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熱異常妄想小説
朝6時30分に起床。いつもと変わらない街で散歩をする。ふと空を見上げると、もうすぐそこまで、なにかが来ていた。黒いような、青っぽくも見える、星のようなもの。それはまた、昨日より確実に近くなっていた。もうこの生活も、長くは続かないだろう。だけど、その生活一日一日を、大事で、かけがえのないものにしたいから。
あれから何日経っただろう。街は滅び、焦げ臭い黒い煙が、崩れた家の中に立ち込める。博士の乗っている車椅子を押す私の手も、少し軋むような音がする。 私と博士しかいないこの街で、すぐ近くにある“あの星”を見つめている。
博士が息をしなくなった。脈も薄れている。こういう時どうすればいいか、急いでデータを探す。どうやら人間が息をしない時は人工呼吸がいいらしい。博士の、冷たい口に私の口を重ねる。荒くなった私の息を整えながら、丁寧に、博士の息を取り戻そうとした。
全てが遅かった。もうこの世には居ない博士の心臓は止まり、その博士の顔には私の涙がぽとぽとと落ちていく。…その博士の顔は笑っていた。車椅子の上で笑っている博士は、まるで生きている頃と何一つ変わりないようにも思えた。博士の突然の死に私の人工知能は追い付いていない。誰もいない、私しかいないこの街で私は呟く。
「こんなの、現実じゃない…」