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「っはぁ、遠かったね…ここが、力の砦。力をつくってもらうところだよ…。」
さっきの町とはかなり違う雰囲気、岩山のような建物に、苔むした岩扉。
洞窟みたいな、ダンジョンのような感じだった。
「あーっと、ここの支配人?って言うのかな?まぁ、そのひとの名前はウィカルって言うんだけど…その人、ちょーと面倒臭い人でね…」
「…?」
両手で持っていた鎌を肩に掛け、石階段を登りながら話し始めた。
「ウィカルねぇ…形を手に入れた子に”試練”って言うのをやらせるの。」
「試練の内容はコそれぞれなんだけど。
その試練を乗り越えられなければ力は手に入れられない、つまりは形の崩壊をゆっくり待つだけ。」
「試練で生き残れても象徴を壊されたりしたら力を手に入れられても意味が無い、象徴が無いんだもの。」
「つまり、ここで生きられるのはほんのひと握り、外から入ってきたコは殆どは力を手に入れられずに崩壊するんだ。」
ちょうど扉の前に着いた時、話は終わった。
ほんのひと握り…形の崩壊…入る前なのに不安が積もるばかりだ。
「失礼しまーす。ウィカル〜開けて〜。」
そうドゥルプが言うと、ごごご、と轟音を鳴らしながら重たい岩扉が開いた。
奥は暗く、地面は冷たい石だった。
「だ、大丈夫なん、ですか?」
「怖いよね〜分かる、でも行かなきゃ形が崩壊するのも時間の問題だよ」
「うん…」
少々行くのを躊躇うが、無い足を一歩、一歩と進め奥へ行った。
奥に行くに連れ、明るさも暖かさも無くなってゆく。
続いていくのは冷たい空気と呑み込む常闇だけだ。足音も景色も見えないほど暗くなったところに、なにかに頭が当たった。
「いっ…!何?」
それは硬い鱗のようなものだった。頭に当たった瞬間、埃のような砂がチラチラと降り、その影は光と共に起き出した。
「……ナ…ぁ」
「な、なに?」
「汝、の名は」
名前…?名前なんて…なんだっけ?
僕にはないもの…今は…
名前…思い出せない…
「あちゃ〜…名前つくってないや、ね、ごめんね〜…」
「…ル…」
「どうしたの?」
「僕はスマイル!スマイルだ!」
そう、吸寄せるかのように、口が勝手に開く。
スマイル、だなんてなんで言ったのか分からない。
今までの記憶が、形が、人生が、死後の名前に写し出されるのだろうか。
とにかく、今は分からない。
「そ、うか…スマイル…それでは、今から試練…を始める。では…ゆくぞ」
ヒュルルと空気を鳴らしながら長く硬い体は一直線にこっちに向かってくる。
何かなんだか分からず右、と避けるとその体は壁へとぶつかった。
壁には罅が入り、天井からは砂埃がちらちらと舞う。
それを突き破るかのようにまた一直線へ、風圧を受けながら、空気を鳴らしながらこっちへ向かってくる。
「ぅ…けほっ、きりがっ、ないぃっ!」
その龍の見た目のような体の持ち主は、ウィカルだと言うことがわかるのそう遅くはない。
次は靱やかに、より速度を上げながらこっちへと向かってくる。また同じように避けようとするが、次は急に曲がり、こっちへと向かってくる。
物凄い風圧と砂埃で前は見えず、軽い体は簡単に飛ばされた。
「ゔっ…!?ふぐ…ぅッ…」
風圧で吹き飛ばされた体は砦の壁に強く激突し、仮面の中は血反吐と涙でいっぱいだった。
「ぉぶ、か、はぁッ」
「…せ」
「形を活かせ!スマイルの!!軽くて靱やかな体を!!!」
「…!?」
ドゥルプの声を聞いた。しっかりと、受け止めた。
体を、形を、生かさなければまた、力を手に入れても意味が無いのだと悟った。
ならば、生かすしかない。形全体を____
軽く、靱やかに。
「いぃ…っ!」
ウィカルの動き方を真似してみた。龍のような体のウィカルは硬く、良く曲がるようになっている。それは僕の形とよく似ていた。
「我…の、真似…を!?」
「うぅううっ!!」
慣れない形で動き回る。それは思ったよりも体力がいる事で、疲労感が背中にズン、とのしかかる。右へ、左へと体を曲げ、ウィカルの攻撃を交わす、交わすだけで精一杯だった。次の攻撃を交わした途端、身体は風で引っ張られ、止めることもできずに壁に勢いよくぶつかった。
「こ、ほ゛っ!?グゥう…」
「スマイル!!?」
壁は抉れ、背中は無くなったかのように何も感じなくなった。天井から落ちてくる石が痛い。傷からの血は止まらない、もう死んだかと思った。
「…!しまった、やり過ぎた。」
「えぐ…ゥ…はぐ、ぁ」
「スマイル…ウィカル!どうしたの?いつもは手加減…するのに…」
「恐ろしい程…歪んでいる…生かしては、おけまい‼︎」
龍の爪のように硬くてとんがったものが腹に刺さる。痛い、痛い、それしか思えない。どくどくと血が流れてく感触が腹の中から伝わる。何も見えない、見えるのは暗い瞼の中の白い光だった。
「ぐぶ…がッあ゛、!」
思わず刺している方の腕を掴む。今更抵抗しても勝ち目なんてないのに。何も掴んでないみたい、掴んでるけど中途半端な感触だった。液体みたい。
「ぐあ゛あぁッゃ⁉︎」
「まだぁっ‼︎壊れたくないぃっ‼︎」
ジュギ、と硬い鱗を裁ち、大きくて重い手を腹から引き離す。刺さっていた腹からは栓が取れたみたいに勢いよく血が噴き出す。でも、不用物が出たみたいに身体が軽くなった気がした。
「待って!」
「あぁ、もう、いいな」
「ぇ…」
「力が出たんだよ‼︎もう君は壊れない!」
「ぅ…よかった…んですか?」
どく、どくと血がゆっくり流れる腹を押さえながら返事をする。まだ体のあちこちが痛くて、頭も回らない。よくわからない、そんな急に出るものなのか?
「はふ…ぁ…」
「おっと、寝ちゃった。」
あったかい、あんしんする。ひさしぶりにゆっくり寝てられそう…
そう思いながら瞼をゆっくりと閉じた。
「ドゥルプ、そいつを運んでやれ。」
「うん、分かってる。じゃあね、ウィカル」
「あぁ。」
すぅ、すぅと寝息をたてるスマイルを抱えながら、長い長い石の階段を下っていった。