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「はぁ……はぁ……こ、ここまで来れば大丈夫だろ」


「そ、そうですね……って、ナオトさん! みんながいません!」


「なんだと! くそ! ちゃんとついて来いって言ったのに!」


「で、でも、三人とも強いですから、心配する必要はない……とは言い切れませんね」


「ああ、そうだな。特に、ルルは金属系魔法が使える代わりに、かなりマイペースだからな。二人に迷惑をかけていなければいいのだが……」


その時、気味の悪いが聞こえた。


「……ふふふふ」


俺たちは背中を向け合いながら戦闘態勢に入り、すぐさま、マナミに確認した。


「マナミ。今、なんか言ったか?」


「いいえ、私は何も言っていません。ナオトさん……の声ではなかったですね。明らかに」


「でも、この洞窟《どうくつ》の中に、俺たち以外の何者かがいるのは分かったな。位置はわかるか? マナミ」


マナミは本物のネコ耳をヒコヒコと動かして、何者かの位置を特定しようとした。

すると、その人物は意外にも早く見つかった。


「……近いです。およそ二十メートル先から足音が聞こえます」


「あの三人の可能性はないか?」


「……はい、ありません。呼吸音と足音から察するに、その人物は成人女性です」


「すごいな、マナミの耳は。フニフニかつ役に立つとは」


「と、当然です! ネコだって獣《けもの》なんですから!」


「……そうだったな、すまない。それじゃあ……」


「ナオトさん! こちらに気づきました! 来ます!」


「分かった! 援護《えんご》を頼む!」


「具体的には、どうすればいいですか!」


「えっと、とりあえず、壁に生えてる|若葉色の水晶《エメラルド》を集めてくれ!」


「は、はい! 分かりました!」


俺がそう言うと、マナミは壁《かべ》にたくさん生えている『|若葉色の水晶《エメラルド》』を集め始めた。

さて、どうしたものかな……。俺が先ほどマナミが言った方向を向いた瞬間、背後から話しかけられた。


「あなたが最近ウワサになっている複数のモンスターチルドレンと契約しているという人物で間違いないようですね」


俺はさっと振り向き、挨拶《あいさつ》がわりに右ストレートを放った。

しかし、彼女は飛んでいたため、スッと躱《かわ》して、後ろに飛行すると、ゆっくり着地した。

黒いローブでほぼ全身を隠しているため、顔は見えなかったが、薄《うす》ら笑いを浮かべているのは分かった。


「ナ、ナオトさん! 大丈夫ですか!」


「俺はいいから、お前はそのまま集め続けろ! それが今のお前にできる唯一《ゆいいつ》のことだ!」


「わ、分かりました! 頑張ります!!」


彼はせっせと『|若葉色の水晶《エメラルド》』を集め続けるマナミを横目で見た後、目の前の人物に視線を向けた。


「いったい、何が目的だ? モンスターチルドレンに恨《うら》みでもあるのか?」


「いいえ、別にモンスターチルドレンことを恨《うら》んではいませんよ。ただ……」


「ただ?」


「複数のモンスターチルドレンと契約している、あなたに興味があるだけです」


「そうかよ。で? いつから、俺たちを観察していたんだ? 魔女さんよ」


「魔女とは失礼な。私はこう見えても、ハーフエルフなんですよ? そして、あなたたちのことは『例の火山』を離れる時から知っています」


「ふーん、そうか。というか、顔がよく見えないから適切に判断できないぞ?」


「……仕方ありませんね。いいでしょう、あなたのことを知るためには、まず自分のことを知ってもらわなければなりませんから、特別に私の顔を見ることを許します」


「あんたはどっかの宗教団体に所属しているのか?」


「いえ、ハーフエルフはこの世界では珍《めずら》しいので、あまり人前に出ることはありません」


「要するに、差別対象になるかもしれない存在ってことだな?」


「はい、その通りです。それで、私の顔をご覧になりますか?」


「俺に許可を取ってどうする」


「えーっとですね、この世界のハーフエルフの女性にはハーフエルフ族以外の男性を魅了《みりょう》する力があるので」


「それで俺がお前に惚《ほ》れると思ってるのか? だったら、試してみればいいだろう? それとも、自信がないのか?」


「いえ、別にそういうわけではありません」


「なら、試してみるしかないよな?」


俺はそう言うと、マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)からもらったサングラスを外した。


