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潤伊くんが死にたいと思わないぐらい楽しい日々を遅らせると宣言してからはや3日。私は潤伊くんの隣で変顔をしていた。
「あの…聞きづらいんだけどさ、なんで変顔してるの?」
潤伊くんが戸惑った顔をして聞いてきた。私は変顔をやめて真顔に戻る。
「前に潤伊くんを助けるって言ったでしょ?それで、まずは笑わせようって思ったの」
「笑わせる…?」
潤伊くんが首を傾げる。
私はまず、心理学の本を買った。人が明るくなるにはとりあえず笑って見ることが大切と書いてあったから、それに従って、笑わせてみようと決心した。けど、その時私は、笑わせるってどうしたら?と行き詰まった。美桜ちゃんとコントでもする?それとも面白そうなアニメや漫画を潤伊くんと観る?いろいろな方法を考えてみたけど、潤伊くんが心から笑え良なことじゃないなと思い、両親に相談してみた。すると、
「変顔は?誰でも笑っちゃうんじゃない?」
「笑う、か…表情筋をほぐしたらどうだ?」
父の意見はよくわからないとして、母の意見は私の中でピーンときた。これならいける!と。
「だから、試してる」
戸惑った顔から変わらない潤伊くんを見ていると、私のしている事はだいぶ変だということに気づいた。
「潤伊くんってどんなことがツボ?」
唐突な質問にもっと戸惑った顔をする。でも、すぐに頭を捻って考え始める。こういう潤伊くんを見ると、やっぱり優しい人だなぁと思う。
「びっくりすること…かな?」
潤伊くんの言っていることがわからず、私は頭が取れてしまうのではないかと思うほどに首を傾げた。そんな私の様子を見て、潤伊くんはすぐに説明してくれる。
例えば、絶対にそんな事は起きないだろうと思っていたことが起きる時や、こんなことになったら面白いと思っていたことが本当になった瞬間が1番笑うらしい。
「要するに、ミラクルやフラグ回収が起きたらツボにハマる、ってことだね?」
そう考えてみると、私は結構潤伊くんのツボにハマっているのではないだろうか。
絶対に頭をぶつけないだろうと思っていたらぶつけるし、男女の更衣室を間違えてという漫画などでお馴染みの展開もしっかりした。
「私、すごいな…」
急に私がそんなことを言うから、潤伊くんがびっくりした顔をしていた。
「2人とも!何してるの〜?」
美桜ちゃんが私の肩を叩いて話しかけてくる。
美桜ちゃんには無茶を承知で潤伊くんを助けることに協力してもらった。この学校に来て初めてできた友達だったから、私にとって美桜ちゃんはすっごく頼りになる人だ。
「潤伊くんを笑わせてる」
経緯も何も話さずにそんなこと言ったから、美桜ちゃんの頭の上にはハテナがたくさん浮いている。潤伊くんが説明してくれた。
「嘘でしょwwwwスズちゃんのお母さん面白すぎ!」
どうやら美桜ちゃんのツボにハマったようで、その後もずっと笑い続けていた。私と潤伊くんは、そんな美桜ちゃんを見て少し怖がっていた。だって、笑い方が魔女だったから。
数分経ってから笑いが引いてきた美桜ちゃんは、顎に手をついて考え始める。
「なるほどねぇ。笑わせるのも大事だけど、泣くことだって大事なことなんだよ?」
「泣くことも?」
美桜ちゃんは私と潤伊くんを見ながら頷く。
「表情筋がほぐれるのって笑うことより泣くことなんだよ。潤伊って最近泣いた?」
私と潤伊くんは顔を見合わせて昨日の記憶を辿る。
「ちょっとだけ、泣いたよね」
潤伊くんが過去のことを話していた時に、鼻声になっていたのを覚えている。顔を見れるような状況じゃなかったから涙を流していたかまではわからないけれど、目があんまり腫れていなかったことから私ほどに派手に泣いたわけでもないのだろう。
「そう、まぁ泣くことだけが良いってわけでもないんだけど、適度に色々出さないと苦しくなるよね。そうならないように笑わせたって意味ないし。だから今潤伊がしたほうがいいのは、泣くことじゃない?」
美桜ちゃんの言葉を聞いて潤伊くんを見つめる。潤伊くんの視線は下に向いていた。紫がかった髪が潤伊くんの顔を隠している。それは、潤伊くんの本心すらも隠しているように見えた。
確かに、泣く事は大事だ。溢れかえるまでに出さないと人間には限度があるから。でも、昨日のは泣いたということにカウントしていいのかがわからない。
「潤伊くん、笑える余裕、今あるかな?」
控えめに聞いてみる。どこまでが踏み込んでいい場所なのかを確かめたい。
潤伊くんは深く息を吸ったり吐いたり、両手をもじもじさせていた。きっと、潤伊くん自身でもわからない事なのだろう。
「…ま、ゆっくり行こうよ。焦る事じゃないって」
美桜ちゃんが背伸びをしながら言う。その様子を見ていると、なんだか自分たちが少し固く考えていたのかもしれないことに気づく。美桜ちゃんはやっぱり頼れる人だ。
「あの、さ」
潤伊くんが私と美桜ちゃんの袖を控えめに掴んで話を振る。
「2人は、面倒だなとか思わないの?」
そんな質問に私と美桜ちゃんは目を丸くさせた。
そんなことを聞かれるとは思っていなかったから。そこで私は思った。潤伊くんは私たちのことをわかっていない。
「潤伊くん。私はね、潤伊くんのことが好きなの」
「えっ⁉︎」
「そんで、美桜ちゃんも好きなの。そんでもって美桜ちゃんも私たちが好きで…」
唐突な説明を始める私を美桜ちゃんが止める。
「急にどうしたの…変なもの食べた?」
「食べてないよ。ただね、面倒だなって思うなら、私は潤伊くんのこと好きじゃないと思う。美桜ちゃんも、好きだから面倒だと思わないし」
「じゃあ、嫌いになったら面倒になるの?」
潤伊くんは目線を落として落ち込んだ様子で言った。
「潤伊くんはわかってないなー。私たち、潤伊くんを嫌いになるなんてことないよ?一生ね。だから、潤伊くんも私たちのこと嫌いにならないでね」
そう言った私を見つめる2人は、何かいつもより顔が険しかったのを覚えている。