「早速着いてきてほしい現場があってな、
坊主今手空いてるよな」
一切悪意のなさそうな笑顔をするが、どうしてもその笑顔が信じられない
s「あぁ、え~っと……」
「…この後ゾムさんに頼まれてる手伝いでもあったのか?」
s「あっ、あぁ…そうです呼び出されてて…
時間、間に合わないんでもう行きますねっ」
そう言うと愛想笑いしてお辞儀をすると早足に男と反対方向に向かって走った
ここの屋敷から逃げ出そうという気はなかった
逃げ出しても特に良いことはないからだ
屋敷の中をぼーっとしながらふらふらと歩く
中庭の盆栽に見蕩れながらよそ見をして歩いていると大きい壁にぶつかった
sha「ぁ、すみませ……」
ぶつかったのはゾムで緑色のパーカーからまたスーツ姿に変わっている
zm「あれ、お前…あいつに仕事着いてこいとか言われてなかった?」
sha「…ぇ?あ、あぁ…頼まれてたっけなぁ?」
何となくこの人の人柄は掴めた気がする、多分きっと優しい人なのだろう
だがそれすらも疑ってしまうような低いトーンの声とこの威圧感
下手な誤魔化しは効かないと分かっていたはずなのに何故こんなことを言ってしまったのだろう
zm「まぁええわ暇なら俺の仕事ついてこい」
sha「はい…」
少し猫背なゾムの背中に着いていくと黒塗りの車だらけの大きい車庫に着く
zm「後ろに荷物乗せるから、お前は助手席乗れ」
sh「了解でーす…」
ここまで来たら逃げられないと確信した俺は渋々助手席に乗った
シートベルトを装着すると同時に車が動き出した
zm「スーツサイズ合ってるか?」
sha「まぁ、はい…」
ここの車庫に来る前に新品ぴかぴかの黒のスーツを渡されたのだ
一回り大きいが、これからずっと使うとなればちょうどいいくらいだろう
zm「…学校はちゃんと行かせるから、明日もいつも通り登校しろよ」
そういえばすっかり忘れていた、丁度土日で旅行に来ているような気分だったので明日も休みだと勝手に思い込んでいた
sha「わかりました」
会話が途切れて無言の空気が流れ始めると同時に険しい山道に入った
zm「今日の任務…まぁ、任務っちゅう重大な仕事でもないんやけど…」
落石注意と記されたボコボコの看板が潰されているのが見える
zm「ここの森抜けた後に、少し古い街に出るんやけどまぁそこが所謂ギャングシティって言うやつで、俺らよりもっともっと悪い奴がそこにおんねん。」
sha「ギャングシティのヤツらとゾムさんは関係ないんですか?」
zm「うーん、深い関わりは無いけど敵対組織でもないな。今日は縄張りで無許可で薬売ってる売人を少し片付けるだけかな、そこの長が掃除しろって言うんやからタコ殴りにされることも無いで」
sha「それで俺は何をすればいいんですか?」
zm「あ~…結構重大任務なんやけど、俺が密売人の相手してる間にお前は薬もってヤク中と鬼ごっこしとけ」
sha「はぁ?だって、そんなの…捕まったらどうなるんすか」
zm「ヤク中がやることなんて想像つかんな…お前も薬漬けにされるんちゃう」
sha「なっ!?薬漬けって…そんな事したら俺死んじゃいますよ?」
zm「死ぬっちゅうよりも視界が可笑しくなって動けなくなるみたいな感覚ちゃうかな」
sha「それでもやですよ…。ま、まぁ…俺足速いし、余裕ですけどね」
zm「はは、じゃあ頑張って逃げ回れよ」
拠点に着いた所で、フロントガラスから柄の悪い男が威嚇しながらこちらに向かってくるのが見えた
sha「…あの、あれ……」
zm「まあええ人達やろ、もし襲いかかってきたら俺が守ったるから取り敢えず出るぞ」
死を覚悟したところで助手席のドアを開けて外に出た
「ちょっとそこのお兄さん達、ここがどこかわかってんの」
「あー、その黒の車…お前も俺らと同じようなやつか」
「あぁ!?関係ねえよ、やっちまいましょうよ」
「なんだよそのヒョロいチビ、何しにここに来たんだよクソガキ!!」
数々と飛び交う罵倒の言葉にびくびく怯えながらゾムさんの背中に身を隠した
sha「ちょっと、やっぱりやばいってこいつら……!」
zm「ここの長とは話してあるからそこ退け」
「あぁ…!?なんであんなやつ……」
「まあ落ち着けや、あの人が言うんだから通してもいいってことだろうよ。まあ、もしここを荒らすようなことしたらすぐにかかれ」
此方を睨みつけながらひそひそと話している
zm「荒らすようなことした場合はこいつも俺も含めてボコボコにしてもらっていい、けど絶対にそんなことせえへんから取り敢えずそこ通せ」
数十人で俺たちを囲んで睨みつけながら通してくれる。どうしてもその目線が怖くてでもムカついて、やり返すように1人のヤクザを睨んでやると「あぁ!?!?」と耳がちぎれそうなほど大きい声を出して威嚇した
それにびっくりしてゾムのスーツを引っ張ると焦ったように声を出した
zm「ちょ、お前…無駄な威嚇はやめろ!」
sha「だってずっと睨んでくるし……!!」
zm「こいつらなりの歓迎の仕方なんや受け入れてやれ」
sha「………うん、」
本当はぺっと唾を吐きかけてやりたいところだがここは大人の余裕で耐えてみせた
ギャングの街というのは、そもそも関わりがなかったため行ったことがない未知の世界だった
反社会的組織がいること自体信じ難い事だったため、いつ命が狙われるか分からないそんな状況で呑気に笑っていられるはずがない
ゾムのスーツの裾をぎゅっと掴んで離さない
そんな俺を見兼ねたゾムがふっ、と笑って言った
zm「話はつけてあるって、銃は持っとるかもしれんけどこっちがなにかせん限り銃は向けてこんから大事や。不安になるならスーツ握っといてもいいけど」
sha「…ゃ、うん…やっぱスーツ、握っとく」
スーツの裾は握ったままで薄暗い街の中を2人でさまよった
この話あと次の話で終わらせてちゃんとBL展開にするので許してください
色々書いてる途中‼️