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家に帰ると、ヒョンジンに刺された。
夜の2時くらい、おかえりも言わずに。
僕は腹部に突き刺さった包丁を抜かれると同時に、冷たい床に倒れる。
玄関は薄暗くてあまりよくわからないでいると、上から鼻をすする音がした。
なんとか見上げると、目と鼻を真っ赤にしたヒョンジンが、真っ赤な包丁を持って僕を見下ろしている。
ヒョンジンは眉に皺を寄せることなく、ただ僕を見つめる目から涙を流していた。
「よんぼが、俺努力するから」
ヒョンジンからよく聞いた言葉。
なんでも無い時に、ただただ苦しそうな顔をして泣きついてきた。
原因はわかってる。僕が浮気してくるから。
出掛けては毎回のように他人の香水を匂わせて帰ってくる僕に、最初はいくつもの言葉を投げかけてきたけど、いつの間にか悲しそうな顔をしておかえりとキスをしてくれるだけになった。
それは、多分僕がごめんとか気をつけるとか、そういう言葉しか言わなかったから。
でもヒョンジンは、繊細で脆い人だ。
同時に優しくて純粋だから、僕を責める事無く、正当な努力で僕の隣に立てると思ってしまう。
本当に、僕なんかに固執していい人じゃなかった。
でも僕はそんな人を傷つけて傷つけて、壊してしまった。
ヒョンジンは近くに落ちている包丁なんて気にせずに、床に膝をついてわんわんと泣き始めた。
「よ、よんぼ、が、なんで?なんで?」
意識が遠のいていく中で、ヒョンジンの声が頭に響く。
手と髪で覆われて顔は良く見えないけど、彼の声から全てが伝わってきた。
わからない。言いたいけど声が出なくて、そっと口を閉じる。
ごめんね。言いたいけど声が出なくて、そっと口を閉じる。
かわりにヒョンジンの前に手を出すと、ぎゅっと力強い手で握られた。
酷く熱くて、怖がりな手。
あー、なんでこうなっちゃったんだろう。
もうちょっとだけ、ここにあるさ幸せを感じればよかったなぁ。