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「ねぇ、私の事は大丈夫だから、病院に行ってよ……」
忍と河川敷で別れ、自宅のある方角へ向かって歩き出す二人。
いつの間にか雨は止み、綺麗な夕焼け空が広がっている。
「ねぇってば、斗和、聞いてる?」
話し掛けても無反応な彼に今一度名前を呼んで問い掛けてみると、
「お前、じーちゃんばーちゃんと住んでるだろ?」
突然、そんな質問をされた恵那の頭上にはハテナマークか飛び交った。
「何、突然。まあ、そうだけど。っていうか、どうして知ってるの? 私、そんな事話した覚えないけど……」
「俺、今お前が住んでる家の隣に住んでんだよ。ジジイと一緒に」
「え!? そうなの!?」
「まあ、隣って言っても、田んぼ挟んでっから多少距離あるけどな。少し前にジジイが、隣の孫娘が暫くこっちに住む事になったとか言ってて、それがお前だって思い出したんだよ。苗字違うから初めは分からなかったけど」
「そうだったんだ。あ、苗字違うのはこっちの祖父母は母方だからだよ」
「ああ、それで。つー訳で、どうせ帰る方角同じだから送るって言ったんだよ」
「そっか、それなら納得。だけど、病院……」
「だから、それはいいって。お前の手当のおかげでいくらか楽になったから平気」
「そんな、私みたいな素人の手当じゃ駄目だよ……」
「俺の身体は俺が一番よく分かってるからいいんだよ。もう言うなよ?」
「……うん」
心配しているから何度もしつこく病院へ行くように言ったものの本人は頑なにそれを拒否し、もう言わないように念を押してきたので恵那は渋々納得せざるを得なかった。
「ねぇ斗和」
「ん?」
「……さっき忍くんと話してた事だけど……【BLACK CROSS】って何?」
「んな事、お前は知らなくていいんだよ」
「でも、気になる……」
帰る道すがら、恵那はどうしても先程の忍と斗和の会話が気になっていたようで改めて話題に出すと、始めは教える事を渋っていた斗和は、はぁーっと深い溜め息を吐いた後、
「……【BLACK CROSS】――奴らの事は【クロス】って呼んでる。この県を始め、ここ数年は近隣の県にも拡大してる、暴走族のチームだ」
「ぼ、暴走族!?」
「ああ。俺や忍も、前はクロスの一員だった」
「え!?」
「けど総長が交代してからクロスは変わった。とにかく悪質なチームに変わっちまったんだよ。俺はそれが納得出来なくて、クロスを抜けた。忍の他にも数人、俺と抜けた。それから俺らはクロスに対抗するように、新しいチーム、【プリュ・フォール】を作った。そんで俺が、フォールの総長だ」
「斗和が、暴走族の、総長?」
「ああ。他のチームに比べりゃ、まだまだ弱小だけど、メンバーも増えてるし、俺はこれからもっと大きいチームにしようと思ってる」
気になって聞いた恵那だったけれど、まさかそんな話だったとは思いもせず、しかも斗和が暴走族の総長だと聞いて心底驚いていた。