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「ショッピ、今日さ、帰り一緒に行こうや!」
教室の後ろの席。いつものようにチーノが声をかけてくる。
振り返ったショッピは、だるそうに口を開いた。
「……なんで俺なん」
「え、理由いる? 俺がショッピと一緒に帰りたいからってだけやけど」
「…………はぁ……」
それっきり返事をせずにカバンを背負うショッピを、チーノは当たり前のように追いかける。
そして、当然のように並んで歩き出す。
「今日の課題、むずかったな〜!物理のとこ。ショッピ、またノート貸してくれへん?」
「またって……一生写してるやん、お前」
「だってショッピの字、読みやすいもん」
「それ誉めてるん?」
「もちろん」
どこまでも距離が近くて、ぐいぐい来るチーノに、ショッピはいつも心の中で溜め息をつく。
でも……不思議と、それを嫌だと思ったことは一度もなかった。_
* * *
「なぁショッピ、オレさ」
放課後。校舎裏でふたり、ジュースを飲みながらぼーっとしてたとき。
「ショッピのこと、ずっと好きやねん」
その言葉は、あまりにも自然すぎて、一瞬耳を疑った。
「は?」
「え、聞こえへんかった? 好きやって言うたんやけど」
「いや、聞こえたけど。なんで急に」
「前から思ってたよ。言うタイミングなかっただけ。……それに、ショッピってさ、誰にも懐かへんのに、オレのことだけ拒まんやん?」
「それは……」
「オレはな、ショッピのそういうとこ、ずるいなって思ってた」
チーノは、笑ってるけど目が真剣だった。
「ずっと、手ぇ伸ばしてくるくせに、捕まえさせてくれへん」
ショッピは一瞬、視線をそらした。
「……俺、よく分からんねん。恋愛とか、感情とか。誰かを好きになるって感覚も」
「分からんでもいいよ。けど、オレのこと嫌いじゃないって思いたい」
「……嫌いじゃない。ってか、お前のこと、結構……」
言いかけて、止まる。
照れくささに負けて、言葉が引っ込んだ。
でも、そんなショッピの様子に、チーノはふっと笑った。
「そっか。……じゃあ、ええよ、待つわ」
「……は?」
「ちゃんと“好き”って、ショッピが言いたくなるまで、ちゃんと待つ」
そして、チーノはショッピの手を、そっと握った。
「でも、それまではこうしててもええやろ?」
「……勝手やな、お前」
「そっちがそもそもずるいんやって。俺ばっか、こんなドキドキさせられて」
ショッピはチーノの手を払いもしなかったし、引きもしなかった。
ただ、ほんの少しだけ、指先をきゅっと返す。
それが、今出せる最大限の“返事”だった。
* * *
数日後。ふたりきりの教室。
チーノがいつものようにふざけた調子でショッピに話しかけていた時。
「……チーノ」
「ん?」
「好き。お前のこと」
チーノの笑顔が、一瞬だけ止まった。
「……今、なんて?」
「お前のこと、好きやって。……何回も言わすな」
ぽかんとしてたチーノが、すぐに破顔した。
「お前……やっば!今の、録音したかった!!」
「するな。殺すぞ」
「うわーもう、可愛い……抱きついていい?」
「無理」
「でももう手ぇ繋いでるし!」
「それは……お前が勝手に……」
「もうちょい引き寄せても?」
「……」
ショッピは何も言わなかったけど、抵抗もしなかった。
チーノはそれを“OK”と受け取って、そっと肩を抱いた。
「オレも、ずっと好きやで。ずっと、ちゃんと、ショッピが言ってくれるの、待ってた」
小さな声で、ショッピがつぶやく。
「……ほんまに、ずるいわ。お前」
「お互い様やん?」
静かな教室に、ふたりの笑い声がやさしく響いた。
もう、離れる理由なんてなかった。
⸻
ふふっ
ノベルのルビってなんですか?🥺