「では、失礼して」


彼女は両手でゆっくりと黒いフードをめくり、自《みずか》らの顔を露《あら》わにした。

そこから現《あらわ》れたのは薄い灰色のショートヘアとエルフのように長い耳、それと黒い瞳《ひとみ》であった。

なるほど。まあ、そこそこ美人ではあるが……。俺はマナミを呼んで彼女のとなりに並ばせた。


「私の顔を見てもなんともないのですか? それに、この子を呼んだのはなぜですか?」


「ん? いや、やっぱりマナミの方がかわいいなーと思っただけだ。気にするな」


その時、マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)の顔が真っ赤になって、湯気が出始めた。


「えっと、あなたは私よりもこの子の方が魅力《みりょく》があると仰《おっしゃ》りたいのですか?」


「そうは言ってない。だが、かわいさで言うと、マナミの圧勝だということだ」


「は、はあ、そうですか」


「なんだ? 何か言いたいことがあるのか?」


「いえ、どうしてあなたが複数のモンスターチルドレンと契約できたのか、分かった気がしただけです」


「そうか。なら、俺たちは先を急ぐから、ここでお別れだ」


「ま、待ってください!」


彼女の声が洞窟《どうくつ》に響《ひび》いた。


「な、なんだよ。急にでかい声を出すなよ」


「お伴《とも》します! いえ、お伴《とも》させてください!」


「えっ? いや、急にそんなこと言われてもな……。というか、あんたの名前は?」


「申し遅れました。私はハーフエルフ族の最後の生き残りにして歴代の誰よりも強く、そして誰よりも美しいと評判の……!」


「最後の生き残り?」


「あっ、単なる遊び心ですから、お気になさらず」


「お、おう」


「コホン、えー、ハーフエルフ族の誇《ほこ》りと言っても過言《かごん》ではない、私の名は!」


「君の名は?」


「……ありません」


「はあ!? そこまで言っといて名前がないって、どういうことだよ!」


「仕方ないじゃないですか! 本当にないんですから!」


「ハーフエルフ族は滅《ほろ》びてないんだよな? それなのに、なんで名前がないんだよ。両親は生きてるのか?」


「両親は今でもピンピンしていますし、村もそこそこ栄《さか》えています」


「じゃあ、どうしてだ?」


「私たちハーフエルフ族は昔から人間に捕《つか》まった時の対策として、素性《すじょう》がバレないように名前を付けない風習があるんですよ」


「ほう、それで名前がないんだな」


「はい、そうです」


「じゃあ、村にいた時は、どうしてたんだ?」


「代名詞で呼び合っていました」


「君とか、あなたとか、か?」


「はい、ですので私は別に困ってな……」


「名前は大事です!」


その時、マナミが急に話に割り込んできた。


「ど、どうしたんだ? マナミ。そんな大きな声を出して」


「ナオトさんは、少し黙っててください!!」


「えっ、あっ、はい、すみません」


いつも、緊張していて何かを言う時は必ずどこかで間《ま》をおいてしゃべるマナミがこんなに話すところは初めて見たため、俺はマナミの言うことをすんなり聞いた。


「あなたは、それでいいんですか!」


「えっ?」


「名前がないまま、一生を終えてもいいんですか!」


「それは昔からの風習だから仕方な……」


「それじゃあ、死んじゃった時に、お墓になんて書くんですか!」


「髪の色や目の色、とにかくその人物の特徴的な部分を名前として墓石に刻《きざ》むわ」


「はあ!? そんなの絶対おかしいですよ!」


「な、何がおかしいの? 別に私たちはなんとも思ってな……」


「それだと本人を特定できないじゃないですか! 名前があるから、その人だと分かります! 歴史に名を残すこともできます! だから、そんな風習はあなたが終わらせてください!」


「いや、でも……」


「でも、じゃありません! いいですか! 私たちモンスターチルドレンは名前をもらって初めてマスターと契約できるんです! それまでの間、私たちは製造番号で呼ばれます。育成所にいる間は、早くマスターと契約したいと私たちはみんな心の奥《おく》で思っています! 私もナオトさんに【マナミ】という名前を付けてもらった時、私は天にも昇《のぼ》りそうなほど、幸せでした! やっと、私という個人を特定されるものができたんだって! だから……だから! 名前がなくてもいいなんて軽々しく言わないでください! でないと、私は……私は……!」


