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めちゃ良かったです…! いちさんのラノベの書き方や物語等、すごく分かりやすく楽しめました! これからも頑張ってください!!!
いい話すぎて泣きました😭 これからもどんどん書いていって ください!😭
8.もう一度歩む
「潔。寝てんのか?」
小さな体が少しだけ動き続けている。
微かな寝息を横目に並んで座った。
「…ごめん、潔。苦手ばっかだったな。思い出すのは辛いか、? 」
もちろん潔の返答はなかった。
泣けない。泣いちゃいけない。
ずっと前から考えていたことだった。
「凛はさ大学どーすんの?」
「何も考えてなかった。取り敢えず大学出て適当に就職できたらいいな。」
「だな。就職しても一緒だよね、?」
潔は下を向いて少しだけ不安そうに呟いた。
「…潔が横にいてくれる限り、俺は逃げねぇ」
「凛ならそう行ってくれると思ってた。」
俺の目を見て微笑む潔が思い出される。
「もし凛が辛くなったらさ、俺のことなんか考えなくていいからな。」
“凛は優しいから、きっと俺のことばっかり気にかけるだろ?”
“急になんだよ、アニメの見過ぎか?”
“ちげーよ!笑ほんと雰囲気ぶち壊し野郎!”
「楽しかった、互いに部活があったから遊びになんかいけなかったけどさ。」
潔の寝顔にそっと顔を近づける。
「帰り道、実は帰りたくなかったくらいには幸せだったって、知ってたか…?笑」
本当に今日はらしくない。
玲王、蜂楽に背中を押されて凪にも手を焼かせてここに来れたのに。
「潔、なんで忘れてんだよ、クソいさ…ッ」
目の前が真っ暗になる。
唇が何かに触れる覚えがあった。
「忘れてねーよ、くそばか凛!!」
「忘れて…ない?」
潔は泣いていた。いや泣きそうになっていた。
俺の肩を掴んで上半身だけを起こす。
「忘れてるしなんでここにいんのかも分かんねぇし、頭痛いし。でも凛のこと、ちゃんと分かるよ、?」
潔の言葉は信じられない、でも信じたい。
「ナースコール、押すぞ。」
冷静に淡々と話す。何も考えなくて良い。
震える手でナースコールを押した。
「…これは…事故の瞬間前までの記憶を自力で取り戻してる…?潔くんのご両親の希望で記憶のリハビリは行う予定だったんだけど…」
「じゃあ、潔は…俺のことを忘れてない?」
先生は微笑んだ。
「君のそんな顔、二度と見れないかもね。」
「こんにちは、ご無沙汰してます。あの、あの…潔がッ!!」
「分かってるの、今さっき病室に会いに行ってきてね、凄く不思議そうな顔で”凛が変なんだ”ってね笑」
「いやぁ、びっくりしたよ。事故の記憶だけがないなんて。」
この2人は幸せそうに笑っている。
気づいてしまったんだ。この優しさに。
潔にとって、2人にとって、記憶を思い出させる為のリハビリはとてつもなく辛いはず。
それを分かっているから先生は選択させたんだろう。
「じゃあ先生のところに行ってくるわ。よっちゃんのこと、よろしくね。」
「また今まで通り、だな。凛くん。」
2人の進み出す後ろ姿にそっと投げかけた。
「ありがとうございました。」
2人は止まらない。蜂楽も2人も同じ優しさに溢れていた。
「退院おめでと〜!潔ぃ〜!!」
「ありがと、蜂楽。」
「ほんとに夢見たいな話だね。」
「凪、食べながら寝るな!」
潔を囲む全てのものが光って見えた。
あんなに泣きじゃくっていた蜂楽。
あんなに怒っていた凪。
あんなに悩んでくれた玲王。
あんなに優しさに溢れる潔の親。
潔が取り戻したのは記憶だけじゃない。
そのことはもうみんなが気づいているはずだ。
「あ、凛!来てくれたんだな。」
潔が人混みの中で俺を見つけると駆け寄ってくる。
「今日は厚底じゃないからどーせ身長のことばかにして……凛?」
ただそっと弱った体が無意識に潔に手を伸ばしていた。
「俺を好きになってくれてありがと。」
自分でもらしくないと思う。
それでもこの手を話すことができなかった。
「…俺が好きになれた人が凛でよかった。」
潔もそっと俺の手を握り返してくれた。
こんなに幸せでいいのか疑いたくなる。
それても。それでも。
この幸せが一生続きますように。
また潔との日々を歩んで、記憶の中の思い出が溢れかえりますように。
そう思って止まらなかった。