⚠︎︎死ネタ / 少女レイ微曲パロ────────────────────
カンカンカン――。
むせ返るような暑さに、ついに頭がやられたのかもしれない。だって、いるはずのない君が、踏切の向こう側から僕を見ている。
君は呪いみたいな笑顔を貼り付けて、僕を指さし、こう言った。
「君はともだち。」
─────────────────────────
①
とある夏の日の猛暑。教室全体にうだるような熱がこもって、お世辞でも居心地がいいとは言えない。扇風機一台で凌げるほど夏は甘くないっていうのに、うちの学校はいつまで経っても経費削減とやらに口うるさくて、今の所改善される見込みはない。
ああ、暑い。このままじゃ溶けちゃうよ、俺。
「どうしたの明那、溶けそうな顔してるね。」
「ふわっちぃ…!」
でろでろ机に顔を伏せていたら、席の横からふわっちが話しかけてくる。
ふわっち、もとい、不破湊という男は、このクラス、いや、この学校の人気者である。先生や生徒、性別も関係なく老若男女皆が彼にメロメロ。顔が良ければスタイルもいい。大して得意じゃないという勉強や運動なんか霞むほど、周りから愛されるチャーミングな人柄。もはや完璧人間と言ったって過言じゃない。
「そういや駅前に新しい店できたらしいんやけど。」
「マジ? 帰り一緒に行こ。」
彼は俺の親友。俺の親友が、学校の人気者。俺はそれがすごく誇らしかった。
「なあ明那、これ良くね?」
「お揃いしちゃう?」
「いいんすか。」
鞄につけたお揃いのキーホルダーが揺れる。不破とのお揃いは、親友である俺だけの特権。それがすごく嬉しかった。
夏休み最後の日。始業式の前日。彼は自殺した。
海岸沿いにある踏切で、電車に跳ねられ、即死だったらしい。
なんでという疑問の声は至る所から聞こえてくる。悲しむ人の声で溢れる。ふわっちの人気は死んでも変わらないんや。そう、ぼんやりと考える。
思考はなぜかずっと冷静だった。唐突すぎて、悲しみより驚きのほうが強くて、涙も出なかった。
薄情だと思われていただろうか。ひどいなって、ふわっちも軽蔑するんだろうか。だって、仕方ないじゃん。いきなりで飲み込めなかったんだよ。
自室に戻ってから、ようやく胸の痛みを嫌というほどに理解した。布団にくるまって、あり得ないほど咽び泣いた。夜は眠れなかった。
気がつけば朝になっていた。今になって眠気がすごいのに、今日は平日だ。今日から学校が再開される。起きなければ。
身支度を済ませる。鞄につけたキーホルダーが皮肉めいて揺れていた。
不破の遺品の中に、お揃いで買ったキーホルダーはどこにもない。周辺を捜索しても、鞄も、何も見つからなかったんだってさ。海にでも投げたんかな。
――始業式は、葬式みたいな空気で幕を閉じた。
今日はなんと年に一度の俺の誕生日だったくせに、楽しみだった誕生日パーティーはおじゃん。お祝いのケーキなんて食べられなかったし、プレゼントも何もなかった。何もかも最悪な誕生日。
考えてしまう、ふわっちが死ななかったら。押し付けてしまう、ふわっちのせいだと。
最低だよな、俺。そんな俺に嫌気でも差した? だからふわっちは死んじゃったのかな。
結局俺ら、その程度の友情だったのかな。
ふふっと自嘲混じりに笑った。一人きりの帰り道は寂しかった。こんなに静かな誕生日は初めてだった。こんなに連日泣いたことも今までなかった。さすがに泣き疲れた。目が真っ赤に腫れてしまった。
すでにティッシュが山積みになったゴミ箱に、くしゃりと丸めたティッシュを投げる。コツンとぶつかって、呆気なく床に落ちた。
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