「ハリー・ポッターが吸魂鬼に襲われて気を失ったらしい。」
朗報だなコレは。
あのハリー・ポッターが吸魂鬼に…、へぇ。
緑色のローブを着た一際目立つプラチナブロンドの髪は愉快に揺れた。
気持ち悪い。
吸魂鬼に襲われてから気分が優れないポッターはルーピン先生から貰ったチョコレートを舌の上で転がしていた。じんわり溶けて行くチョコレートと少しずつ満たされていく幸福感。先生の言ってたことは本当なのか、なんてぼんやり考えながら城内を歩く。すると見慣れた姿で闊歩する3人の影が。真ん中を歩く背丈の高いプラチナブロンドはポッターを見掛けるや否や愉しげに口角を上げて此方に歩み寄った。
「やぁ、英雄殿。”あのウワサ”は本当なのかな?」
「…本当さ。」
「おや、英雄として情けない姿だね?」
「マルフォイ、いい加減にしろよ!」
「おやおや、ウィーズリーじゃないか。君のご友人が襲われているというのに何も助けなかったウィーズリー。」
マルフォイがウィーズリーを見て目を細める。ウィーズリーはマルフォイからの言葉に顔を赤くした。
「ロン、!所詮マルフォイよ、!それに吸魂鬼を追い払うには高度な呪文が必要なの、貴方が気負う必要は無いわ。」
「ほう?残念だなポッター。君のご友人2人は難しい呪文は使えないからという理由で君の命を離しかけたようだ。 」
「ロン達は僕に呼びかけてくれてたんだ。見離すなんてなかったと思うよ。」
「恋愛だけじゃなく友愛も盲目にさせるようになったのか?」
「君が友愛ってものを知らないだけじゃない?」
ポッターはマルフォイの肩にわざと当っては教室へ足を運んだ。その後追い掛けも叫びもしなかった彼はきっと悔しさで顔を赤くしてる事だろう。ポッターは勝手にそう解釈しては少し肩を震わせた。ウィーズリー達はその姿に疑問符を浮かべ互いの顔を見合った。
そういえば今日はハグリッドの初授業だ。これがスリザリンとの合同授業なのが腹立たしいが…まぁ仕方が無い。ハグリッドの授業を成功させるべく立ち上がった3人は互いの顔を見て頷きあった。
「ハグリッド!授業頑張って!」
「おう!お前さんら応援あんがとな!」
いつものように挨拶を交わせば応援の言葉も投げた。ハグリッドは嬉しそうに顔を綻ばせては手を挙げ応えた。
「父上がダンブルドアがあのマヌケを学校に配属させたって知ったらなんと仰る事か。」
ハグリッドの初授業。彼を悲しませる訳にはいかない。彼の授業を成功させるプランにはドラコ・マルフォイは邪魔者だった。ただ、邪魔だと思う反面わざわざ突っ掛って来る彼に可愛さを感じ始めていた。白い肌に綺麗なアイスグレーの瞳、それを隠すように生えた長い睫毛に薄いピンクの唇。その口が開かれたと思えば自分に対する嫌味やらなんやら…。自分の事となれば饒舌になるその口が最早愛おしかった。
「黙れよ。マルフォイ。」
1歩、また1歩とマルフォイに近付く。すると彼も意地悪に口角を上げて此方に近付いて来る。自分の体を下から上へと概括すれば空の方へと視線を持って行き表情を強ばらせた。
「ディ…ディ、ディメンターだ!!」
マルフォイがそう叫んでは空を指差す。反射的に後ろを見上げては背後から笑い声がした。
……あぁ、また嵌められた。
呆れながらもマルフォイに視線を戻せばフードを被り吸魂鬼のモノマネ。
あー、とっても似てますねー。
大きく息を吸っては吐く。きっとこれが怒りだと感じたであろう彼らは楽しそうに笑った。自分を揶揄う事でコロコロと変わるその表情…いっそ僕が支配してやろうかな。鋭い視線でマルフォイを見るも彼はクラスメイトと顔を合わせて嘲罵するのみで。
グレンジャーはポッターの怒りをこれ以上大きくさせない為に、そして列車でのことを思い出させないようにポッターの肩を持ってはハグリッドの方へと向き直させた。