「マナミ、少し落ち着けよ。な?」


俺は、途中から泣いていたマナミをそっと後ろから抱きしめると、頭を撫《な》で始めた。


「ナオト……さん。私、自分の気持ちを抑《おさ》えきれなくなってしまって……それで」


「お前の言いたいことは、よく分かった。きっと彼女にも届いてるはずだ。だから、もう泣くな。せっかくのかわいい顔が台無しになるぞ?」


「グスッ……はい、分かりました。もう泣きません」


「よしよし、えらいな。マナミは」


俺が耳を触《さわ》ると、マナミは。


「……ふにゃあ」


そう言った後《あと》、泣き疲れたのか眠《ねむ》ってしまった。

俺はマナミの頭を俺の膝の上に置くと。


「……今のがマナミの気持ちだ。というわけで、あんたの名前は今から『メルク・パラソル』だ」


「メルク・パラソル? なんて意味ですか?」


「メルクはネズミ。パラソルは傘《かさ》だ」


「メルク・パラソル……。かわいい名前ですね。ありがとうございます。一生、大事にします」


「おう、大事にしろよ」


なんか『ト○コ』に、そんな名前のやつがいたような気がするな。

うーん、まあ、いいか。


「はい! 大事にします! それで、これからどこへ向かうのですか?」


「うーん、とりあえず奥(おく)に進もうかな」


「なら、名付けてもらったお礼にここを案内しますよ!」


「案内? ここによく来るのか?」


「ここは、ハーフエルフ族の宝物が隠されているというウワサのある有名な場所ですからねー、私も何度か来ているのですよ」


「そっか。それでその宝物は……って、何度も来てるってことは未(いま)だに見つかってないってことだよな」


「はい、その通りです……。ですが、お役に立てると思いますよ!」


「うーん、まあ、マナミが起きるまで、おんぶしないといけないからな……。じゃあ、お願いしようかな」


「はい! 任せてください!」


「ああ、よろしく頼む」


こうして、洞窟《どうくつ》の中で出会ったハーフエルフのメルク・パラソルと一緒に洞窟《どうくつ》を探索《たんさく》することになった。

それにしても、あの三人は、いったいどこに行ったんだろう……。



その頃、その三人は。


「ここをこうして、あれをあっちに置いて、それを向こうに置いて……っと。よし! できた! ルルお姉ちゃーん! これでいい?」


「ん? あー、うん。それでばっちりだよー。シオリちゃん」


「こちらもできたぞー! どうじゃ、なかなか良い出来であろう?」


「ん? あー、うん、さすがだねー。キミコちゃん」


「お主《ぬし》のそのしゃべり方はどうにかならぬのか? ルルよ」


「これは、クセだから仕方ないよー」


「そうか。なら、仕方ないのう」


「ナオ兄たち遅いね。ちょっと見てこようか?」


「シオリちゃん、心配なのは分かるけど仮にもマナミちゃんがいるんだから大丈夫だよー」


「そうじゃぞ、シオリ。お主《ぬし》の姉《あね》をお主が信じないでどうする?」


「うーん、でも少し遅いと思うんだよね」


「二人なら大丈夫だってー。それに私の考えた『しかけ』は完璧《かんぺき》だしねー」


「お主《ぬし》は、命令と確認しかしておらぬじゃろう」


「えへへ、バレたー?」


その時、シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)は何かに気づき、耳をヒコヒコと動かした。


「……足音がする。ナオ兄とシオリお姉ちゃんと……もう一人いるよ」


「えー? そんなはずないと思うんだけどなー」


「いや、妾《わらわ》にも聞こえたぞ。呼吸音と足音から察するに成人女性じゃな」


「二人とも耳がいいんだねー。すごいなー」


「計画を最終段階に移行するぞ。二人とも準備はよいな?」


「大丈夫だよ、問題ない」


「オッケー」


「よし、ならば、計画実行じゃ!!」


『おー!』


これから、三人が何かを始めるようです。さてさて、どうなることやら……。

ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件 〜ダン件〜

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