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感情が徐々に抑えられなくなったのは、彼女のことを知っていく段階だった。
染谷紗奈。彼女が自分の全てになった。人生で1番に輝いていたと思う。いや、輝いている。
黒髪のミディアムヘアはよく似合っているし、部活中にポニーテールをしている時は心臓の鼓動が止まらない。1学年上である紗奈は、後輩にもマウントを取らないし、まさに手本と言う感じであった。
(苦しい……。)
息が詰まるほど怒りが湧いたことがあった。
電車で、髙橋健と言う奴が紗奈の髪を触っていたのだ。さも愛おしそうに。
別車両に乗っていた翔は紗奈をずっと見ていた。一緒の時間で、同じ電車に乗ることが楽しみだった。紗奈はこちらの存在に気付いていないのも、全てが可愛い。
(紗奈に触るな。)
誰も乗っていない車両でうたた寝している彼女の肩を引っ張り、自分に寄りかからせている 。紗奈が気付いていないのにも、尚更苛立ちが隠せない。
ここからだろうか。独占欲が出てきたのは。
(紗奈は俺だけのものだ。俺しか触れられない。)
今、手を出さなければ紗奈が逃げて行ってしまう。今しかないのだ。今だけ…。
そしてついに。紗奈を自分のものにできた。乱れた紗奈は色気が溢れ、自分の手の平には爪がくい込んだ跡が着いていた。
(ああ、紗奈。何であんな怯えてる表情をしてたんだ。)
クシャッと髪を崩す。
(……でも、いっそ怯えられているなら、トラウマにして一生忘れられないようにすればいい…。)
邪悪な考えが頭によぎる。どうせ逃げられてしまうなら、逃げられないよう初めから囲っておくのだ。全ては紗奈の為に。
「紗奈〜おはよぉ。」
朝、学校に入ると璃音が座ってこちらに手を振っていた。
「あ…璃音、おはよ。」
いつもの璃音を見て何故だか胸が熱くなる。
「あれ?紗奈ったら、目の下にクマが出来てるよ〜。いつもは早く寝るって言ってるのに珍しいねぇ、なんかあった?」
「あっ。」
璃音に言われて気づいた。咄嗟に手で目の下を触る。
確かに昨日は寝れなかった。今日が不安で不安で仕方がなかった。翔がいるこの学校こそ、怖くてたまらない。
しかし休まなかったのには理由があった。
(…もう、お母さんの事は二度と心配させたくないから…。)
紗奈はパッと前を向き、璃音に笑いかけた。
「いや、昨日さ、来週のテストが心配であんまり寝れなかったんだよね。」
璃音は頬杖を付いた。
「来週の事なのに、早とちりだよ〜。」
「あは、だよね。」
何とか誤魔化し、素早く自席に着く。瞼は重く、開けようと奮闘しても体は正直である。
(ちょっとだけ寝よう。)
机に突っ伏した。すると、教室のドアが勢いよく開いた。
「紗奈いるかー?教科書借りたいんだけど。」
健だ。髙橋健。紗奈は健の声を聞くと、心臓が早く動くのを感じた。