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「またお前かよ、懲りねぇな。知り合いに警官いるから呼ぶぞ?」
男を黙らせるにはとりあえず『警察』というワードが効果的だと、実際警官に知り合いはいないけど、スマホを持ちながらそう話せば信憑性も沸くかと電話する素振りをしながら男と対峙すると、
「分かったよ! 帰ればいいんだろ!?」
本当に警察を呼ばれると焦った男は慌てて階段を駆け下りてアパートから離れていった。
そんな男の姿を見送った俺は嘘がバレなくて良かったと安堵の息を漏らしながらズボンのポケットにスマホをしまい、
「あの男に付き纏われてんだよね?」
「……はい」
「余計なお世話かもしれないけど、警察に相談した方がいいんじゃねぇの?」
この前は詳しく聞けなかった男との事情を聞いてみる事にした。一応警察に相談する事も提案してはみるけど、恐らく警察はこれくらいの事じゃ動いてくれないだろうし、彼女もそれが分かっているようだった。
「付き纏われてるだけで、それ以外に被害が出ている訳じゃないから、警察は動いてくれないと思います。すみません、二度もご迷惑をお掛けして。ありがとうございました」
その上で、彼女には頼れる存在が居ない事を理解した俺は、
「あのさ、俺で良ければ力になるよ? 女一人で子供守りながらじゃ不安だろうし、隣に住んでて何かあればすぐに駆け付けられるから、警察が無理なら、俺を頼ってよ」
部屋へ入ろうとした彼女の腕を掴んで、『俺を頼って欲しい』と申し出た。
彼女は華奢で少し小柄な女の人。
化粧っ気はないけど目鼻立ちが整っていて元が良いのだろう。ナチュラルメイクでも充分美人だと思う。
肩くらいまである黒髪を一つに束ね、白いロンTに膝丈まである黒いズボンを穿いた部屋着スタイルで完全にオフモードなのだろうけれど、それすらも美しく見える。
そんな彼女は俺よりも六つ年上だと聞いているし、年の離れた俺なんて頼りになるとは思われないかもしれないけど、そんな事は問題じゃなかった。
ただ、少しでも彼女の助けになりたかったから、頼って欲しいと伝えてみた。
だけど、いきなりそんな事を言われても戸惑うだろう。それは当然だと俺も分かってた。
「でも、私……」
「ママ?」
そんな時、八吹さんの息子がドアを開けて外へと出て来た。
「……そいつ、凜……だっけか?」
「あ、は、はい」
「アンタもそうだけど、子供に何かあったら困るんじゃねぇの?」
「それは、勿論……」
「あの男がきちんと諦めるまで、俺を頼ってよ。必ず助けになるから」
「でも……」
「ま、戸惑うのも無理ねぇか。ちょっと待ってて」
子供の事を一番に考えている彼女なら、子供に危険が及ぶ事は避けたいはず。
それを話した上で俺は少し待ってて貰うように断りを入れて部屋へ戻り、連絡先を書いたメモ紙を持って再び外へ出た。
「これ、俺の番号。何か困った事があったら何時でも掛けてきて。今日みたいに部屋に俺が居る時は、直接声掛けてくれていいから。それじゃあな」
あまりしつこく言ってもウザがられるだろうし、彼女の性格上人に頼り慣れていないだろうから、ここは引くべきとそれ以上は何も言わず、この日は大人しく引いた。
そしてそれから暫くして、
俺は八吹さんや凜と急接近出来る事になるのだった。