
「あぁ。お姫様はな、王子様たちから手の甲にキスしてもらってるんだ」
「わかった! おひめさまそうしてるならそうする!」
真依が元気よく返事をすると、凜人がボソリと呟く。
「上手く丸め込みやがって……」
「凜人、さっきから王子ヅラが剥れてるぞ」
「はぁ……。しょうがない。頬と唇は本物の王子様に譲るか」
「そうしろ」
最後にそう話して俺は真依を正面に向かせた。
唇になんて誰にもさせねぇけどな。
例えした奴がいたら、その場でぶっ飛ばすわ。
全体の号令は凜人がするのがほとんどだ。
「んじゃ、予行練習一回目! ──ハイ、
『チーズ!』
みんなで言うのかよ! まぁいいいや。
ビデオ撮影、これにて終了……!!」
『終わったー!』
「おわったー!」
やり遂げた顔で真依がパチパチする。
「疲れたな。休んでて良いぞ」
「うん!」
真依をおろしてソファに座らせると、俺はカメラを回収しにそばを離れた。
因みに、まだ録画機能は切らない。
テーブルを戻してからカメラを真依に向けると、真依は恥ずかしそうに顔を隠した。
もうカメラに映るのは満足なのか。
それでも最後にこれだけはやって貰わなきゃな。
「真依、今日の日付け言えるか?」
「えーと……。きょうはしちがつじゅうごにち!」
「良く言えました」
そう言って真依の頭を優しく撫でてから、録画機能を止めた──。
✧✦✧
「真依、次何する?」
「何もしない!」
あぁ、これは……。
「少しねんねするか?」
「うん……!」
すると、真依が両手を伸ばす。
眠い衝動のついでに、甘えたも入ったか。
これはさっきの反動もあるな。
抱き着くような体制で真依を抱えると、少しして直ぐに夢の中に入っていった。
「可愛いなぁ」
「ありゃ、真依ちゃんおやすみ?」
「あぁ」
凜人と道弘が眠りについた真依に気付くと、何もせず優しい表情で見守っていた。
保育園入ってからこの体制で眠るのは無くなったんだが、久しぶりの膝の上に思い出したか?
大好きだったこの体制の居心地の良さを──。