君と頑張る今日晴れる

無事、T駅に到着した。

大会会場のKMパークまでは、駅を出てすぐのバス停から、バスに乗ればいい。

以前、悠とデートで来たことがある場所なので、大体の道は覚えている。

KMパークは、海風が心地良い、T市運動公園の一角に作られたスケートパークだ。

つい、そこでのんびりしてしまい、他にもデートで行きたかった場所があったのに行きそびれてしまった思い出がある。

しかし、今日はデートに来たのではない。悠の応援だ。

流石に、悠も、そろそろ緊張してきたのではないか。そう思ってなんと声をかけようか考えていたら、急にスマホが鳴った。

「あ、園長先生からだ」と言って、悠がスマホを開いてメッセージの内容を確認する。

「えーっと、なになに。休日に連絡すみません。研究会資料について確認したので、主任にも、そのうまをお伝えください。何、うまって」

「その旨ね。む、ね！旨いと書いてむねと読むの！その話とか、内容って意味の丁寧語だよ」と、私は呆れて説明した。

すると、「晴って物知りだなー」と、あっけらかんとした顔で感心している。

「悠が知らなさすぎるだけ」

こんなにも、マイペースで大丈夫なのだろううか。心配だ。

「俺には、晴がいてくれて良かったー。いつも、ありがとう。大好き！」

悠は、私の心配などは、どこ吹く風で、にんまりしている。

バス停では、スケボーを持った人が、何人も乗車した。

同じ大会に出る人だろう。

私たちも、後に続いてバスに乗り込む。

流石に緊張しているだろうと、隣の座席を見ると、まだ座ってすぐだというのに、悠は寝てしまっている。

今日は朝早かったし、と思いつつ、ちょっと緊張感がなさすぎやしないか。

悠は、こういう時、緊張しないのだろうか。

大会で一人ぼっちだと、心細くなっていまうかもしれないと、思ってついてきたのに肩透かしだ。

そして、いざ大会が始まっても、悠は落ち着いてトリックを決めていく。

悠は、スケボーは上手い人ほど、脱力していて、難しい技が簡単に見えると言っていたけど、今、まさに悠がそれだ。

大会の結果は、準優勝。

悠は、一回だけミスをしてしまい、ノーミスだった人が優勝した。

プロの人に「初めての参加とは思えないメイク率だった」と、褒められ、悠は準優勝のトロフィーを貰った。

表彰台で、やりきったという顔をして、悠が私に手を振る。

大会が終わり、時間を見ると一時。

「ランチは、前に晴が行きたいって言ってた海カフェ行こうよ」と、悠が提案した。

「え、覚えててくれたんだ」

そう。以前デートで行けなかった場所というのは、私が、雑誌で見つけて行きたいと思っていた海カフェだ。

「あったりまえだろ。晴のことだったら、なんでも覚えてる」

「いつも、忘れん坊なのにね」と、私がくすりと笑った瞬間。

「はぁーーー」と、悠が息を吐いて、へなへなと地面に座り込む。

私は、どこか具合でも悪いのかと思い「大丈夫？」と、声をかけると「ごめん。緊張の糸が切れて、力抜けちゃった」と、悠が苦笑いした。

私は、悠の手を握って背中をさする。

すると、彼はぎゅっと握り返して「ありがとう。実はめちゃくちゃ緊張してた。でも、晴の前だから格好つけちゃったよ。正直、心細かったから、晴がついてきてくれて嬉しかった」と、悠が言った。

「バスの中にスケーター何人もいたじゃん。もう緊張して目が開けてられなかったもんね。俺だっさいなー。ははは」

「そんなことない。スケボーだって準優勝した。朝、バイクの人に絡まれた時も守ってくれた。保育参観も、研究会の資料だってやり遂げたじゃない。優しくて格好良い自慢の彼氏だよ」

「えへへ。俺はね、晴がいるから、なんでも頑張れるんだよ。それに晴のためだったら勇気も出る。自分のために頑張るより、すっげえ力が湧いてくるんだ！」と、悠が太陽よりも明るく笑った。