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ピピピというアラームの音が聞こえてくる。
慣れないアラームに気が付き、優斗は目を覚ました。どうやら、現在優斗は、横になっているらしい。
「もう、始まりか。タイトル画面くらいあって欲しかったな」
優斗は起き上がり、自分の体を見てみる。
容姿は以前とそんなに変わっておらず、ダボダボの灰色パーカーに黄土色の革ズボン。
枕元に置いてあった手鏡を見てみれば、墨汁色の少しボサついている髪。
稲妻色で宝石のような綺麗な瞳。
可愛らしい顔が映っていた。
「なんか、俺が美少年になってるし……」
これが自分の顔とは驚きがたい。
ギャルゲーだから、これが普通なのだろうが。優斗が自分の容姿に驚いていると、扉が開かれる音がする。
「あれ、起きてたの?っていうか、なんで手鏡?」
現れたのは、中学校の制服を着たツインテールの美少女。瞳の色は綺麗な青空色だ。
「え、あ、う、うん」
視界の下側には台詞が表示されたウィンドウ。
名前の部分には《奈緒》と記されていた。
リアルとは何なのだろうと聞きたくなるが、我慢しよう。
「?兄貴がなんか変。寝起きだから?」
どうやら、奈緒というこの少女とは兄妹らしい。多分、妹なのは間違いないだろう。
「う、うん。今起きてさ」
何だろう。とても慣れない。
ウィンドウは一丁前に表れる癖に、台詞の選択肢だけ表示されないため、自分で台詞を考えなければいけない。
「へー。ま、起きてるなら良いや」
奈緒がそう言い残すと、部屋を去って行く。
怪しまれているのは確実だろう。
それにしても、このウィンドウ。
本当に消えてくれないだろうか。3Dに2Dが無理矢理付けられた感じで、違和感が過ぎる。
「……待てよ?これがゲームなら、設定が存在するはず」
優斗がそう呟くと、目の前に設定画面が表れた。
「あー、言ったら出る系か」
とりあえず、ある程度の仕組みも理解出来たし、設定画面の中にウィンドウの非表示がないか、探してみることに。
かなりスライドしたが、ようやく見つけ、優斗はウィンドウの表示をOFFにした。
その時、扉の方から母親らしき声が聞こえてくる。
「優ちゃーん、学校遅刻しちゃうよ!今日、始業式よねー?」
そういえば、学校があるではないか。
思い出し、優斗は脱ぎ捨てられていた制服に着替える。すると、視界の斜め右側に何やらタイムリミットのようなものが。
見てみると、学校遅刻までの時間が表示されていた。残すところ、後三十分。
優斗は鞄を握り締め、部屋を出た。
「あら、優ちゃんおはよー。朝ごはんいる?」
部屋を出た瞬間に現れたのは、母親らしき声の持ち主。《冴》と名前だけ表示されていた。
「あ、いや、いらないや」
過ごしてみる感じ、名前は優斗のままで安心した。
「そう。それじゃあ、行ってらっしゃい~」
母親が優斗を玄関まで連れて行くと、手を振ってお見送りする。優斗は靴を履いて、玄関の扉を開けた。
「行ってきまーす」
優斗が外に出ると、冷たい風が挨拶する。
それと同時に家の扉が開き、登校が開始した。が、問題は次々と現れる。
「家を出たのは良いけど、道が分かんない……」
せまるタイムリミットに焦りながら、優斗は必死に考えを練る。
「あ、そうだ。マップ!」
設定の時のように声に出すと、地図が表れた。地図には現在地、学校までの道が記されている。
「よし、とりあえず、残りが二十五分だから走っていこう」
学校までの距離を見てみた感じ、走らないと間に合わない。けど、自転車を使う程でもなかった。
やがて、学校前の信号に辿り着き、青に変わるまで待つ。
タイムリミットを見れば、残り十一分。
優斗は息を切らしていた。
「まあ、これで間に合うなら結果オーライだな……」
優斗は青信号まで休憩しようと、膝に手を付いたが、全然青に変わらない。
「誰も来ないし、タイムリミットも残すところ、後、一分だぞ……!?」
もう十分は待っている。
なのに、何故変わらないのか。
優斗が本気で焦っていると、タイムリミットがゼロになり、学校からチャイムが聞こえてくる。
それと同時に信号も青になり、優斗は言葉を失った。
◇◇◇◇◇◇
「佐江島くーん。おはようございます♪」
靴箱まで行くと、綺麗な女の声が聞こえる。
他の人に言っているのかと思ったが、その場にいるのは優斗だけ。
佐江島は優斗の苗字なのだろう。
そう思い、視線を声の方に向けると、黒の長髪で青の瞳。清楚系美少女がそこにはいた。
表示されている名前を見てみると、《響花》と記されている。
「今学期もまた遅刻。放課後までに反省文百枚書いて、生徒会室まで持ってきてくださいね?」
「は……?百枚??」
響花の無茶振りの言葉に優斗は声を上げた。
「当たり前ですよ。今まで、一枚も提出してなかったんですから」
このギャルゲーの主人公。
遅刻し過ぎだし、本当に劣等生ではないか。
「それじゃあ、また放課後ですね。もし、また提出されていなかったら……」
「い、いなかったら……?」
響花の途切れ言葉に息を呑む。
「学食、奢って貰いますからね」
「……え?あ、は、はい」
思ったよりも軽かったので、少し戸惑ったが、それくらいなら提出しないで大丈夫そうだろう。
「それじゃあ、約束ですからね~!」
優斗の返事を聞いた響花が何やら微笑みながら、その場を去って行った。
「何なんだ、あの人……」
◇◇◇◇◇◇
それから優斗はマップを見て、教室に向かった。教室前に辿り着くと、黒髪のお団子ヘアーに、ルビーのような綺麗な瞳。
白塗りで制服姿の美少女が扉の前に立っていた。
「…………」
その女は無口で何やら気まずい、名前を見てみるが《凛凛》という見たことのない名前をしていた。
その時のこと、後ろから厳つい声が聞こえてくる。
「おーおはようさん。佐江島!」
後ろを振り返ると、黒髪で角刈りヘアー。
年齢は五十代後半くらいで着ているジャージを今すぐにでも引き裂きそうなくらいの大きさの男がいた。名前は《五郎》
見た感じ、教師だろう。
「お、おはようございます……。ははは」
顔はニコニコなのに、五郎から圧が感じ取られる。これは不味いと思い、優斗は教室の後ろの扉に駆け込んだ。
「おーおはよう佐江島」
教室に入ると、クラスメイト達が優斗に挨拶をする。流石は主人公。
友達は多そうだ。
「お、おはよう皆」
マップに書かれている自分の席に行き、座る。どうやら、王道席のようで、左の列から二番目の一番後ろ。
左側の神席、隣の席は空席だった。
次の瞬間、教室の前側の扉が開き、五郎が凛凛という少女と一緒に入ってくる。
五郎は優斗を見るなり、舌打ちをしていた。
「お前ら、今日は留学生を紹介する」
凛凛は留学生らしく、名前から中国人だということがハッキリと伝わってくる。
「自己紹介を頼めるか?凛凛」
五郎の問いかけに凛凛が小さく頷くと、教卓の前に立ち、口を開いた。が、その内容があまりにも衝撃的過ぎたためか、教室が静まり返った。
「陳凛凛です。嫌いなのは日本人」
「あと、一人が好きなので話しかけないでください──」
ペラペラの日本語。
教室は一瞬にして凍り付いていた。