一目惚れ。人生初だ。今までの自分だったら多分そんなことにはならなかっただろうけど今の私は人と関わってなさすぎるあまりこんなことになってしまった。すっと通った鼻筋。シャープなフェイスライン。焼けた肌。薄い唇から並びの悪い歯が笑う時に見え、浅い二重の目には光が宿っている。 横並びに座った彼が私の目をきちんと見た。正面からの顔を見るのは2度目。1度目は数分前に別室にいる私を呼びに来た時。女の人が来ると、 さらにその数分前までは思っていた。担当される人が男だと名前の記載を見て初めて分かり、 かなり動揺した。友達っぽくなるのかなと1人で想像していたイメージががらがらと崩れる。私に惚れたらどうする気なの。相手はガリ勉だ。会ってはいないが現役で早稲田大学に入れるのはそうでしかない。眼鏡で色白でゲームやアニメが好きで、私の高校で大量発生していたゴキブリ男子、略してゴキ男の1人に違いない。彼らは勉強だけが取り柄で、高学歴高収入が保障され、私の目をまともに見てくれない。話に面白味がない。
さあ、彼は私の目をまともに見れるのか。試すような気持ちで、目を合わせにいく。
「自己紹介してもらえる?」
彼の視線は逸れることがない。まっすぐ私の目を貫き、まさかのこちらが逸らす結果になった。
「遊木桜彩(ゆうぎおあ)です」
勿論敬語だ。同級生だが立場は守らなくてはならない。少し精神に来るが、仕方ないことだと自分に言い聞かせる。
相手からそれだけかという眼差しが送られた。
「えっと…バレエとか歌をやってました。」
付け足す。やっていたのはもう数年前のことであるが他にいうことがなかった。
「バレエってスポーツの?」
「踊る方です。」
「あー。そっちか。高校はどこなの?」
「実は親の転勤で引っ越して来てて、去年までは和歌山にいました。」
「和歌山?!」
「はい」
恥ずかしいことではないが少しはにかむ。
「和歌山の人と初めて話した!」
「遠いですもんね。」
「この間は初めて富山の人と喋ったんだよね。」
彼にとっては富山と和歌山のどちらも辺境の場所であるという共通点があるのだろう。
「だから高校は桐蔭っていうところです。知らないですよね?」
「知らないなー。」
当たり前だ。地元では賢いで通るが、東京にまで知名度があるはずはない。彼はきっと開成高校とかの有名高校出身なのだろう。
少し話が止んだので、私も気になることを聞いた。
「焼けてますけど、何かスポーツをやっているんですか?」
少し驚いた表情で私の目を見て、その後そのまま視線を彼の腕に落とす。
「焼けた?そっかー。昨日の練習でかな。受験の時は白かったのに。」
軽く笑うと、糸目になった。少し胸がざわついた。
「なんのスポーツやってるか当ててみてよ?」
話の回し方が上手すぎる。ゴキ男とは全く正反対だ。
「野球ですか?」
私が昔担当してもらった先生は野球をやっていた。高校の時、2年間片思いをした5つ上の医大生だ。顕著な発展があったわけではない。きちんと成人と未成年の一線を超えてこない、真面目なところも好きだった。何となく同じ立場である彼も野球をしているのではないかと思った。
「惜しい。」
「フットサル?」
「惜しい。」
私は言葉がそれ以上出てこなかった。あまりスポーツには詳しくない。
「正解はサッカー。」
「あぁ。」
ど忘れしていた。サッカー部はもっとギラギラしているイメージがあった。高校時代を振り返ってもサッカー部というだけでモテるというアドバンテージがあり、女子同士の恋愛バトルも常にサッカー部を中心に拗らされていた。
「っぽくない?」
「いや、そんなことないです。」
私は先生紹介がされていたポスターを思い出し、そちらの方に目をやった。高校2年の秋にサッカーを辞めたと書いてある。学部は早稲田の教育学部らしい。
「どうして教育学部なんですか?塾の先生をやってるくらいだから、教師になりたいんですか?」
「いや早稲田の6学部を受けて、教育しか受からなかったんだ。」
「そうなんですね。」
少し残念だ。まぐれで入ったと言われているような気持ちである。確かに教育は他学部より偏差値が低い。
「本当は商学部に入りたかったんだよね。でも英語が難化して。」
私が軽い相槌を打つ。
「明るいよね。」
彼はふと口に出した。思いがけない言葉に彼の目を見た。確かにいつもより明るく振る舞っていたかもしれない。気に入られたいから?仲良くなりたいから?もしかしたら私はあなたのこと嫌がってないですよと伝えたかったのかもしれない。
「そうでしょ?想像よりは明るいでしょ?」
私はお茶らけた感じで返した。
「うん。 」
その日の特訓を一通り終えた。舐められたくなくてかなり完璧に課題を仕上げていった。昨日の夜は徹夜だった。無事に終わってかなりホッとした。
少し残った時間で彼はこんなことを言った。
「俺さ、ほんとにサッカーしかしてこなかったったから大学生は色んなことをしたいんだよね。 大阪も行ってみたいし、ディズニーも今年の春休みに行っただけだし、カラオケにも行きたい。海とかも。ユニバは行ったことないんだよね。」
「俺珍しくない?」と言いたげな自虐的な言い方だった。
「結構いますよ。ユニバとディズニー行ったことない人。」
「まじ!?」
「います、います。」
これはガチでいる。私の高校で何人かは見た。
「そっかー。」
物珍しいことを聞いたように彼は笑った。でも行きたいところの欄にカラオケが挙げられたのは少し驚きだ。真面目に生きてきたことが伺える。
さよならの挨拶する時、お互いが会釈をして、私は少し深めにお辞儀をした。
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