今日も少女は昼休憩にわざわざ立ち入り禁止のテープを乗り超え、屋上へ来ていた。あることをするためだった。
少女は親が嫌いだった。クラスメイトも嫌いで、そして少女自身も自分が嫌いだった。
母親は酒癖が悪く、家には割れた皿や穴の空いた壁があった。幸いにも家庭内暴力はなく、体に傷一つなく暮らせていた。
父親は気が弱いため、少女が母のことを言っても「ごめん…」と一言だけ、そんな両親のことが一緒に住むうちに気持ち悪くなり、両親と会話が終わるたびにトイレに駆け込み、嘔吐していた。それは気持ち悪さを抑えるための手段ではなくなり、次第に快楽、ストレス発散の手段となっていった。
少女は学校で嫌なことがあると、喉に手を突っ込み、自ら嘔吐するようになった。
だが、胃液で歯が溶けることを知った少女は絶望した。ストレス発散できる優一の方法だったからだ。それから少女は3週間に一回の頻度で吐くようになった。
少女は消えたいと思う様になった。誰からも忘れられて元々いなかった存在になりたいと。だが、そんなことはできるはずがないからだ。親は自分の存在を知っているし、
教師だって知っている。だから、少女は毎朝昼晩神様に祈ることにしたのだ。
自分が誰からの記憶からも消えて、地球に存在していた証さえも消えてなくなれと。
「居た!」と咄嗟に叫んでしまっていた。
先輩がいつものように屋上の鉄格子に手をかけ、空を眺めていた。
彼女はゆっくりと振り向き、こちらへ歩いてきた。
「昨日ぶりだね」
とニコッと笑う先輩を見ると安心感と共に違和感を覚えた。目の奥が笑っていないのだ。
確かに昨日あったばかりの人に心を開けという方が難しい話か。と思いながら僕はバッチをポケットから取り出した。
「はい。えっと、これ」
「?」
一瞬だけ僕の掌にある物に疑問を浮かべると、顔がみるみる青ざめていった。
「ちょっと、ごめん」
「え?あ?え?」
先輩は口元に手をあて、立ち入り禁止のテープを乗り換え、校舎内に戻っていった。
何が起きたか、理解できなかった僕は渡しそびれたバッチを静かに眺めていた。追いかけもせず。
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