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中学生の入学式。高揚感、これからの生活に寄せる期待、そして、ほんの少しの不安。それらを胸に校長先生の話を聞いていた。だが、大切なのは入学式後のホームルームだ。小学校の友達がいればとりあえずは居場所があるが、一人ぼっちだった場合、自分から声をかけるか声をかけられる確率を引き当てるか。健治は中学校入学と同時に引っ越したため、友達どころか知り合いすら1人もいない。自分から話しかけようと思ってはいるが、中々できないのが現実だ。喉から出そうになった言葉を寸前で引っ込める。その繰り返し。だが、突然救世主がやってきた。
伊「なぁ、お前名前は?」
健「あ、、、えっと、、、」
急に声かけられてびっくりしたせいですぐに返事ができなかった。それを見かねて相手の方から自己紹介をしてくれた。
伊「俺は伊藤雄大。前の席だからよろしくな!」
健「ぼ、僕は上原健治です。よろしくお願いします」
伊「なんで敬語なんだよwそれはそうとよろしくな」
健治を隠キャとするのなら、伊藤は完全に陽キャだ。伊藤はどうやら小学校から学区が変わっていないらしい。小学校からの友達も多く、帰る頃にはクラスのメードメーカー的立ち位置についた。一方、健治は伊藤以外とは喋れずに一日が終わった。
帰り道。健治は1人、3年間使う予定の通学路を歩いていた。
健「はぁーーー」
大きなため息を出しながら明日からどうやって友達を作ろうかと思考を巡らせる。もういっそのこと1人でもいいんじゃないか、そんな考えは健治になかった。学校生活を送る上で友達は必要不可欠。そう習ってきたし、健治自身でも実感している。明日からのことを考えながら家に帰る。考え事に集中していたからか気づいたときには自分のベッドに横になっていた。
それから数週間が経った。健治はまだ伊藤以外と話せる関係になった人ができていない。伊藤は席が近いこともあり健治に構っていた。ある日、健治は昼休みに伊藤に呼ばれていた。しかも集合場所は人が来ないような目立たない場所。健治はシメられるのかとビクビクしながらその場所へ向かう。そこにはすでに伊藤の姿がある。
伊「おせぇぞ」
健「ご、ごめん。今日はどうしたの?」
それから伊藤は毎日降り積もっていた友人達や先輩、先生の愚痴を語り出した。だが、その愚痴の内容は聞く限り間違ったことがなく、伊藤のためでもあるモノだった。伊藤はそのことに全く気づいていない。そして、愚痴の勢いはとてつもなく、富士山の噴火のようだ。健治は愚痴を聞いても他の人に話さないと思われ愚痴をこぼす相手に選ばれたのだろう。事実そうである。
健治はただ黙って聞いているだけのもどうかと思い、口を開いた。
健「でも、その人達も伊藤くんのことを考えて」
最後まで言えずに健治の言葉は終わる。なぜなら、伊藤に突き飛ばされたからだ。どうやら宥めようと思ってかけた言葉は逆にストレスを与えたらしい。
伊「お前も、俺を否定すんのかよ!!!」
健「ち、ちが」
再び健治の言葉は途中で切れる。伊藤が我を忘れたかのように拳を振るったからだ。健治も反撃できれば良かったのだが、伊藤は運動部に入部しており、筋肉もある。反対に健治はtheヒョロガリ。力の差は明白である。
5時間目の授業開始5分前のチャイムが鳴ったことで伊藤は殴るのをやめた。愚痴を吐き出し、サンドバックでストレス発散をした伊藤はどこか晴れ晴れとしている。
伊「悪い。大丈夫か?」
健「大丈夫。伊藤くんこそ大丈夫?」
伊「俺はストレスがなくなった。つきあってくれてありがとな」
健治は嘘をついた。大丈夫のわけがない。身体中痛いし、立っているのもやっとだ。次の授業が体育でないことをとても感謝していた。健治は後悔することになる。ここで“大丈夫“と嘘をついてしまったことに。
伊藤は健治に大丈夫と言われたことで無意識に何をやっても怒らない、何をやってもいい存在として健治が認識されてしまった。そのこともあってか伊藤は健治を呼び出し、ストレス発散することがたまの日常になったのだ。
そして健治はいつも終わった後こう思う。
健(僕は、、、どうすれば良かったんだ)
クラスのムードメーカーの伊藤と仲が良ければ他の友達もできるはずだった。伊藤は健治と特別仲が良かったわけではないのだ。健治にとっては唯一の友達だが、
伊藤にとっては数いる友人の1人。親友とまではいかない。だから伊藤の友達との接点はないに等しい。
