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“Sea view”。
それが沢村さんが経営する
カフェの店名だった。
店名の通り
このカフェはテラス席に出れば
海が一望できる。
ここは
私が安らげる場所。
沢村玲と名乗った彼は
全てを捨てて逃げてきた私を
保護してくれた
私の保護者代わりでもある大人の人。
必要なことは全部終わらせて
私と暮らす準備を進めてくれた。
学校が苦手だと話したら
『無理に行かなくていいよ』って
カフェの手伝いを許可してくれた。
Yシャツに黒のパンツ
デニム生地のエプロン。
エプロンには店名が入っていて
私のお気に入りだ。
エプロンの胸ポケットには
“瀬戸内”という名札をつけている。
「海ちゃん、休憩入っていいよ。」
「はーい。」
「今哲汰来たから一緒に食べなー。」
「ありがとうございます。」
エプロンを脱いで
休憩室にあるソファーにかけて
カフェの方へ出ていく。
「ほら、海ちゃん来たよ。」
哲汰さんは沢村さんのお友だち。
沢村さんと話すために
いつもカウンター席に座る。
「海~、元気でやってる?」
「最近は割と元気にやってます。」
「海ちゃん、注文は?」
「あ、いつものカフェラテで。」
「食べるものは?」
「…ジェノベーゼください。」
「カフェラテとジェノベーゼね。」
絵を描くお仕事を
哲汰さんはしてらっしゃる。
このカフェに飾られた絵たちは
どれも哲汰さんが描いたものだと
前に沢村さんが言っていた。
「はい、カフェラテね。」
「、ありがとうございます、。」
ガムシロップは入れず
ミルクだけが入った
そこまで甘くないカフェラテ。
ブラックでも飲めないことはないけど
ミルク多めのガムシロップなしの
クリーミーな味わいのカフェラテが
私は好きなのだ。
「海、カフェラテ好きだよね。」
「ミルクが好きだから。」
「へぇ~。」
何でもない会話を哲汰さんと交わして
ふらっとテラス席に出れば
夏の日差しがガンガンと照らしつけていた。
「海。出来たよ。」
「うん、。」
「暑いから中で食べな?」
「…ん、。」
沢村さんに呼び戻されて
哲汰さんの隣の席に座れば
目の前にジェノベーゼパスタが置かれた。
「いただきます、」
バジルが添えられて
上にはチーズが削られている
沢村さん特製のジェノベーゼパスタ。
私が必ず食べるもの。
「冷製パスタとかかき氷、そろそろだね。」
「あぁー、たしかに。始めよっか。 」
「うん。」
『”玲くん”って呼んで?』
いつの日か沢村さんにお願いされて
無理だって断った呼び方。
でも最近、呼べるかもって思ってて。
「…玲くんの作るご飯、全部美味しいね。」
彼の目は見れなかったけど
名前は呼べた。
どんな反応してる…?
ガッシャーン!
「うぇ、?!」
「ちょっと玲?!」
驚いて玲くんを見れば
手を滑らせたのかお皿を割っていた。
「もぉ駄目だよ~。びっくりしたじゃん。」
いつもの調子で笑って
『お騒がせしてすみません』と
周りの人たちに謝った。
「名前、やっと呼んでくれた。」
「…玲くん、。」
「んはは!なぁに?」
「…んーん、。」
「ん?」
「…いつも、…ありがと、。」
ただ名前を呼んだだけなのに
これ程嬉しそうにしてくれるんだって
喜んでくれるんだって思ってたら
何故か泣けてきてしまった。
「泣いちゃうの?」
「海ちゃん泣き虫だもんね~。」
「っ、別に泣き虫じゃないもん、!」
「んふははは!かわいいねぇ、海。」
実の親なんかより
無条件の愛を注いでくれる。
沢山かわいがってくれる。
私はそんな玲くんと
玲くんのお友だちが大好きなんだ。
それと同じくらい、このカフェも好き。