「あかーしぃぃぃぃ‼︎」
いつもの五月蝿い声とともに飛びついてくる先輩をスッと避ける。
これが毎日のルーティンと化してきたことに呆れながらも、
「五月蝿いです、木兎さん。」
と毎回同じツッコミを入れる。
すると木兎さんは他のメンバーに、
「あかーしが酷ぉぉぉぉいぃぃ(泣)」
と泣きつきに行く。
駄目だこれ。木兎さんが次何するか予測できるようになってしまった。
はぁ、とため息を吐く。
こんなはずではなかったのだが。
まだ俺が中学生の頃。
テレビで見た木兎さんは輝いていた。
照明がスポットライトのように見えた。
トスが上げられる。木兎さんはそれより少し早く飛んでいた。
バァァンッッッ!
ボールが地面にめり込むんじゃないかってぐらいの力で叩き落とされた。
わぁぁぁぁっっっっっと歓声が上がる。俺もテレビの前で小さくガッツポーズをした。
そいて、、、みんな見えないっていうけど、俺には見えた。
スポットライトを浴びる木兎さんの背中には、確かに羽があった。
飛び上がる瞬間。ふわりと羽が広がり、力強く羽ばたいた。
その瞬間、俺はその梟の虜になった。
でも、いざ入部してみると。
めんどくさい、以外の何者でもない木兎さんがいた。
俺が見惚れたあの木兎さんを返して欲しいと思う。心の底から。
でも、試合中は木兎さんは多少かっこよくなる(あのしょぼくれモードさえなければ)。
ーーでも。
あの俺が見惚れた梟はいない。
その理由はもうわかっている。
ーー自分(セッター だ。
あのセッターのトスは綺麗だった。まるで梟を照らす月のようなトスだった。
でも、そんなトスを俺は放てない。
まだ、木兎さんを照らすトスは上げられない。
だから、木兎さんは照らされることなく夜の闇に溶け込んでいる。
自分だって頑張っている。もう一度、梟を呼び起こすために。
でも全然うまくいかない。
そのまま、俺ら梟谷高校は試合を迎えた。
ーーすごく接戦だった。
なんとか1セット目は梟谷が取った。
2セット目は梟谷がセットポイントだが、相手はすぐ追いつきそうだ。
これで決めたら最後。
レシーブが飛んでくる。俺がボールに触れたその瞬間、ふっ、と周りがスローモーションになった。
あ、もう木兎さん飛び始めてる。敵ブロックは間に合ってない。打ち込めるスペースは、、あそこ。
ーーいける。
俺は、俺の持っている全ての力をフルで使って、木兎さんにトスを上げた。
その瞬間、俺の目の中に、あの梟が飛び込んできた。
俺が見惚れた、追いかけてきた梟が。
今、俺のトスで羽を広げた。羽ばたいた。
バァァンッッ‼︎
あの時と同じ音。
ああ、やっとだ。
「やっと会えた、梟。」
1093文字 お疲れ様でした。
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