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ぷっくりとした桃の唇に、陶器のような滑らかな肌、町娘と勘違いしてしまう華奢な身体。
女から見ても可愛らしいと思うあの子は、そりゃあもう男からは高嶺の花扱いで。今も男に囲まれて楽しそうにして。
「私もあんなふうに好かれたいなぁ。」
あの子が男だけに愛想を振り撒く性悪女だったら悪口陰口言い放題だったのに。
くのたま、増してや家を持たない孤児にも優しいのだから、これで悪口を言えば私が悪くなる。
こんな性格だから、あの子になれないのだろうか。
「琴海。」
「雷蔵…って事は後ろに三郎いる?」
「当たり前だろう。不破雷蔵いるところ鉢屋三郎あり、だからな。」
余程渋い顔をしていたのか、五年ろ組の不破雷蔵と鉢屋三郎が声をかけてきた。
一年生の時からそうだ。ひょんな時から仲良くなって、偶にお出掛けしたり課題も一緒にやったりして。
多分二人が居なかったら、今以上にあの子を妬んでいたと思う。そう考えると双忍には感謝しかないな。
「またあの子のこと見てる。そんなに気になるの?」
「私には無いもん持ってるからまあ…気になるっちゃ気になるよ。」
「無いもの…ああ成程。」
「人の胸見て言わないでくれるかな。」
確かにそれも無いけど、あの子の方があるけれど。程良く男好みの胸と自身の貧相な胸を比べて、軽く溜め息を着く。
胸もそうだけど、性格も顔も身体付きも、どれか一つでも優れていたら私は愛されていただろうか。
「…気分が晴れないなら、三人で甘味処に行こう?」
「え?私一言も、」
「顔を見れば分かる。雷蔵が折角提案してくれたんだ、三人で行くぞ。」
「あっ、ちょっと引っ張らないで…!」
左手は雷蔵、右手は三郎に握られあれよあれよと教室から出された。
…まあでも ずっとあの子の顔を見てしかめっ面するより、二人と甘味を食べに行く方が楽しいし心も晴れるよね。
「ありがとう、二人とも。」
「え~何のことだろう?」
「今日は奢らないぞ。雷蔵のは奢るけど。」
___
「琴海。」
私の名前、けれども違う人の名前。一瞬話を止めて、また皆と喋り出す。
皆私の顔を見て話してくれるのに、私はその先の三人から目が離せない。あの中に好きな人がいるから。
でも絶対に振り向いてはくれないし、私なんて眼中に無いことは分かってる。
「琴美?大丈夫?」
「大丈夫、ありがとう尾浜くん。」
心配かけちゃった。ごめんね、私なんかとお話してくれてるのに、私だけが余所見してて。
でもいいな、琴海ちゃん。いっぱいお話できて。どうすれば私もあの人に振り向いてもらえるんだろう。
「あの子が心底羨ましい。」
私と同じ名前のあの子が。