午後5時22分。
仙台駅、3番ホーム。
人波の切れ目に、ちょっとした珍事が起こる。
(やっばい、やっっっっばい!!)
私は走っていた。
バッグを片手に、制服のスカートを翻して、改札へ向かって爆走していた。
目的地? いや違う。
財布。財布を落とした。
朝、駅前のコンビニでアイスカフェラテを買った記憶まではある。
そのあと、電車に乗った記憶もある。
だが、次の瞬間には——
「……ない。財布、ない」
降りた駅で改札を通ろうとしたそのとき、現実は冷たく私を突き放した。
そして今に至る。
(どうしよう、どうしよう、あと数分で電車来るしこのままじゃ帰れないし詰んだ)
……と、そのとき。
視界の端に、男子高校生の制服姿が見えた。
その人だけ、こっちに背を向けて自販機で何かを選んでる。
(あの人だ)
なぜか、直感でそう思った。
変な人認定されようがなんだろうが、今はそんなこと言ってられない!
私は走った。真っ直ぐその人の背中へ。
「すいません!!」
「……うわ、びっくりした」
その人は、振り向いた。
髪は明るめの茶色、どことなく脱力系の顔。
でも目元は意外と鋭くて、全体的に“なんか言いそうな顔”をしていた。
「お願いです、お金貸してください!!」
「……………は???」
当然のリアクションだった。
「い、いや違うんです!その、怪しい者じゃなくて!」
「怪しくない人は駅で金貸してって言わねーわ笑」
鋭くも呆れたツッコミが突き刺さる。
でも私は、必死だった。
「財布落としちゃって……定期も全部入ってて……帰れないんです……」
「うわ、マジか……それは詰んだな」
彼は眉をひそめたが、そこまで嫌そうな顔はしていない。
「……てか、なんで俺?」
「さっき目が合った気がして……あと、優しそうだったから……」
「チョイス雑すぎだろ笑」
そう言いつつも、彼はポケットから財布を取り出した。
中から千円札を一枚、ぺろっと出して差し出してくる。
「はいはい、じゃあこれ。帰れんの、これで?」
「か、帰れます!!本当にありがとうございます!!」
勢いよく頭を下げる私を、彼はちょっとだけ呆れた顔で見ていた。
「でもさ、知らない人に金借りるとか怖くね? 俺、実はヤバいやつだったらどうすんの?」
「……え、ヤバい人ですか?」
「さあね〜。どうだろ?」
彼はニヤッと笑った。
「名前は?あとで返すんでしょ」
「あ、そうでした!えっと、私は——」
名前を名乗り、スマホを出して連絡先を交換する。
なんか、変な展開になってきた。
「二口堅治。伊達工の2年」
「えっ、伊達工!? すごい!バレー強いとこですよね?」
「あー、うん。ま、俺はWSだけど」
「ウィングスパイカー!?すごいですね!」
褒められているのか驚かれているのかわからない反応に、彼は笑った。
「……まあ、変な出会いだったけど、忘れらんないタイプだわ、君」
「えっ」
「普通、“金貸してください”から始まる出会いねーだろ笑」
「あ、あはは……」
気まずく笑う私に、彼はふっと肩をすくめた。
「ま、返す気あるならLINEしなよ。てか絶対返してね。1000円だけど」
「はいっ!絶対に返します!!」
「じゃ、楽しみに待ってるわ〜。あと、財布落とすなよ」
そして彼は、乗るべき電車のホームに向かってひらひらと手を振った。
不思議な出会い。
電車の音に混じって、ちょっとだけ胸が高鳴ったのを覚えている。
——これが、私と二口堅治の始まりだった。
[to be continued…]
コメント
3件
TikTok見て興味がかなりいや、題名が個性的だなーって思って見てみたら普通に面白くてびっくりです笑
駅で「金貸してください」って叫んだら、伊達工のバレー部員でした。 二口くんとの最悪な出会い(?)から始まる、ギャグ×青春な夢小説です‼️🤍 口悪な夢主×二口くんのじわじわ距離が近づく系…気になったら読んでください!🥹💖 🏷 #ハイキュー夢小説 #二口堅治 #ラブコメ #ギャグ