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アランさん一行と共に俺たちはデレクから王城へ戻ってきた。
「明日は午後から空けておくように」
「了解で~す」
別れ際にアランさんからの指示が出たのだが、特に予定も入ってなかった俺はいつものように軽く返事を返して部屋に引き上げるのだった。
………………
そして次の日。
朝食を済ませ部屋に戻ってみると、
「…………?」
ん、なんだ?
リビングテーブルの上に大きな箱が置かれている。
これ、開けても良いのか?
箱をしげしげと見回したあと、取りあえず何が入ってるのかをメイドさんに尋ねてみた。
「中身は礼服でございます」
「…………」
うん礼服?
開けても良いということなので箱を開いてみると。
ん~、男性用の礼服だよな。
なんというか騎士とか軍人が式典で着てそうな……。
紺を基調としたパリッとした正装だろうか。
ん、待てよ……。
俺はメイドさんに向けて、
まず礼服を指差し、……続いて自分を指差した。
メイドさんは大きく頷いている。
あ――――っ、やはりそういう事のようだ。
王様との謁見があるのだろう。おばば様が言ってたヤツだな。
――こうしちゃいられない。
ナツと子供たちは意味もわからずポケ~と箱を見ているだけだ。
理由をゆっくり説明したいが、そんな時間はない。
俺は貴族じゃないので礼儀も作法もまったく知らない。
知っている事といえば貴族礼のとり方だけである。
謁見の間はおそらく他の貴族も列席するはず。
付け焼刃でも何でもやっておかないと洒落にならない。
大至急、執事を呼んでもらった。
まず時間の確認。
待機の場所・持ち物・帯剣の有無・靴は入ってるやつで良いんだろうか。
そして口上だ!
どこまで進んで、どこで礼をとり、目線はどの辺りに置くのか。
覚えることは山のようにあるが、やれるだけやっておこう。
どのみち素人なんだし。
みんなに見てもらいながら昼食の時間まで頑張った。 オレ頑張った!
真新しい礼服で身を固め、俺は謁見の間へと足を進すめた。
入った謁見の間は意外にこじんまりとしており、騎士や貴族の列席も10名程であった。
これは後で聞いた話だが。
本日、行われた式典は至って簡易的なものだという。
各貴族の代替わりの挨拶。下位貴族の叙爵や陞爵などの際にこちらのホールが利用されているそうだ。
もっとも伯爵以上の場合は必ず披露パーティーが催されるので、根本的に違うのだろう。
てなわけで、俺は子爵になってしまった。
いきなり子爵と言われてビックリしている。
ダンジョン発見は大きな功績となるようだが、平民が叙爵されたとしても騎士爵がいいところなのだ。それが男爵をも通り越して子爵である。
いくらダンジョン・サラを発見して、ダンジョン・デレクの面倒をみてるとはいえ……。
たいした事は…………あるな。大したものである。
まあ、文官のような領地を持たない法衣貴族扱いになるようだが。
一応免状も頂けるらしく、家名と家の紋章を決めよということである。
他家と被らないようにと、ぶ厚い名簿の本も貸し渡された。
それに支度金も渡される。
屋敷と家宰・執事・メイド・馭者・庭師などを揃えなければならない。
これらにも爵位にあわせた人数とかの制約がいろいろとあって、ややこしい。
準備期間は今年いっぱいまでとのこと。
時間はありそうだが、いろいろと手間のかかる事も多いそうだ。
そして、ダンジョン・デレク の町は俺に任される公算が高いということだ。
王様の御前での発言だったこともあり、ほぼ決まっているのだろうが。
(なんか急に息苦しくなってきたよなぁ)
まあ、これから貴族になるのだから仕方ないのか。
まずは、おばば様に諸々相談だな。
温泉に入りながらでも話してみるかな。
ナツと子供たちの事もあるし……。
(モンソロの町にも一度戻らないとね)
それから、王城を出なくてはいけなくなった。――当然である。
さてさて、どこへ移ろうかと考えていると、
「しばらくは私の所に居るといい」
アランさんである。
さすがイケメン。キラリと白い前歯が光ってる!
