「っ………は、」
人生で一度も感じない人間も多いであろう、他人の手によって自生が終わる感覚に戦慄する。
_夢?
それにしてはやけにリアルだった。
今日は、アイツに近づくのはやめよう…。
念の為、というのは大切である。それに、正直顔も見たくない。見れば震えてしまうかもしれない。
それにしても、どこからが夢なのか。サノスは思考を巡らせてみるが、さっぱり分からなかった。トイレに行く前、ベッドに座った時にそのまま寝てしまったのだろうか?
ふと、周りの賑やかさが耳に入った。自分の夢でそれどころではなかったが、何やら騒いでいるようだった。
ベッドから出てみると、人数が増えた気がした。
賞金が増えたのか?さらに個々の顔を見てみると、一人、目に入ったまま離れない人物を見つけてしまった。記憶が蘇る。
幻覚でも見ているのか。
慌てて首に下がった十字架を開けると、薬の数が明らかに増えていた。
俺が薬の数を間違えるわけが無い。なんで増えてるんだ。
サノスの呼吸が荒くなる。自分が死ぬ夢から起きたら居るはずのない人と増えた薬。パニックになりそうだった。
居るはずのない人、背中には”196”と書かれていた。
初めのゲームで死んだはずだ。
なんで生きてる?薬は増えてて、俺の頭もすっきりしている。つい先日薬を飲んだとは思えないほどに。
まるで、
まるで、時が戻ったみたいじゃないか。
「_サノス?」
呆然としていると後ろからそっと声をかけられた。振り返ると、この数日見ない日はなかった顔。
「ラッパーのサノス、ですよね?俺、クラブで」
「_ナムス」
「!ナムギュです。覚えててくれたんですか?でもどうして俺の名前を…」
ナムギュは自分の名前であろう音に驚いていた。それもそのはず、サノスが覚えているわけないのだ。知っているわけが無いのだ。
名乗ったことがないのだから。
サノスは困惑していた。全く同じシチュエーション。全く同じセリフ。まるでゲームをロードし直したような気分だった。
同じような説明を受けて同じように同じようなことをして……ギョンスにも会った。セミもミンスも見つけた。金額もおなじ。
流れるままに第1ゲームが始まった。
「止まれ!!!」
456番が叫んでいる。
思えばこのおっさん、酔っ払いじゃなかったんだっけな。2周目とか何とか……。
サノスはもう考えることを放棄していた。今まで体験したと思っていたことは長い予知夢だったのか、それとも最後本当に死んで、過去に蘇ったのか。どれだけ考えたって分からないのだから、あれが予知夢だと信じて思うままに行動していた。
しかし、あまり過去を変えすぎると未来も変わってしまうと漫画で見たことがあった。196番を生かそうかとも考えたが、196番を生かすと、第2ゲームでセミとミンスを迎え入れることが出来なくなってしまう。セミとミンスが居なくなると第2ゲームどころか、第3ゲームのマッチゲームも全て予知通りにはならなくなる。
仲間に入れなければいいのではないか、と思うかもしれないが、生憎サノスは生きてる196番を放置できる程我慢強い人間では無い。
ということで蜂に譲ることにした。
サノスが今回の人生で変えるのは”薬を飲まないこと”だけ。
それ以外は変えない。
思えばギョンスが死んだのも、俺がフォークに気付かず死んだのも、薬のせいなのだ。そもそも、薬を飲んでしまったら予知夢のことも忘れてしまうかもしれない。
薬を飲まないだけ。大してそれだけじゃあ変わらないだろう。
しかしサノスは馬鹿であった。
”薬を飲まないこと”が自分をどれだけ冷静にし、自分が冷静になることでどれだけ未来が変わるのか、そこまで考えが至らなかったのだ。
コメント
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え話のネタがまず天才すぎます✨🥲 そして内容が濃くて、繋げ方も上手いとかもう何事ですか?! 更新楽しみにしてます!!!!!!
タイムスリップとか神ですか?🥹 まじで好きです!!💞
続き楽しみにしてます😚