sm.side
このまま朝まで寝れれば少しくらいは良くなってて欲しいという願望を胸に何度も寝返りを打っているが頭が痛すぎて眠れない。
寝返りを打つもの怠いところだが、じっとしているのに耐えられない。
薬が効くまでしばらくかかりそうだ…。
強がって電話を切ってしまった手前今更
きりやんに頼るわけには行かないし、薬が効いてくればこの弱って出てきた甘え心も引っ込むだろうと踏んでいた。
仕方なく頭痛と寒気と闘いながら眠れるのを待った。
しばらくして薬が胃に届いて痛みと熱に効いてくるのと同時に、何となく違和感を感じ始めた。
ここ数日の荒れた食生活に加えてすきっ腹に速効性のある解熱鎮痛剤。
効き目は副作用を伴ってやってくる予感だ。
sm
「…うっ、いったぁー…。」
きゅうっと締め付けられるような痛みにぎゅっと腹を抱えて布団の中で丸くなった。
sm
「…やばぃ…あたま…胃…いた…っ……。」
声に出さないとやってられないくらいしんどい。
痛みが治まるのをただただ耐えた。
心細くなってぼろぼろ泣けてきた。
背中をさすってくれる手が恋しい。
sm
「しんどい…しんどい…しんどい、きりやん、…たすけて…。」
今すぐ電話して言いたいことを、泣きながら吐き出す。
そうでもしないと耐えられそうにない。
痛みが少し治まると次はぐるぐるとかき回されるような不快感が襲った。
sm
「…きもちわる…。」
胃を動かさないように前かがみになって片手で胃を支えながらもう片手で壁にすがるようにして何とかトイレに移動した。
膝がぶるぶる震えて自分の体じゃないみたいで怖かった。
高熱を出すと極端に食が細って嘔吐してしまうタイプなことは自覚していたので、
念のための早めの対策、と思って動いたが、トイレの戸を開けた瞬間、こらえきれない吐き気にそのまま便器に縋った。
sm
「~~!!う゛っおぇっ!げほごほっ!!おぇ…ぅう…。」
最初こそちょっとした固体が出たがあとはほぼ胃液だった。
それでも吐き気はなかなか治まらず涙を流しながら嘔吐し続けた。
吐き気がひと段落してようやく重い腰を上げた。
ふわふわと足元が軽くてまっすぐ歩けない。
何とか壁を伝って洗面所に行き口を濯いでリビングに戻る。
さっき電話を切ったままソファに放置していたスマホが目に入った。
チカチカとランプが点滅している。
sm
(ライン…?
どさっとソファに倒れ込んで緩慢な動きでスマホを操作する。
画面が眩しすぎて見ているだけで辛い。
片目だけ薄目を開けてかろうじて画面を見る。
未読は3件
kr
<本当に大丈夫?>
<寝た?>
<熱は?>
やっぱりきりやんからだった。
最初のメッセージは俺が電話を切ったすぐ後だ。
普段なら既読がつかないまま未読メッセージを送ってくることは滅多にない。
大丈夫だって言ったくせに、やっぱり気にかけてくれたと思ったら嬉しくて、寂しくて、泣けてきた。
ピロン
kr
<心配しています>
<すまいるは風邪ひくと熱高くなるし、何も食べないから。>
既読がついたのを確認したのかまた連続できりやんからメッセージが届いた。
すぐに返信したかったが、スマホをもって薄目でメッセージを確認するだけで精一杯だった。
返信できずにいると、着信を告げる音が鳴った。
もちろん相手はきりやんだ。
出ないと心配するだろうから、出たいのはやまやまだが、スマホが異常に重たく感じるし、熱のせいで指が震えてうまく電話を取ることが出来ない。
何とかスライドしてゆっくりと耳にあてる。
kr
「……す、まいる!?もしもし?すまいる?」
通話になったのになかなか話し出さないからか、珍しく焦った声で何度も俺の名前を呼んでいる。
sm
「……はぃ…。」
しぼりだしたような声が出た。
kr
「すまいる、良かった。電話出てくれて。体調かなり悪いんでしょ?」
sm
「ごめん…ライン…。」
ぼーっとしていまいち会話がかみ合っていない気がする。
kr
「熱あるんだろ?薬とかあるか?」
sm
「…寝ちゃってて…ライン…今…。」
kr
「すまいる、それは大丈夫。かなりしんどそうだね。」
回らない頭で、きりやんの質問にうまく返答できてないことは分かっていたので、
朦朧とする頭を奮い立たせる。
sm
「薬のんだ…そしたら…ちょっと吐いた…でも、すっきりしたから…ぅ゛…また寝る。ごめん。」
もうきりやんとの会話さえ辛かった。
気持ちが悪くて頭が痛くてとにかく眠ってこの辛さから逃げたかった。
kr
「すまいる、今から行くから鍵あけておける?」
すぐにきりやんの言ってることが理解できなかった。
sm
(今から…行く…?今から…。きりやんがうちに?!
急に現実に引き戻されたみたいに意識がクリアになった。
sm
(今から行くって言ったよね?!
