コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
隠世に来るのは五年振りだ。
皆、吃驚するだろうな。
イモリ池を目指して歩いていると
声をかけられた。
「花繪様!? お久しぶりですね」
声をかけて来たのは亀薬堂が贔屓にしている
薬草専門店の女将さんだ。
『お久しぶりです』
五年経っても覚えていてくれて嬉しい。
「これか立法様の所へ?」
『そうですよ』
皆、元気にしていただろうか?
安倍さんにも連絡をとってないから
自分で確かめるしかない。
「先程、亀薬堂で主殿を
お見かけしたので一緒に
いらっしゃるかもしれませんよ」
やっぱり、安倍さんもこっちに居るのか。
『そうなんですね、
教えて頂きありがとうございます』
イモリ池に着くと奉公人さん達が
オレに気付いてくれた。
「花繪様、お久しぶりでございます。
不思議なタイミングで来られましたな。
今日は皆さんお揃いなんですよ」
﹝皆さん﹞ということは
アオイさんも居るんだろう。
「何時ものようにどうぞ。
それから、お帰りなさいませ」
﹝お帰りなさい﹞と言われて
やっと戻って来た心地がした。
昔と同じように階段を登って
執務室に向かい無言で襖を開けた。
『皆さん、お久しぶりです。
待っていてくれたかはわかりませんが
ただいまです(笑)』
冠羽さんは多分気付いてただろう。
「やはり花繪でしたか。
この部屋の襖を無言で開けられるのは
僕達以外では‹‹夫››である貴方だけですから」
予感的中。
『階段を登る足音がした時点で
オレだって気付いてたんじゃないですか(笑)』
これも合ってると確信がある。
「そうですね、お帰りなさい」
ほらね。
『艶毒さん』
未だに硬直している艶毒さんを
優しい声色を意識して呼んだ。
「ハナエくん!!」
勢いよく抱き着かれて
たたらを踏んだけどどうにか抱き留めた。
「何時もの光景が戻って来ましたね」
二人や奉公人さん達の前では
気にせずイチャイチャしてたもんね(苦笑)
「確かに(笑)
お帰り、花繪くん」
『ただいまです』
執務室に来てから二回目。
状況把握が出来ていないアオイさんと安倍さん。
「立法、‹あれ›何処にありますか?」
『下から二番目の引き出しだと思いますよ』
‹‹婚姻届››のことを言ってるなら間違いない。
「‹‹旦那さん››には見抜かれてるね。
ハナエくんの言う通り、
下から二番目の引き出しだよ」
艶毒さんは大切な物を
そこに仕舞う傾向にある。
「わかりました。
ありましたね、はい、どうぞ」
比較的上にあったんだろ‹‹婚姻届››を
安倍さんに渡した。
『はぁ!?』
そりゃ吃驚するよね(苦笑)
「見ての通りそちらは
正式な書類ですので二人は[[rb:夫夫 > ふうふ]]です。
イツキはご存知ないでしょうが立法は
極度の甘えたで寂しがりやですし、
花繪は甘やかすだけの度量がありますから
均衡の取れた[[rb:夫夫 > ふうふ]]ですよ。
隠世の文字の読み書きは僕が教えましたし
お二人の最大の疑問は花繪がどうやって
隠世に来たかということじゃないですか?」
そうだろね。
「何で花繪が一人で
来られるのかは疑問に思っていたよ」
モノノケ庵は当然、二人が使っているし
そもそも、この五年、安倍さんに
連絡をとっていなかったから(苦笑)
「話の続きですが花繪は【副主の権限】を
持っているんですよ。
ということで、扉を開いて来ているんですよ」
全部、冠羽さんに説明させちゃったな。
『冠羽さん、ありがとうございます』
「いえ、これくらいは」
‹‹婚姻届››の驚きから
戻ってきた安倍さんは
“あの時”のことを言い出した。
『芦屋と立法が[[rb:夫夫 > ふうふ]]
ってのは驚いたがまぁいい。
だが行政、お前、芦屋に何したか
自分でやっといて
忘れたわけじゃねぇよな?』
そんなそれこそ六年も前のことを(苦笑)
「何の話だい?」
そっか、アオイさんは知らないのか。
『初見で冠羽さんに
❨殺されそうになった❩時の話ですけど
今はこうして仲良しですから
昔のことは忘れましょう、ね?
冠羽さんはいい権力者ですよ』
だって、オレを殺そうとしたのは
隠世を守りたい思いが暴走しちゃったのと
安倍さんの感心が﹝人間﹞に
向いていることへの懸念と嫉妬心から
あの行動だったんだと思うと
﹝理不尽﹞とは思えなかった。
「花繪は凄いね……
冠羽のこと❨赦した❩んだね。
成る程、その寛容さなら
艶毒を甘やかすなんて簡単だろうね」
『❨赦す❩なんて
大袈裟なことではないですよ(苦笑)
“あの時”、﹝恐怖心﹞はありましたけど
﹝理不尽﹞だとは思いませんでしたし
色々ありましたけどそれはそれで
よかったと思ってますから』
紆余曲折あったけど
それがあったからこそ﹝今﹞がある。
『ということで、
“あの時”の話は終わりにしましょう』
オレは過去は引き摺らない。
『わかった……』
いまいち、納得がいかない
という声色の安倍さんに苦笑した。
『何か楽しい話をしましょう。
あ、冠羽さんが関わることで
面白い話といえばアオイさんが
子猫だった時、豆大福を黒文字で
一口大に切って
あげたことがありましたよね』
これもまた、懐かしい話だ。
『その後、黒文字で刺して
アオイさんの口元に持っていって
【お食べなさい】って……(笑)』
あれは和んだ。
「ふふ、ハナエくんもまた
懐かしい話を……」
『確かに懐かしいな(笑)』
よかった、安倍さんが笑ってくれた。
内心、ホッとして、それから
仲良くなるまでの経緯を話した。
それから五年間の話を沢山した。
『久しぶりに一緒に帰るか?』
粗方話終える頃には夜になっていた。
『そうですね、モノノケ庵や
モジャとも話したいですしね♪』
「ハナエくん、また来てね」
『明日も来ます。
あ、何かリクエストがあれば
何か作って来ますけどどうします?』
返ってくる答えは大体の想像はつくけど。
「❨何時も❩と同じでお願いできますか?」
『了解です♪
ではまた明日、お休みなさい』
「お休み」
三権神と挨拶を交わして
モノノケ庵の扉を閉めた。
あの頃の日常が戻ってきた。
『アオイさんと安倍さん、
また、宜しくお願いしますね』
「こっちこそ宜しくね、花繪」
『お帰り……』
“ハナエ、お帰りなさい(*˙˘˙*)”
『ただいまです』
明日からまた、楽しくなるだろうな♪
肩に乗ってるモジャを撫でながら
オレは小さく笑った。
(終)