「今日は満月か…」
少し錆びついた苺水晶のネックレスを手に取る。
妹のサキが、オレの誕生日にプレゼントしてくれた宝物。
「サキ、会いたいな」
男のくせに可愛い物が好きなオレを否定せずに、すぐ側で寄り添ってくれたサキ。 オレはサキが大好きだ。大好きだった。誰よりも。
でも、神様はそんなサキをオレから奪っていった。オレの、唯一の光だったサキを。
涙が溢れないように、空を見た。星が綺麗で、満月の夜空。
「綺麗だね。とても」
耳元で、吐息混じりの心地良い声が聞こえた。
驚いて其方を向くと、そこには星よりも綺麗な瞳をした怪盗が、こちらを見て微笑んでいた。
「フフ、ご機嫌よう。白百合くん」
今にも消えてしまいそうな儚さを纏う怪盗は、フェンスにもたれオレの耳を長い髪から出す。 なんと妖艶で美しい怪盗だこと。
「お前、いつからここにいたんだ?」
そんなことを訊いても、怪盗は答えやしなかった。そもそも、怪盗なのに答えてしまっては本末転倒か。
「それよりも、キミはついさっき、何を考えていたんだい?」
適当にはぐらかしても、怪盗は問い詰めてきた。そんなに興味あるのか。オレのこと大好きだろう。と勘違いしてしまいそうなほど、愛しい目でこちらを見つめてくる。
「サキ…、妹のことだ。今はもういないが、な」
「今は…というと、?」
「…妹は病弱でな。4年前に亡くなった。」
怪盗は顎を触り考え込んだ。眉を寄せ頬を膨らます。次々に移り変わる表情は可愛いものだった。
端正な横顔に見惚れていると、怪盗は小声でこう呟いた。
「僕も4年前、王族の小娘を盗ったんだ」
「…急に、なんだ…」
嫌な予感がした。
「君に似た、金髪に桃色のグラデーション。とても綺麗な少女だよ。」
「名前は─、」
いや、やめてくれ
言わないでくれ
「サキ、といっていたね」
「そんなわけ、…そんなわけ!!だって、サキは死んだんだ!!生まれつきの病のせいで…!」
オレがどんなに怒鳴っても、怪盗はすました表情を一つ変えなかった。 それ以上に、彼はおかしな質問ばかりする。
「…キミ、サキ君のことが嫌いなのかい?」
「…は?」
オレが、サキを…嫌っている? そんなこと、考えたこともなかった。 それに、オレがサキを嫌うなんて、ありえなくて、あってはならないことで…
…いいや、それはオレがそう思い込んでるだけなのかもしれない。
確かに、先程怪盗がサキに「綺麗」と言ったとき、少し嫌悪感を抱いた。 羨ましくて、妬ましくて、サキの存在を否定したくて、消したくて。
オレがもしサキを嫌っているとして、それを知って怪盗はどうする? 少しでも怪盗はオレに好意があると思うし、オレが望めば、サキを殺してしまうのだろうか。
だとしたら、オレにとって─
オレにとって、とても好都合じゃないか。
「…そういえば、キミの宝石、全部盗んでしまったんだ」
「それはお前が来る度に宝石を盗んでいくからだろう」
やはり、この男の思考は読めない。このことを今何故言ったのかも、オレには分からなかった。
「うん。でも、まだ盗めるものはあるさ。」
「『盗めるもの』って、なんだ。別に高価なものはもう無いぞ。」
ベランダから手を外し、木製の硬い椅子に腰を掛ける。 冷たい夜風に吹かれながら飲む紅茶は、あまり味がしなかった。
「別に高価なものは求めていないさ。僕はただ、綺麗なものが好きなだけだよ」
耳元でそう囁かれると、変な期待をしてしまいそうになる。
「でも、僕は好きなものを盗めなかった。怪盗なのに、ね」
「さて、ここでキミにクイズだ。どうして僕は、本当に好きなものを盗めなかったと思う?」
「…触れられないものなのか?」
適当に、そう答える。
心とか、感情とかそういうものだろうとなんとなく考えただけだ。
「確かに、それも間違ってないかもしれないね。」
「でも、残念。正解は、遠慮していたんだよ」
「遠慮?」
「嗚呼、そうだ。遠慮。」
怪盗は向かえの椅子に座り、オレが口をつけた紅茶を飲んだ。
これって俗に言う、間接キスというものではないのかと動揺するオレを相手に、怪盗は別に気にしていなさそうだった。
「僕はね、僕なんかじゃ到底及ばないと思って、ずっと想いを閉じ込めていたんだ。」
「だけど怪盗になったら、そんなこと関係なく近づけると思って。まあ、結局無理だったけれど」
寂しそうな、哀しそうな顔でそう言った。 今は、今だけは、この表情に期待していいだろうか。
怪盗は目を瞑り、息を吐き、吸い、そしてまた吐き、吸って、言葉を口にした。
「…ねえ、ずっと愛してるんだ。ツカサくん。」
「こんな僕だけど、キミを盗んでもいいの、かな。」
泣きそうな顔で微笑んだ怪盗の瞳には、他の誰でもない、オレが一人映っていた。
嬉しかった。嬉しくて、嬉しくて仕方が無かった。
お互い頬を濡らした。笑って、なんだか馬鹿らしくなってき て。
「…遅いぞ、全く。ずっと…、ずっと、待ってたんだからな…」
オレのハートは、とっくのとうに、この怪盗の、ルイのものだった。
コメント
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なんか読み直してて思ったけど文章力ほんとに無い
う、ふぉ、うぉおおおおお!!!! 拗らせか拗らせだな好き🫶🫶🫶 ヘタレ代好きすぎて無理、待ち続けて結局拗らせるこの二人が好き🤤👍 神代好き過ぎて妹嫌いになる司くんもとても良い!!!!(興奮気味) 長文失礼、ご馳走様!(満面の笑み)
わっ‼️わぁ〜〜〜‼️‼️‼️💥💥💥 奴はとんでもない物を盗んでいきましたあなたの心です系のストーリー有り難いです。 そして拗らせ天馬さんとヘタレ神代さんフフフフフ!!!お互いがお互いのことだいすきすぎて困ってしまいますね!!!(ニッコニコ)