「寒っ」
秋の終わり、冷たい風が吹き体を冷やす。流石に臨海基地だから寒い。こんなことならカイロを持ってくるべきだった。
外で演習の場所の確認を1人寂しく行っていることが風のせいか虚しくなってきた。
「はぁ、大体第1がやればええやんけ」
押し付けられた仕事に悪態をついたところで現状は変わらない。早く終わらせようという一心で確認作業を行う。
「しっかしほんまに寒いなぁ。そろそろ冬始まるんやな」
あまりの寒さにバインダーを脇に挟み手を擦り合わせながら息をかける。
「はぁ…」
吐いた息が白くなる。惨めや、と心の中で悪態をつく。
「よぉ、お疲れだな」
声がする方を見れば、仕事を押し付けた張本人がいた。
「誰のせいでしょうね」
「人のせいにするな」
話している時間があれば仕事を終わらせたいので会話をやめる。
ペンを持とうとするが、悴んでうまく持てない。
「なんだ?寒いのか?」
「えぇ、長時間ここにいますから」
わざと嫌味くさく言う。もうすでに起こりそうなのだ。返ってきたのはふぅんというどうでも良さそうな返事。なら聞くなよ!と言いたい。
「おい、保科」
「なんです?」
「これやる」
鳴海は保科のポケットに何かを突っ込んだ。
「え、ちょ何?」
「うるさい、今は木枯らしが吹いてるんだから対策しろ!お前は手が大事だろう」
鳴海は耳を赤く染めながら走り去っていった。
「もう、何やの」
ポケットに入れられた物を取り出すと熱を持った白いもの、カイロが入ってた。
「っ!えぇ、なんで僕なんかに…」
犬猿と呼ばれている人のポケットに普通カイロ入れる?
気づいたら自分の体温が上がっている。
「はぁ、調子狂うわ」
カイロをしっかりと握りしめ、最後の作業に入っていった。
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