……が、マルフォイはフードを被ったままポッターと呼びかけた。
「何?君に長く構ってられるほど暇じゃないんだけど?」
マルフォイは何食わぬ態度でにやにやとしたまま腰を折り吸魂鬼の真似をしながらポッターに述べた。
「”吸魂鬼のキス”でもしてやろうか?」
ポッターは目を見開いた。その後すぐに視線を鋭くさせるとアイスグレーの瞳を一直線に見詰めた。マルフォイは少し怖気付いては1歩後ろに足を引いた。
こんなことを言って逃がす訳が無い。
ポッターはマルフォイのネクタイを引っ掴み自分の方へと引っ張ると呆気なくマルフォイの身体の主導権を握った。
「その揶揄い、随分と挑戦的だね?」
「っは、ポッター…何本気に…」
「本気?あぁ、確かに本気かもね?君の揶揄いに乗ってあげようとしてるからね。」
「……、!離せ、!離せ!!」
「こらこら、暴れちゃ駄目だよ。吸魂鬼のキス、くれるんでしょ?」
「する訳ないだろ、!誰がお前なんかに…!」
「自分が言った言葉から逃げるの?僕を揶揄うってことはそれなりのリスクを伴ってもらわないと。」
「っ…、!スネイプ先生に言い付けるぞ…!!」
「じゃあその元気な口を閉ざす迄だよね。」
ネクタイをもう一度引っ張れば互いの息が混じり合う距離まで顔が近付く。マルフォイはこの現状に目を見開き青褪める。瞳は涙に揺らし、細かく息を漏らす。微かに震える身体にそっと手を回せばそのまま薄い唇に吸い付いた。
ちゅ、と態と音を立てて何度も何度も薄いピンクの唇を味わう。マルフォイはギュッ、と目を瞑りポッターのローブをしっかりと握る…が、その手はやはり震えていた。
「吸魂鬼のキス、どう?怖い?」
顔を離しては身体を密着させたまま嘲笑うようにマルフォイを見る。当の本人は顔を真っ赤にして今にも叫びそうな雰囲気だった。
「ハリー!何してるんだよ!」
「何って、マルフォイの揶揄いに乗ってあげただけだよ。」
「貴方…それ……本気?」
「あぁ、僕は至って真面目だし本気さ。」
「ポ、ポッター…」
「んん?」
「…君は……一体…」
「……あぁ、吸魂鬼のキスで精神的に参っちゃった?チョコでも食べる?」
ポッターはチョコを口に放り込めば口内で遊ばせ軽く溶かす。その後再びマルフォイの腰をグッ、と寄せ身体を密着させれば口を付け、チョコを流し込む。相も変わらずマルフォイは目を瞑り、眉を寄せ目尻に涙を貯めていた。マルフォイの口内に舌を忍び込ませればチョコの塊を彼の口内に移し、顔を離す。二人の間に少し茶色い銀色の糸が出来上がる。息が上がった様子で肩を上下させるマルフォイは口元を軽く拭えば涙を貯めた目で此方を睨む。何一つ怖くないので肩を竦めては目線を逸らした。
「ハリー、、!」
「んー?」
「スリザリンの奴らは勿論だけど、グリフィンドールの皆にも凄い目で見られてるよ、、!」
「さっきも言ったじゃないか、僕はマルフォイの揶揄いに乗っただけだって。」
「仕返しだと思うけど…やりすぎじゃない?」
「じゃあー、何、ロンにもしてあげようか?吸魂鬼のキス。」
「……遠慮するよ。」
「ね?マルフォイ。吸魂鬼のキスはそんな簡単に話にしちゃいけないよ?」
「…ポッター、!」
悔しそうに此方を睨めばギリっ、と歯を食いしばり低く唸る。今の姿見じゃ子犬の威嚇のようなものだ。何ら怖くないその有様にフッ、と口角を上げせせら笑っては知らん振りをしてハグリッドの方に身体を向けた。
ポッターが身体を向き直した後マルフォイは被ったままのフードを更に深く被り、うるさい心音を抑えるのに必死だった事は彼しか知らない。
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