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冷たい冬が過ぎ、心地の良い春が来たこの穏やかな季節に僕は高校生になった。
新しい環境への大きな期待とほんの少しの不安を持ちながらも学校の正門を通ると中庭に大きな桜の木が見え、その桜がとても綺麗だったので桜の木の下まで行ってみることにした。
「…..⁉」
大きな桜の木の下に行くと遠くからは見えなかったが、桜の木の幹に寄りかかって本を読んでいる8歳ぐらいの少女がいた。
高校に幼い少女が居ることに対して普通の人なら疑問を持つだろうが僕は、その少女を見た瞬間にその少女は生者では無いことが分かっていたので特に疑問も持たなかった。
「……こんなに大きな桜の木は珍しいな」
「お兄さんは、ここに初めて来たの?」
「……。」
幽霊には話し掛けられても答えない。
これは幽霊を見ることができる人の間では絶対に守らなければいけないことだった。幽霊の問いかけに反応してしまうと自分の声が聞こえると知られてしまい憑かれてしまうことがあるからだ。
「ねぇ、安心してよお兄さん。私は地縛霊だからここから離れることはできないしこの大きな桜の木が散るまでの期間しかここにはいられないからお兄さんに危害を加える事はできないよ笑」
「ただ….私が消えてしまうまでの短い期間私の話し相手をしてほしいの」
「………そうゆうことなら別にいいよ。」
どんなに自分は危害を加えないと言ってもそんな幽霊が言う言葉を信じることはできない。でも、昔亡くなった妹と同じくらいの年齢の子だったからどうしても、妹の姿を重ねてしまい断ることができなかった。
少女の幽霊の話し相手になることを了承してから約1週間の時がたち、僕達は最初の頃に比べ、ある程度お互いのことを知っていった。
例えば、彼女はこの学校の場所に昔病院が建っていた時に屋上から誤って落ちてしまいこの桜の木の下らへんに落ちてそのまま死んでしまったことや、昔はこのあたりは桜の木がいっぱいあったことなどを彼女から教えてもらい、その代わりに僕からはスマホの事やゲームのことなどについていっぱい話してあげた。
僕が現代の物について話す度に彼女は子供らしいワクワク感を出しながら必死に話を聞いていた。そんな彼女を見ていると心の底から幸せを感じ、いつの間にか彼女と話す時間は特別なものへと変わっていった。
どんどん桜が散り葉っぱの部分が増えてきてお別れの時間が近づいて来た。
「もうこんなに桜が散っちゃったね笑」
「そうだね。もう君ともいつお別れになるかさえ分からないや笑」
「また、来年も桜が咲いたらここに居るの?」
「うん、居るよ笑。だから今年はもうお別れでもまた来年会えるね笑」
「そうだね」
また、来年も話せる。という事に対して喜びを感じながらそのままその日の会話は終了した。
次の日もいつもどおり、放課後桜の木へと向かった。…..しかし、そこには切り倒されて地面に倒れている桜の木だけがあった。
一瞬で頭の中が空っぽになり状況が理解できなかったが、桜の木がトラックに乗せられている間に少しずつ落ち着いてきてやっと状況が理解できた。
桜を切ってしまったことによりもう彼女に会うことはできないのだろう。でも、彼女との多くの思い出が詰まった桜の木をそのままにしておくことができずに僕は作業をしている人に一つお願いをした。
『枝を切ってもいいですか?』
僕の願いは快く聞き入れられ桜の挿し木を手に入れることができた。
また会える可能性は無に等しいし、無駄なあがきにしか思われないと思うけれど僕はまた彼女と桜の木のそばであの日のように話すことができるようにこの、思い出の大きな桜の木の一部を大事に育てていこうと決意した。