それからまた数ヶ月が過ぎ、夏休みがやってきた。健治は部活に所属しておらず、伊藤以外と話せていない。夏休みなんて宿題を消化し、祖父母宅に行くだけ。
だと思われたが、夏休みに入る直前、伊藤が健治を遊びに誘った。
伊「お前さ、夏休みって予定ある?」
健「祖父母宅訪問だけ」
伊「そっか。じゃあ俺と遊ばね?」
健「え、僕を遊びに誘ってくれるなんて珍しいね」
伊「健治さ、頭いいじゃん」
健「一応平均点は超えてるね」
本当は健治は学年トップクラスに入っていて平均点なんて余裕で超えている。あまり口外しないのは脳ある鷹は爪を隠すということなのだろう。
伊「頼む。宿題手伝ってくれ」
健「全部僕に丸投げとかしないよね?」
伊「本当はそうしたいところだが流石に人間として終わってる」
伊藤はもう大分人間として終わっているのは一旦心の底にしまっておこう。
伊「わからない問題を教えてほしい」
健「わかった。上手く教えられるか分からないけどがんばるよ」
伊「サンキュー!」
ある日、2人は約束通り図書館で勉強をしていた。文字を書く音が響く。その音はたまに止まり、健治が伊藤に問題を教える。それが繰り返されていた。
数時間もした頃、その音は止まった。
伊「疲れたーーー」
図書館ではギリギリアウトの音量が響く。
健「お疲れ様。大分進んだんじゃない?」
伊「俺もやればできるんだよ」
健「そろそろ終わる?朝からやってるんだし」
伊「やめよやめよ。もう疲れた。少し遊んでから帰ろうぜ」
2人は図書館を出てファミレスへ向かった。昼食をとり、次はゲーセンへ行こうかと話す。支払いは健治だった。健治は少しでも恩を売っておけばあの暴力も減るのではないかと思った。そんなことが起こらないことはまだ知らない。
それからゲーセンで遊び、次の遊ぶ約束をして帰った。
夏休みの間、2人は宿題をして遊ぶことを数回繰り返した。伊藤の宿題が終わると2人が遊ぶ予定はなくなった。また、遊んだ時は必ず健治が支払いをした。健治は金持ちでもなければ小遣いを多くもらっていることもない。だが、伊藤の分を払わないと不機嫌になる。だから奢るしかなかった。
夏休みが終わり、冬休みも終わったが1学期となんら変わらない日常を送っていた。だが、今日はたまたま伊藤と一緒に帰っている。帰る方向は同じなのに今まで一緒に帰らなかったのは伊藤には他に一緒に帰る友達がいたり、そもそも帰宅部と運動部では帰る時間帯がまるで違うからだ。
この日、健治は初めて伊藤の家を知った。
健「いい家だね」
伊「だろ。最近建ったわけじゃないけど丈夫なんだ」
家の前で話しているとご老人が出てきた。
伊「じいちゃん、ただいま」
健「は、初めまして。えっと、あの」
じ「おかえり。そっちは雄大の友達かい?」
伊「あー、うん、そうだよ」
健「よろしくお願いします」
じ「雄大、台所に柿があるから数個ほど友達に渡してやりなさい」
伊「わかったー」
そう言うと伊藤は家の中へ行ってしまった。健治は極度の人見知り。初対面の伊藤の祖父と2人きりで落ち着いていられるわけがなかった。数刻の間沈黙が続いた。伊藤の祖父は健治を見てから話し出した。
じ「雄大と仲良くしてくれてありがとう」
健「い、いえ。ぼ、僕の、方こそ」
じ「あの子は我慢をほとんどしない。それがいいところでもあるが悪いところでもある。君が我慢することもあるじゃろう」
健(確かに伊藤くんが我慢してるとこなんて見たことない。でも、初めて殴られる前は少し我慢していたんじゃないかな)
じ「君も我慢しくていい」
伊藤の家の扉が開いてビニール袋に柿を3、4個入れた伊藤が出てきた。
じ「雄大もきたことだしわしはこれで」
健「さ、さよなら」
伊「じいちゃんと何話してたんだ?」
健「えーっと、挨拶(?)」
伊「なんだそれw」
伊藤は軽く笑った。そして何かを思い出しておもむろにスマホを出す。
伊「お前スマホ持ってるよな」
健「うん」
伊「LINE交換しよう。友達いなくてもLINEくらい入れてあるよな」
健「あるけど(君は友達じゃないの?さっきおじいさんに友達って紹介してくれたよね)」
伊「交換だ。通知切るなよ。返信遅かったら許さねぇからな」
半強制的に伊藤とLINE交換をさせられた。伊藤の画面を少しみると明らかに友達の数もグループの数も多かった。健治は伊藤の「友達いなくても」に引っかかっている。言い間違いか、それとも・・・
健(僕も我慢しなくていい?)
