この学園には二種の種族が通っている。
人間と吸血鬼だ。
長年互いに敵対視してきた種族である。しかし、ある者たちの“運命の愛”により、その深くできた溝を長年かけて埋めていき、互いに共存しあっていく道を歩んで行った。しかし、中には、残虐のかぎりに人間の生き血を吸い。あるものは、吸血鬼を根絶やしにしようと殺戮を始めた者もいた。その深き歴史から、今のように互いを尊重し合い、助け合いながら生きている。今では異種族かんでの、婚姻も珍しくない。
そしてなりよりも……吸血鬼にはある能力がある。それは“運命の花”に出逢えば、生涯をその者と生きていく。
それを──“血の盟約”と呼ぶ。
誓いを強固のものにするためにおこなう儀式。互いの血を体内に取り込み、縛り付ける。 それが永遠の契りとなる。 どちらかが死ぬまで、その盟約は続く。
「はぁー…なんか今日の授業僕、すっごい疲れたんやけど…… 」
「それは俺らも同じやでな初兎? っかあの教授ホンマに話長いねん! 要点とか諸々まとめてからやれや!」
「まぁまぁ、そんなにキレんなよ。長い歴史があるさかいにな? 仕方ないやん? ほれに、その時代があったんやでってことをちゃんと伝えたいんやろ。いつそうなるかも分からへんし。むっかしからよー親に言われてるやん?」
「そうやけどさぁ……」
If、悠佑、初兎はそんな話をしながら、学生寮へと戻っていく。
全寮制の学園であり、寮は、吸血鬼、人間混合であり、男女で建物は別れてはいる。学園からさほど離れていない場所に建てられている。寮内は、娯楽も充実しており、休日なども申請さえすれば外出や外泊なども可能である (※尚、女子寮に泊まることは不可能)。
Ifたちは、寮に着くなり「また、明日な〜」っと互いに別れ、階段を上がり自室へと戻っていく。ここに一部屋与えられ、中には浴室、トイレ、キッチンなどが完備されている。寮内には大浴場なども完備されているが、利用者は少ない。大半の生徒が自室ですませることが多いのもある。
それにワインセラーなど吸血鬼ようにお酒などのバーも整えられている。夜通し飲んでいる生徒もチラホラと見られる。
「あかん……今日は普段より疲れたわ。そういや、久びさに大浴場でも行くか。あっこ滅多に人入ってるとこ見てへんし。ほな、準備しよう!」
Ifはそう決めると、制服をハンガーなどにかけてから、部屋着に着替え、いる物などを準備して、大浴場に向かっていく。長い廊下を歩いていると、所々から他の生徒たちの楽しそうな声が、かすかに聞こえてくる。ほとんどの子は、娯楽などを楽しんでいる。ビリヤードやボーリング、バトミントンなど、人によって様々な楽しみ方で、日々の疲れをつとり除いている。
「おーまろやん!」
すると、後ろから悠佑の声が聞こえてくる。
「そのセットやで、今から大浴場行くんか?」
不思議そうに聞かれる。滅多に大浴場に向かう生徒がいないからだ。
「そうやで。あっこ滅多に人入ってこんから、ゆっくりしたい時にな。アニキは……筋トレしに行くんか?」
「そうやで。まぁーゆっくりしたい時はあるからな。ちゃんとあったまってこいよ」
「アニキは、俺のオカンか!」
そんなたわいもない話を少しし、Ifや大浴場に悠佑は、とトレーニングルームへと姿を消した。
❀❀❀
「お、誰もおらんな!」
Ifはさっさと服をぬぎすて、カゴの中に入れていく。ジャーンプやボディソープが入っているケースを持って、入っていく。扉を開ければ、バーブ湯のいい香りが漂ってくる。
先に、体などを洗いに洗い場に向かっていると……何やら人影が確認できる。
(へぇー、一人や思っとったけど人おったんやな)
Ifはそう思いながらも、湯けむりの中を進み、体を洗い始める。今日はそんなに汗はかいていないために、適当に頭をシャシャっと終わらせていく。若干後ろから視線を感じるが、今は無視。どうせ、湯に浸かったら声をかけてみようと思っているためだ。
(それにしても……誰かまでは知らんけど、こっちみすぎやろ! 洗いぬくいわ!!)
Ifは一人心の中でそう思わずにはいられなかった。
そうして、体を洗い終わると湯の方へと足を進める。基本的にタオルで隠さないので、色々と見えている。
「俺の事さっきから見とったんお前か?」
Ifは湯に浸かるやいなや先に浸かっている人影にそう聞く。すると、相手は少し照れながら「は、はい。か、かっこいいなーって…あの、りうら・セレトナって言います!」
「急な自己紹介やな……。俺は、二年のIf・アイスベルクや。お前一年か?」
「あ、はい! そうです。本当は友達と来る予定だったんですけど……二人とも予定があったみたいで、ほとんどが反省文と居残り勉ですけどね」
りうらと名乗った少年は、苦笑いをしながらも呆れている。Ifはその表情に子供のようにきゃっきゃっと笑う。りうらは突然笑い出したIfに少し困惑しながらも、少し頬をぷくっと膨らます。その姿は拗ねた子供である。Ifは「はぁ、はぁ…ごめん、笑ってもうて。少し俺の友達に似とるヤツらやと思ってな」っと言う。りうらはIfの返答に少し驚いてしまう。そして「そうなんですか?」っと聞き返す。Ifは面白おかしくしながら、りうらに話し出す。りうらもその話を聞きながら、確かに自分の友達と所々が似ていたくすくすと可愛らしく笑う。その姿にIfはキュンっと胸が高まった。こんな衝動は生まれて初めてであった。それに、どこか自分の好きな花の香りが漂ってくる。どこから香ってきているのだろうか……?
「ほな、俺はそろそろ上がるわ」
「も、もう…上がっちゃうんですか……」
りうらは少し寂しそうな顔をしながらIfに言う。
「時折、俺ここに入りに来てるから……あれやったら、またここで会えるかもな」
Ifはりうらの濡れた赤髪を優しい手つきで撫でながら微笑み言う。その表情にりうらは少し耳を赤らめる。
「……う、うん……」
「ほな、またな……」
それだけいいIfは大浴場を出ていく。
(あの人めちゃくちゃカッコよかった……)
「ふふふ///…また、ここで逢えたらいいな……」
りうらは湯にもう一度浸かりながら、そんなことを思った。今日初めてあった相手なのに、今までにないほどに心臓が煩く鳴り響く。あの深海のように深い蒼眼も柔らかな笑みが頭の中に焼き付いている。だんだんと体中が暑くなる。これがのぼせから来ているのか? この分からない感情から来ているのか? りうら自身も分からない。でも、これは親友や他の人達に覚えたことの無い感情であることだけは自分でもわかっている。
「いふ…先輩……」
りうらは一人しかない空間の中、Ifの名を呟いた。
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