せっかくのお誘いなので、そのまま好意に甘えさせてもらった。
メアリーも王都の大公邸に残ることになっているから、またしばらくは一緒だな。
これより王城への出入りは馬車でのみ行うものとし、転移は禁止された。
しかし、王城以外の離れや別館においてはそちらの主の許可があれば可能とのことだった。
この事から、余程信頼されているのかと思いきや。
おばば様が裏でかなり動いていたようだ。
「なんせ、お前さん達には他国へ行ってほしくはないからねぇ」
――ぶっちゃけられた。
まあ、変な気を使われるよりはぜんぜん良いのだが……。
ナツ親子に関しては、
おばば様や王妃様の口利きにより、例の温泉施設の管理を王家より任されることになった。
これにはナツも手放しで大喜びである。
ただ、子供たちが勝手にダンジョンへ行ってしまわないか心配だったが、冒険者ギルドが出来てからは資格がない者は中へ入れないということだ。
(それなら、しばらくは安心かな)
まあ、俺がいるときは自由に出入りできるしね。
あとはマリアベルのことか。
いつ覚醒するのかは今のところわからない。
女神さまにも頼まれているし、しっかりと面倒は見ていくつもりだ。
そうなると、どの道王都には居ないとダメなのか……。
モンソロへの帰りはミークス領を通ってゆっくり帰るつもりでいたのだが、無理みたいだな。
マクベさんには散々世話になってしまった。
もう少し、あの暖かい家にいたかったな……。
ミリーとも約束してるし、沢山のおみやげ持って会いにいこう。
そのためには、こちらでしっかりと段取りを組んでおかないとだな。
――まずは家からだ。
▽
あれから10日が過ぎた。
アストレアさんとメアリーを王都の屋敷に残し、アランさんは泣く泣くクドーの町へ戻っていかれた。
ナツ親子の方は温泉施設の管理をするためにお隣のログハウスで生活している。
俺の家はというと、
おばば様の紹介してくれた不動産屋で何とか条件に合った家を見つけられた。
少しくたびれた所が見受けられたので、ただいま改装中である。
王都の大半がダンジョンの地脈の上に存在しているので、建て直しや改装の方もカイルやデレクに頼めば即終了したのであるが……。
人目が多いところでは自重している。
――表側はね。
だって、キッチン・バス・トイレなどは日本式にして使い勝手を良くしたいよね。
シャワーやウォシュレットなどは手放せません。
家で働いてくれる家宰も既に選定済みである。
あと、使用人の人事や細かい家の事はこの家宰に任せてしまうのが普通なのだそうだ。
俺とシロ、メアリーはモンソロの町にあるマクベさん家の裏庭に転移してきた。
「「ただいま――!」」
「ワンワン!」
裏口から家に入っていくと、
「みんな、おかえりー」
――ひしっ!
ミリーである。
もちろんシロに抱きついている。
その後リビングにてマクベさん達に帰還のあいさつをしていく。
お茶を飲むかたわら、みんなにおみやげを渡していった。
ミリーには王都で流行っていた可愛い帽子と木製の人形だ。
メアリーからも綺麗な色のリボンが渡さていた。
「わぁー、ミリーいい物をもらったわねぇ~。貸してみて」
カイアさんがミリーの髪にそのリボンを結んであげている。
「ヤターッ、これで同じだね!」
メアリーがヘヤバンドにしたリボンを指差している。
それから二人で見せあいっこしてはキャッキャと盛り上がっていた。
マクベさんにはお洒落なハンチング帽。
そして以前から渡そうと思っていた魔獣除けの鈴を。
外出や行商の折、ぜひ使ってほしい。
カイアさんには王都で人気のお菓子と花をモチーフにした銀細工のブローチを渡した。
これにはお二方とも大喜び、こんな高価なものをと感謝された。
……そして、伝えなくてはならないことを順に話していく。
メアリーの親が見つかり親元へ帰ること。
俺がダンジョンの発見者だったということ。
その他もろもろの功績により叙爵を受け貴族となったこと。
包み隠さず丁寧に話していった。
そして、ここには居られないことも……。
最初はお祭り騒ぎだったマクベさん一家も話しをしていくにつれ静かになってしまった。
「…………」
「…………」
「出会いがあって別れがあるのは人の世の常。此度は別れて二人が幸せになるのだからめでたい事じゃないか」
「そうよ~、今日は泊っていくんでしょ。じゃあ、美味しいものをいっぱい食べて二人のお祝いをしなくっちゃね~!」
まったく、この夫婦には感謝しかない。
(本当にいい人達に出会えたんだなぁ)
その後は例によってカイアさんが大はしゃぎ。 とっても楽しい一晩となった。
そして次の日。
お世話になった部屋を綺麗に掃除したあと、部屋の出口で一礼して、俺たちは一階へ下りた。
見送りをする為、玄関まで出てきていたマクベさんに、
「王都に来られることがあったら、ぜひ家に寄ってください」
俺は懐から革袋を取り出すと、それをマクベさんへと渡した。
革袋の中には家の場所を示した地図と旧バルタ帝国の大金貨が1枚。
歩き出した俺たちの後ろでマクベさんが騒いでいたようだが、そこはスルーして先を急いだ。
向かった先は教会だ。
なんでか分からないが『行かなくては!』と思ってしまったのだ。
シスターマヤに事の経緯をつたえ、
デレクの町に教会を建てたはいいが、未だ管理する司祭もシスターも居ないことを伝えておいた。
あとは馴染みの串焼き屋をはじめ、ナナの魔道具店やモヒカンがいるシベア防具店にも顔を出し挨拶してまわった。
その後、路地裏に入った俺たちはマギ村へと転移した。
相変わらず元気なタミねーさんに野菜や果物をたんと買わされ、その足でガンツ武器工房を訪ねていく。
カウンターの上に剣と短槍を出し、いつものように調整を頼んだ。
その作業の合間に今回の出来事を話していった。デレクという新しくできた町へ移る件も含めてだ。
ガンツは両手を組むと動かなくなった。何やら考え込んでいるようだ。
(こうなると長いんだよねぇ)
聞えているかは定かでないが、
「以前のようにはいかないが、たまには顔を出すから……」
そう言い残して俺たちは工房を後にした。