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同人誌、それはオタクの夢と希望を詰め込んだ薄い本の事である。それに対して閲覧要求を抱くのは一ファンとして当然であり、いうなれば生存本能のような物だ。そんな言い訳をして、すとぷりのリーダーもとい紫月は本棚から買い溜めていたモノを取り出した。
いや、まずは弁明をさせてくれ。もともと俺は、すとぷりメンバー箱推しだったのだ。生放送も動画も全部仕事を死ぬ気で終わらせて全てリアタイして部屋はグッズの山と化してTwitterのプレゼント企画に毎回応募するくらいには推していた。そう、あれはちょうど半年ほど前。
仕事がひと段落ついたところでTwitterに『すとぷり』と検索をかける。俗に言うエゴサというやつだ。毎日のことなのでぼーっとスマホを見ていたら、気になるツイートを見つけた。#stxxxというタグで描かれていたそれは、俺たちの日常を想像したと思われる絵で、ちょっと面白かった。いや、かなり面白かった。他にもこういうのがあるのかと、このタグで検索をかけた。かけてしまったのだ。腐敗は、早かった。次々と出てくる、メンバーを登場させた恋物語。カッコつけてしまったが、要はBLだ。それに俺は夢中になり、貪るように読み漁り、気付いた時にはネットで薄い本を注文していたのだ。そう、全ては運命。神様のお導きというやつなのだ。なんの神かは知らんが。ちなみに好きなジャンルはさとジェル。ジェルくん可愛い。さとジェルななとかも出て来るが、俺はあくまで傍観者として見ていたい。そう、立ち位置でいう『双方から相談を受けて優しくアドバイスする友人』といったところだ。素晴らしい。
その『双方から相談を受けて優しくアドバイスする友人』はベッドの上で『拝啓、ゲームの罰ゲームで処女を奪われました。』を開く。もちろんジャンルはR18、特に気に入っている作者の作品だ。
「……っ、やば、尊すぎる……」
コロコロと転がりながら読んでいた為、ベッドから落ちた。痛いです。
メンバー五人〜紫月を除いて〜は、会議室に集合していた。召集をかけたのは桃宮と橙乃、紫月を呼ばなかったのは理由があるのだ、決して呼ぼうと思ったきり忘れていたということはない。そう、決して〜ない、neverである。
「……で、なんで呼び出したの?」
「それを聞くとは命知らずだな!仕方ない、教えてやってもい」
「今そういうのいいですから」
「なんか今日冷たない?」
しかしそれでも橙乃はめげない、踏まれてもなお伸びる道の草だ。合図に合わせて桃宮が完璧なタイミングでBGMをかける。
「本日の議題は〜、『ずっと変わらないままじゃいられない〜咲かせて恋の1、2、3!〜』」
部屋の中にブリザードが吹き荒れる。流れているBGMが虚しかった。
「せめて自分たちの曲いじれよ」
「帰っていいですか?」
「かいさーん」
『待て待て待て』
明らかに冷めた目をして帰ろうとする信号機だったが、退路に立ち塞がった二人が渾身のきゅるきゅるおめめをしてみせる。後に三人はこの時の様子を『ゴキブリと対決できるレベルに気持ち悪かった』と語る。
何はともあれ引き止める事には成功した。そこから先は思うツボ、なんだかんだで優しい信号機はビール瓶一発で話を聞いてやることにした。
「ーーで、どうしようお前ら」
「ダイレクトに言いなよ」
「仮にも大人組なんですから」
「それとこれとは話が別や!」
「ジェルくんとかこんな風に『ねえ、今日暇?そっか、俺も実はそうでさ、良かったら家来て遊ばへん?』」
証拠書類として提出されたのはジェボ。人の名前ではなく『ジェルボイス』の略だ。そこには堂々とナンパをしかける橙乃の声が収録されていた。世の中の女性は彼の声を聞いただけで耳が犯されるとお墨付きだが、メンバーにとっては笑いの対象でしかない。所々で漏れる吐息は十二指腸辺りにある気がする笑いのツボにクリティカルヒットし、呼吸困難になりかけた青羽にふざけて人工呼吸をしかけた桃宮がアッパーカットされる事件が起こった。
「wwww、笑い止まんねっwwww」
「あっははっwww、『あ、頭にいもけんぴついてる♡』wwwwww」
「りいぬ、wwやめっっwww」
「俺これホンマに苦手やねん、やめ!」