「き、きりやん、俺大丈夫だから。寝るから!…うぁ゛っ…つぅ…。頭…ちょっと痛いけど、寝れば治ると…思う…から…。正直…鍵…開けに行くのしんどいし…。ね…?」
焦って身を起こしたせいで激しい頭痛に襲われてまたソファに顔をうずめた。
kr
「すぐ行くから鍵開けて待ってろ。」
今度はきりやんが強引に電話を切った。
いつも穏やかなきりやんが命令口調なんて初めてで、不覚にもきゅんと来てしまった。
でも、正直もう一歩も動ける気がしなかった。
うつ伏せになっている腕にぐっと力を入れたがぷるぷると震えてとても立てそうにない。
何度かチャレンジしているうちに力尽きてそのまま突っ伏してしまった。
物音で目を覚ますと心配そうに顔を覗き込む顔が見えた。
朦朧としていて頭の整理がつかなかったが、それは間違いなくきりやんだった。
会いたくて会えなくてずっと我慢していた彼の姿。
sm
(あれ?俺鍵開けたっけ…鍵開けようと思ったところから記憶がない…
kr
「鍵閉めてなかったの?」
スマホを握りしめたまま落ちていたらしい俺を見てきりやんはそう言った。
体調が悪すぎて鍵を閉めるのを忘れていたらしい。
でも今日はそれでよかった。
来てくれて嬉しいけど、さっきより体が熱いし気分も悪い。
kr
「きついね、すまいる。とりあえずベット行こうか。肩に手回せそう?」
きりやんが優しく何か言っているが朧気な意識で微かに頷くくらいしかできない。
多分、お姫様抱っこをされてベットまで移動させてもらった。
きりやんの体温と彼のにおいがして視界がにじむのは熱のせいということにしたい。
kr
「汗すごいね。とりあえず熱測るよ。」
もう意識は半分飛んでいて返事もろくにできずうっすら頷く位しかできなかったが、体調が悪すぎて眠ることも出来なかった。
kr
「うわ。39.1℃…?さっき薬飲んだって言ったけど…水分取ってとりあえず寝るしかないね。」
そう言って汗を拭いて着替えをさせてくれて、額と首筋に冷えピタを貼ってくれた。
sm
「……き、き…りやん……。」
kr
「ん?すまいる…どした?辛い?」
sm
「あしたも…しごと…だから…。」
居てほしいけど、帰って欲しい。
kr
「あー。仕事忙しいって言ったから体調悪いの言い出せなかったの?」
コツンと額に額を当てられる。
kr
「ごめんね。すぐ気付いてやれなくて。こんなに熱くなるまで…。心細かったよね…高熱出ちゃう体質だもんな。」
安心して、愛しくて、目から熱いものが流れて止まらなくなった。
kr
「いいこいいこ。泣くと熱上がちゃうよ。もう寝な。すまいるが寝るまでちゃんといるから。」
ぎゅっと手を握られると安心してすぐに眠たくなってきた。
寝たらまたきりやんがいなくなってしまうと思うと寝たくなかったが、優しく頭を撫でられているうちに高熱で限界を迎えた体はそれを許してくれなかった。
次に目が覚めると、すっかり日が昇っていた。
まぶしくてまたすぐに目を閉じた。
周りに人の気配は無い。
昨日より大分ましになったとはいえまだかなり怠さが残っている。
目をつぶったままごろっと寝返りを打ってから何か違和感を感じて目を開ける。
sm
「!え?…うちじゃない…?!きりやんの家?何で…。」
手をついてゆっくり起き上がってあたりを見回す。
いつも俺の家でばかり会っているので数回しか来たことが無いが、必要最小限の物しかないこの部屋は、間違いないきりやんの家だ、
昨夜寝落ちしてしまった後で連れてこられたのだろうか、全く記憶がないが、布団を手繰り寄せて思いっきりにおいをかぐ。
sm
「…きりやんのにおいだ…。」
喉が渇いたのでふらふら立ち上がってキッチンに行くと、
コンロの上の土鍋にはお粥が作ってあった。
冷蔵庫を見ると俺が好きなジュースやデザートがたくさん入っていた。
かなり感動してうるっときたが、まだお粥を食べる元気は無かったので、手前にあったミネラルウォーターを1本だけ拝借してまた部屋に戻った。
テーブルの上に、測れと言わんばかりに体温計と風邪薬が置いてあり、隣には家の鍵らしきものがあった。
そして鍵の下には殴り書きのメモがある。
体温を測りながらそれを見ると
合鍵 早く渡しておけばよかった。倒れるならうちにして。死ぬほど心配した。
sm
「…!なにこれ、また、熱上がっちゃうじゃん。きりやん…。」
優しさが沁みて泣けてきた。
きりやんのにおいがする布団にまた顔を埋めて幸せをかみしめた。___________________________________________
夜になるとまた熱が上がってしんどくなって、きりやんにめちゃくちゃ甘やかされたのは言うまでもない。
コメント
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素晴らしい作品ありがとうございます!