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ベリアンが指した絵画には、泣きながら祈る男が描かれている。男の背中には黒い翼が生えているようだ。不気味な絵だな。
「ここに描かれている男は、悪魔でございます。」
そう、ベリアンが口を開く。悪魔…一般的には悪を擬人的に表現した、魔物だと言われているものだ。一体なぜそんな絵がここにあるのだろう。
「趣味が悪いな。」
俺がそんなことを呟けば、ベリアンは面白そうに笑いを溢した。何がおかしいのか。
「確かに悪魔の絵を飾るなんて不気味ですね。」
「…しかし、それはこの屋敷だからでしょう。」
この屋敷だから?他の奴らよりうんと出来の良い頭をフル回転させたって、意味が分からない。こちらが首を傾げていると、ベリアンの浮かべる笑みは先程と打って変わって、貼り付けたようなものに変化していた。
「この屋敷の名前は「Devil’s Palace」。「悪魔の屋敷」、だなんて不気味な名前、主様に失礼ですよね?」
デビルズパレス、聞いたことのない名前だ。それにしても、悪魔の屋敷…か。嫌われ者の第二王子である俺には、皮肉にもピッタリのように感じられた。
「なぜそんな名前が?」
また相手に問う。本当に、どうしてそんな名前をつけたのだろう。
しかし、その問いを受けたベリアンは黙り込んだ。
「…いきなりの事で主様を怖がらせたくないのですが…。実は…。」
怖がらせる?この俺を?怖がっているのはお前達のほうだろ。だなんてことを頭の中で考え笑っていると、ドアノブがガチャリと回った。誰かが入ってくるようだ。
「失礼するよ」
外からは見知らぬ男が入ってきた。…とは言っても、この聞いた事もない場所に知っている人が居るとも思えないが。
「おや?ベリアン。いよいよ、主様がいらっしゃったんだね。」
この男も、俺の事を主様と呼んでくる。良い加減その主様と言う呼び方が何なのか調べたい所だ。
「これはこれは、ルカスさん。はい、たった今。」
その話し方に少し…いや、結構見覚えを感じた。ああ、そうだ、この声は
「アズールか。」
ベリアンは俺の言葉に目を見開く。これは正解か?…いや、この反応はきっと、多分、知らないのだ。
「主様?アズール、と言うのは私の事でしょうか?」
困惑したような表情を見せてこちらの様子を伺ってくる男に、あのタコの影は微塵もない。
「…いや、何でもない。」
「そう、ですか…。」
納得したような返事をしているが、未だ頭上にはハテナが浮かんでいる。まあ、話の途中に急に知らない名前を出されては無理もないだろう。
「…何だかよく分からないけど、挨拶をさせて貰おうかな。」
少しの沈黙の中、そう男は話しかけてきた。
「どうも初めまして主様。私は執事のルカスと申します。」
男……ルカスが、俺の耳を見つめながら挨拶をしてくる。その視線がむず痒くて耳をぴるぴる動かす。ルカスは若干…いや、中々物珍しそうに見てきた。
「…なんだ、そんなにライオンの獣人ってのが珍しいか。」
ため息をつきながらルカスに向かって問いかける…が、しかし。それは廊下を駆ける音と共にかき消された。
「や、やべぇ!早く隠れないと!」
また新しい男が出てきた。ここまでになると、もう無の領域に入ってくる。
「ロノくん…騒がしいですよ。主様の前なんですから、お静かに。」
「ホントだ…!やっと来てくれたんですね!」
ロノと呼ばれる男は、ぐるりとこちらを向き驚いた顔をする。ただ、その声色には喜びが混ざっていた。
「オレの名前はロノって言います!調理担当の執事です!」
どこかあのトレイの面影を感じた。まあ、これもまた気の所為なんだろうと思い、口を噤む。
「どうなさったんですか?そんなに騒がしくして。」
「ハウレスに追いかけられてるんすよ!」
俺の執事だと名乗る人達での会話は続く。また新しい名前が出てきた、ハウレス…やはり聞いたことが無い。
「ハウレスくんに?またロノくん、何かしでかしたんじゃないの?」
「ハウレスってマジで頭が固いんだよな。と、とにかくどこかに隠れねぇと…!」
そしてまた扉の方から声が聞こえる。何だか聞いた事のあるような、無いような声だ。こいつがハウレスだろうか。
「どこに隠れるって?」
「ハ、ハウレス!いつの間にここに…。」
ロノがハウレス(仮)という名の男を見て狼狽えた。
「ハウレスさんだろ?一応俺はお前より年上なんだぞ。」
年上、一体こいつらは何歳なんだ。同じぐらいの年齢にも見えるが…
「主様、うるさくして申し訳ありません。」
続けて男は言う。
「俺は、執事のハウレスと申します。」
分かってた。新しく増えた男、ハウレスは中々真面目なようだ。
「それにしても、一体何があったんですか?ハウレスくん。」
「ロノに壁の塗装を頼んでいたんです。シックな雰囲気の壁になるはずだったのですが…。」
何だか面白そうな話題だ、耳を向けて聞いているとハウレスの口からとんでもない話が飛び出してきた。
「こいつが壁に、魚や肉のイラストを描いてしまいまして。」
「食材を壁に描くなんてなかなか独創的ですね。」
どうにか吹き出すのは堪えたものの、ブルブルと震えが止まらない。耳や尾は愉快そうにゆらゆら揺れている。執事が壁にイラストを描くなんて、独創的ではすまされないだろう。
「オレはこの屋敷の調理係だし!何より食うのが好きだからさ!」
「壁にうまそうな絵があれば主様の食欲もそそられるかもしんねぇだろ?」
「うーん、私には難解な思考回路だね。」
「とにかく、ここはお前の屋敷じゃないんだぞ?勝手な事は許されん。」
笑いを堪える俺に気づかず、執事達はどんどん話を進めていく。
「へーい…。分かってますよーだ。」
「何だその返事は…。」
ウー ウー
そんなやり取りを見ていると、急に警報音が鳴った。その音に皆驚いた顔をしている。かく言う俺もビクッと肩を跳ねさせマジカルペンの方へ手を伸ばしていた。