「こーーろーーちゃーーーん」
「るーとくーーん」
映画でターザンはアーアアーと叫んで川を渡る。彼等はそれではなく、別行動している二人の名を叫びながら森を探索していた。
「さるーーーー」
「はーーらぐろーーー」
ーーが、どれだけ叫んでも応答はない。
「全然コール&レスポンス聞こえんわ」
「それに関しては聞こえねぇだろ絶対」
「L・O・V・E・アイアムモンキー!」
「今度のライブで使おう」
「採用されちゃったよ」
橙乃がノリで言った案を紫月は案外気に入ったらしく、その後はターザンの叫びの代わりに「L・O・V・Eー?」「ころんはモンキー!」というコール&レスポンスが捜索の掛け声となった。変な所で真面目な橙乃は黄星の分もしっかり作り、「B・L・A・C・K?」「腹黒るぅと!」も後々迷コール&レスポンスとして名を馳せることになるのだがそんなこと今の彼等は知る由もない、ただそれによって本来疲れる筈の散策を楽しく行うことができたのは事実だった。
「……いやそれにしてもいなくねアイツら?」
探索を始めてから数時間程経ち、桃宮が漸く疑問の声を上げる。事前情報によっても、あまり広い島とは言えず、数時間も歩けば島を横断出来てしまうほどの広さだった筈なのだが、一向に二人は見つからない。仮にも彼等は人間だ、見落とすことも考えにくい。
「そんな森の中迷い込んだ?」
「いや…」
やはり見失ったのだろう。もう一度回ってみるか、と三人が踵を返しかけた時……。
「…三人?」
慌てて後ろを振り返る。しかし、そこには一人の姿がなかった。あの特徴的な髪色だ、少し遅れただけだったら絶対に気がつくのに手がかりすらないということは、かなり後ろの方にいるか迷子になったか。三人は顔を見合わせ、大音量で叫んだ。
「りーーーぬーーー!」
エコーがかかる。応答はない。
「うわやったわこれ」
「そういえば途中から莉犬くんの声が段々小さくなってたような…」
「アイツもやしやから疲れたんかなって思って全然気付かんかった」
「莉犬くんだったら途中で行き倒れてるとかない⁈」
「あるよ莉犬なら」
赤羽のもやし度合いに絶対的な信頼を置いている三人は、一度はぐれたらもう赤羽は行き倒れるしか選択肢がないと思っている。簡単に言えば、体力をナメている。それが故に莉犬大捜索隊が組まれる事にもなるのだが。
「別々に分かれる?」
「分かれると逆に合流しにくいだろ」
「やっぱころるぅと探すにも莉犬探すにも元来た道戻らんとってことやな」
そして彼等は元来た道と反対の道に向かって歩き出した。
「アイツら薄情者だ」
赤羽は息を切らしながらもう見えない三人の背中に呪詛を吐いた。数時間歩く体験というのは一般人はもとより、日々ネットで活動している赤羽に縁遠い存在だ。しかも、彼は元々体力が多いとは言えない。そんな彼が置いていかれるのはある意味自明の理と言える。
問題はそこではない。一旦分かれてしまうとメンバーがどこにいるのか分からなくなってしまう事の方が重大だ。集合場所決めておけばよかった、といまさらのように後悔する。
「てか喉渇いた…」
昼から何も飲んでいない状態で歩いているのだ、逆に今まで喉が乾かなかったのが奇跡かもしれない。一回喉の渇きを自覚すると、それはますます深刻になっていくものだ。もう彼は水が飲みたくて仕方がなかったが水はない。水を手に入れるには歩き続けるしかない。しかし疲れて歩けない。まさに八方塞がりの状況に陥った赤羽の喉の渇きはマックスに達し、なんとか意識を逸らすために他の五感が敏感になる。
「…なんか聞こえる気がする?」
鋭敏になった彼の耳は、ある音を聞き取った。ガサ、という音は獣の音の可能性はあるといえど今の彼に希望を持たせるには十分だった。
「おーい」
声をかけると、音を立てた主はしばらく立ち止まり、恐る恐る「莉犬?」と返してきた。
「るぅとくん!」
その声は、赤羽がよく知っている相方のものだった。どうやら彼は、別行動班の方に合流したらしい。
「一人?」
「さっきは他の三人と一緒にいたんだけど置いてかれた」
「え」
「ころちゃんは?」
「ころちゃんは今釣りしてます」
「釣り⁈」
釣竿なんて便利なもの誰も持ってきていなかったはず、と訝しむ赤羽に、黄星は青柳が自力で釣竿を作った話をした。アイツそんな事出来たんだ、と微妙に失礼な発言をする赤羽に共感する黄星。この場に青柳がいれば突っ込んでいたであろうが残念ながらその彼は釣りに行っている。
「なんかるぅとくんところちゃん馴染んでるね」
ひとしきりここにいない青柳の事をいじった後、赤羽はそう感嘆した。
「何ですか馴染んでるって」
「いや、カゴとか作ってるしだって」
何そのオーガニックな籠。案の定突っ込まれた黄星は「ユーチューブで見ました」ときた。割といじられてることは本当じゃないか。赤羽はまた突っ込もうとしたがなんとなく怖いのでやめておいた。
「ころちゃんのとこ行く?」
「うん」
釣竿を作ったという野生児バナナの生態を探るべく、二人は川へ飛びだした。
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