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「ということで、ずっと事故の衝撃から昏睡状態で入院中だった知念君ですが、先月意識を取り戻しリハビリを経て、やっと学校に戻ることができました」
担任の女教師が、知念の肩に手を置きながら言った。
「知念君といろいろあった生徒もいると思いますが、せっかくこうして戻ってきてくれたわけなので、また1-5組の29人、みんなで仲良くやっていきましょう!」
教師の言葉に拍手が響く。
知念は懐かしくもない自分の席につくと、いつの間にか月日が経ち、すっかり寒くなった教室に身震いをした。
「おかえり、知念!よかったなー、ホント」
前の席の新垣が小声で囁いてくる。
「お前さ、結局なんで飛び降りたわけ?」
「……わかんない」
答えた知念に、
「おい、知念」
後ろに座っていた比嘉が笑った。
「今度は飛び降りる前に言えよ。俺が下で受け止めてやるから」
言った比嘉に、
「馬鹿。一緒にお陀仏コースだろ」
隣りに座っていた玉城が笑う。
「でもさ、マジでなんか悩みとかあれば言えよな!」
新垣はそう言うとニッと笑い、黒板に向き直った。
「せっかく同じクラスになった仲間なんだからさっ!」
はっきり言って、屋上から飛び降りた当時の記憶はない。
飛び降りなきゃいけない理由も思い浮かばない。
気心の知れたクラスメイトたちも、親身になってくれる教師たちも同じで、なぜ知念が突然飛び降りたかは謎のままだ。
―――まさかいじめられていたわけでもあるまいし。
「それじゃあ、教科書を開いて。73ページ」
教師の言葉に、他の生徒たちと比べて明らかに真新しい教科書を開く。
並ぶ文字にうんざりしながら、筆入れを取り出そうと屈んで鞄を漁る。
その瞬間、すごい音がして、知念は視線を上げた。
目の前の机の上に、手が乗っていた。
若い男の手。
しかしその手は血だらけで、小指が一本ちぎれていた。
「………?」
視線を上げる。
この高校の男子生徒。
茶髪。
整った顔立ち。
しかし、
見覚えはない。
自分の名前を呼ぶ男の口の端から、赤黒い血が流れ落ちる。
瞑れた右目。
縋りつくような左目からは涙が溢れてくる。
もう一つの手を知念に向かって伸ばしてくる。
「………ッ」
あまりの衝撃に瞬きをすると、男の姿は嘘のように消えていた。
「……?」
なんだ今のは……?
男の血だらけの手がついていた机の端には、
歪んだ黒いカードが落ちていた。
【ドールズ☆ナイト 完】