コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「レ〜ンちゃん! 今日もレンちゃん家いっていい?」
「おいおい、またかよ?」
「ダメ……?」
「ダメじゃねーよ」
「へへっ、やった〜!」
ホームルームが終わった教室で、早乙女涼太は人目も気にせず抱きついてくる。
そしてその様子を見た周りのやつらは……
「放課後までずっと仲良いなお前ら」
「結婚式にはちゃんと呼んでよ〜?」
などと、特に拒絶するでもなく各々に反応をし、教室を出て行った。
西陽のまぶしい帰り道。
隣を歩く涼太が、突拍子もなく尋ねてきた。
「蓮、今日一日を振り返ってみてどうだった?」
「何が?」
「ちゃんと俺たち、『それっぽく』振る舞えてたかってこと」
「なんだよ今さら。まぁ大丈夫なんじゃねぇの? お前めちゃくちゃ絡んでくるし、ハタから見れば充分それっぽく見えて——」
「蓮くんと涼太くんのことどう思う?」
ふと、オレたちのことを話題にしている声が聞こえてきたのでピタリと口を閉ざした。涼太もまた、目の前のほうを見つめている。
声の主は、サラリーマンや小学生などに混じって信号待ちをしている二人組の女子生徒だった。
「どうって?」
「ほら、あの二人って付き合ってるって話だけどさ、見た感じ涼太くんのほうは蓮くんにすごいベタベタしてるけど、蓮くんのほうは……」
「あー、分かる。蓮くんはなんか冷めてるっていうか、そこまで涼太くんにゾッコンって感じじゃないもんね」
オレたちが自分たちの関係性について語ろうとしていただけに、あの女子生徒の会話はまさにタイムリー。オレたちは二人してピサの斜塔のように耳を傾けた。
「そんで思ったんだけど……今あたしが涼太くんにアタックしたら、ワンチャン別れてくれるんじゃねって話」
「そんな簡単にいくかなぁ?」
「いくんじゃなーい? 蓮くんに冷たくされてて、実は寂しかったんだーつって、案外コロッといくかもよ?」
「えー、じゃあアタシ攻めちゃおっかなぁ」
「いやダメだし、あたしが先な」
そのような会話が聞こえてきて、オレは「それっぽく振る舞えているから大丈夫」という発言を撤回せざるを得なくなった。
信号が青に変わったタイミングで、涼太は「いくぞ」と耳打ちをしてきた。
「は?」
「あの子たちの『誤解』を解いてやろうぜ」
どういうことかと聞き返す間もなく、涼太はオレの手を引っ張って彼女らのもとへ歩みを進めた。
「あれ? ご本人登場じゃん!」
「本当だ! チャンスじゃね?」
オレたちに気づいた女子たちは、お互いに顔を見合わせて笑いながら話す。
「あっ、同じクラスの! よ〜っす! なんの話してんの〜? チャンスがどうとか聞こえたけど」
涼太は比較的、誰にでも話しかける。
「いや、別にー? ところでさ、二人は最近どうなの?」
「どうって?」
「まだ付き合って一週間くらいだし、ウチらが気にすることでもないとは思うけどさ。二人とも、マンネリとかしないのかなー、とか思っちゃったりして」
「そうそう。特に蓮くんのほうは、その……淡白っつうか。涼太くんに気を許してるからかもしれないけど、なんか塩対応みたいなとこあるし。二人ともちゃんと仲良いのかなーって思って」
ずいぶんとストレートに探りを入れてくるものだと思っていると、涼太は突然立ち止まった。
オレも並んで立ち止まった、次の瞬間だった。
「仲が良いってのは……」
そう言うと涼太は、オレの肩に手を回したかと思いきや、もう片方の手で顎を掴み……
「こういうこと?」
なんのためらいもなく、唇を重ねてきた。
オレは固まった。彼女らも固まった。
無関係の通行人の視線すらも、集まった。