自分が誘ったからとお会計を済ませてくれる楠木さん。
私が先に店を出て彼を待っていると、
「和葉!」
出て来て名前を呼んで来たのは大和。
「何? 話は終わったよ? もう、大和に用なんて無いんだけど?」
「俺はまだ、終わってない! なあ、もう一度考え直してくれよ、俺、本当にお前のことが好きなんだ」
この男はどこまで自分勝手なのだろう。
好きだと言うなら、何故他の女に浮気する?
私と別れたあと、散々他の女の子と付き合ってきたくせに、よくもまあそんなことが言えたものだ。
「――とにかく、私はもう、大和とヨリを戻すつもりは無い。浮気するような人は嫌なの! だから――」
「和葉ちゃん、お待たせ」
「あ、楠木さん」
私の言葉を遮る形でお会計を終えて店から出て来た楠木さんに名前を呼ばれた私が振り返ると、
「君さ、和葉ちゃんの元カレでしょ? どういう経緯で別れたかは知らないけど、彼女、嫌がってるの分からない?」
そう言いながら私の肩を抱き寄せ、大和から引き離してくれる。
「お前には、関係無いだろ!?」
大和からしたら楠木さんは全くの他人なわけで、突然説教じみたことを言われて癇に障ったんだと思う。
苛立ちを露わにしながら食ってかかってくるけど楠木さんは全く動じることもなく、
「まあ、俺は彼女の彼氏でも無いから偉そうなことを言うのは違うかもしれないけど―― 同じ男として言わせてもらうと、しつこい男は嫌われるよ? 男なら潔く引くべきなんじゃないのかな? 行こう、和葉ちゃん」
同じ男として大和のしていることは逆効果であること、潔く引くべきだという意見を突きつけると、私の手を取って歩き出した。
去り際にちらりと大和へ視線を向けてみると、すごく悔しそうに唇を噛んで俯き項垂れている姿が目に映る。
何で、どうしてそんな表情するのよ?
分からない。
大和が何故、あんな表情をするのかが。
追いかけては来なかったものの、いつまでもあの表情が私の記憶に残っていてモヤモヤしてしまう。
「――ごめん、和葉ちゃん」
「え?」
暫くして、店から結構離れた場所までやって来ると、楠木さんは申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
「さっきの、余計なことしちゃったかなって」
「あ……」
さっきのことというのは大和へ色々と言ったことだろう。
確かにあのときは驚いた。
楠木さんがあそこまで大和に言うなんてって。
だけど、あれは正論だと思うし、
実際あれで大和から離れられたわけだから、
私からすれば感謝すべきことなわけで、
「いえ、むしろありがとうございます」
「え?」
「あのとき、彼にああ言ってくれなかったら私『しつこい』って言って彼のこと平手打ちしていたかもしれないですから、はっきり言ってくださって助かりました」
私の言葉が意外だったのか楠木さんは目を丸くしながら驚いた様子でこちらを見ると、
「――はは、和葉ちゃんって結構言うんだね。何だか思ってたのと少し違うなぁ」
プッと吹き出しケラケラと笑い始めた楠木さん。
「え? そ、そうですか?」
予想外の反応に私の方が驚いてしまう。
「いやさ、和葉ちゃんって結構大人しめの子かなって思ってたんだよね。職場では結構控えめじゃん?」
「そ、そう、ですかね?」
まあ言われてみれば、
職場では多少作っているからそう見えるのかもしれないけど、実際の私はそんなに大人しいタイプじゃないし、自分で言うのもなんだけど結構気が強いタイプだと思っている。
「……嫌、でしょうか?」
さっき、私に気があると口にしていた楠木さん。
私の本来の部分が見えた訳だから印象も変わって気が変わってしまったかなと尋ねてみると、
「――いや、むしろ、今の和葉ちゃんの方が断然好みだな!」
なんて、笑いながら言ってくれた。
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