健治は1人考えている。自分が何に不満があってどうしたいのか。
健(そもそも、僕が嘘ついたことが悪いんだ。でも、伊藤は嘘よりひどい傷を僕に何回も何回もつけた。僕が全部我慢しなくてもいいんだ。誰にでも悪いところはある。伊藤くんが我儘をやったんだから僕も思うがままに行動していいんだ)
そして健治は再び考える。自分が何をしたいのか。自問自答する。
やられたままで悔しくないのか?
健(NO)
されるがままでいいのか?
健(NO)
復讐がお望みかな?
健(・・・YES)
眠れる獅子が生まれて初めて目を開けた。
翌日から健治は手に人の文字を書いて食べるを10回ほど繰り返してから初めて自分からクラスメートに話しかけた。
目的は、録音した伊藤の愚痴を聞かせること。最初は誰もが健治の言うことを信じなかった。が、今はスマホという文明の利器を使える。録音をして聞かせれば信用を得るのは容易かった。録音のおかげでもあるが、伊藤のダメ人間の部分は大分浸透していたことも皆からの信用を得るのに有利だった。
健治は伊藤のサンドバックという立場を上手く利用した。伊藤に文句を言いに行く者も現れた。けれど、それを健治が止めた。「僕が伊藤くんを説得したい。だから皆は関わらないでほしい。今まで僕が黙っていたのも悪かったんだ」と言った。健治は悪くない、友達思いの素晴らしい人間だ。健治の言葉を聞いたクラスメートの大半がこう感じた。それが健治の策略だと疑いもしないのだった。
春休みに入る2ヶ月前にはクラス、いや学年全体で伊藤を無視する風潮が出来上がっていた。伊藤は無視が始まった直後は親しい友人になぜ無視するのかを聞いて回っていた。誰に聞いても「お前と一緒にいたくない」という簡潔な言葉だけが返ってきていた。伊藤はそのことでイラついていた。再び健治をサンドバックがわりにするかと思われたが、そんなことはなかった。なぜなら、今、伊藤と話しているのは健治だけである。健治だけが伊藤の唯一の友達になったのだ。唯一の友人を失う行動をするほど伊藤も馬鹿ではない。伊藤にとって友人とはとても大事なものでボッチとは耐え難い苦痛なのだ。
そして伊藤が無視をされたまま春休みが訪れた。健治の計画完遂まで後少し。
伊藤は今までの友人たちからの無視がよほど聞いたようで前までの元気な様子はあまり見られない。それを見て健治は計画が順調に進んでいることを確信し、安堵した。
健(僕にも悪いところはあった。殴られた時に「大丈夫」と嘘をついたことだ。そのせいで辛い思いをした。伊藤くんの認識を誤らせてしまった。嘘をつくのはいけないことだよね。だから僕は嘘をついた代償に犯罪者としてこの後の人生を生きる。だからさ、
伊藤くんも僕を苦しめた代償を払ってね)
伊藤が無視されてから一緒にいるうちにわかったことが多くある。その一つに伊藤が祖父によく懐いていることだ。健治はそれを利用しない手はないと考えた。今は入院中。検査入院らしいが、伊藤と2人で見舞いに行った時、点滴に繋がれていた。すぐに死ぬとは思えないが、完全に元気というわけでもない。
そして、3月31日。夜に病室に忍び込み、点滴に細工をする。効果が発揮されるのは翌日の昼過ぎだ。
健(ありがとう。あなたのおかげで僕は今ここにいる。やりたいこともわかったし、それを実行できてる。心から感謝します)
心の中で感謝を伝え、病室を後にした。
次は、大荷物を持って伊藤の家に向かう。伊藤の家族が全員外出してから家に侵入し、今まで伊藤に使った金を取り戻した。そして、すぐに家の中に伊藤を閉じ込める。火が回っても逃げられないように厳重に。数時間でこの作業も終わった。
全ての準備が終わると健治は最後の仕上げに入る。最後に・・・
スマホを取り出し、LINEを開いた。