爆笑の渦の中、件の最強エンターテイナーといえば顔を真っ赤にして必死に止めていた。トマトといい勝負が出来そうだ。世の中の健全な淑女の為に数多くのセリフを吐いてきた彼だったが、自分で聞くとなると話はブドウとマスカット並に違って来るのである。
ひとしきり笑った後、誰もそれまでの話の内容を覚えていなかったので、会議といえるか分からない会議は終了を迎えた。ところが、人間は不思議なものだ。終了を迎えたとたんに相談者二人ーー橙乃と桃宮は相談内容を思い出してしまった。
「……思い出した」
「俺は高校生探偵ミヤマさとみ、幼馴染……はいないが一人で遊園地に遊びに行き、るぅとが唐辛子を道端のオッサンの鼻に突っ込んでいる現場を目撃した。暴行に興味を持った俺は背後から近づくるぅとに気付かず、金属バットで殴られ目が覚めたら……記憶がなくなっていた!」
「おいどっかで聞いたことある感じの紹介ヤメロ」
「まあまあ三十七年前くらいにあったことやん、多分」
「そん時俺生まれてねぇよ」
呆れたように橙乃をあしらっていた桃宮だったが、はたと言葉を止める。再び顔を上げた時、彼はフィニアスとファーブのペリーもかくやと思われる表情をしていた。
「ジェル、明日生放送やるだろ?」
「おん」
それがどうした、と目で語る橙乃。コイツ表情割と豊かやな。桃宮は面白い悪戯を考えたようなキラキラした目で自身の思いつきを語った。全て話し終えた時、橙乃がこれまで見たことない顔をしていたのはご愛嬌だ。
「さぁ本日も始まってまいりました、ななジェルラジオのお時間でございます!」
ななジェルラジオ。雑談ゲーム実況歌枠お悩み相談まで様々な事にとにかく楽しみながら挑戦していく人気放送だ。また、大事な告知や情報などがぽろっと言われることも多々あるため、リスナーがチェックして損どころか得しかないと言われている。
「なーくーん……」
「あれ今日は元気ないじゃんジェルくん、どした?」
「やって最近構ってくれんし」
「えぇ、可愛いこというなぁ!」
「このままだとヤンデレジェルくんが解放されてまうで?」
「え、ジェルくん何体もいたの?初耳」
「どこをどうとったらそういう思考になるんやろ」
「てかヤンデレって何?具体的な定義求む」
「俺もよう知らんけど、
主人公(以下、相手)を想う余り、「重い」愛が昂じた状態。
自分の持てる全てを相手に捧げて尽くそうとする。押しかけ女房をする、頼まれてもいないのに世話を焼くなど、周囲からは異常に見える位に相手には徹頭徹尾優しい。
相手の全てを把握できないと納得しない。
相手が自分以外と親しくしている様子を見ると極端に嫉妬し、計略を用いて排除する。
相手が傷つけられたり侮辱されたりしようものなら、加害者が同性だろうが異性だろうが問答無用で、容赦なく制裁する」
「めちゃめちゃ知ってんじゃん」
「すとぺディア情報」
「で、それになると」
「そう」
「でもジェルくん優しいじゃん、無理じゃない?」
「俺だってその気になれば出来るわ!……えーと、監禁、は無理やし…そもそも俺、自分だけのものにしたいって願望ないし…」
「うん絶対無理」
「やってなーくんは俺たちのものやし…」
「『俺たち』の範囲がどこまでかによって言葉の意味変わってくるね」
「え、すとぷりメンバー」
「思った百倍狭かった、え、それは集団型ヤンデレ?」
「集団型ヤンデレ」
「思わず変な造語作っちゃったけどジェルくんの定義が狭すぎてびっくりしたよ、そして俺もの扱いされてんじゃんw」
「人間国宝?」
「ものじゃないよ」
「今日は何やるん?」
「急激すぎる方針転換」
「このトークで30分使ってることに気づいた」
「元々『ラジオ』ってついてるしいいんじゃない?」
「ラジオという名のコラボ放送やんこれ」
「そこは言っちゃダメな域なんだよ」
「そんなダメな域とかある?」
「あるよ、カニカマに実は蟹入ってない話とか」
「えホンマに?」
「ってなるじゃん」
「あーー…?」
その後何事もなかったかのように配信は進められ……なかった。原因はひとえに橙乃である。彼はボム兵なみに数々の爆弾を落としていき、それをまた紫月が律儀に拾ってしまうので糖度711%くらいの配信が出来上がってしまった。
配信終わりには「俺らのファンアートごっつ書いてくれてありがとぉ、これからも2次創作、楽しみにしてるでー!」と巨大隕石を降らせ、身に覚えがありまくる紫月は突っ込むこともできずフリーズした。ちなみにすとったーもフリーズした。推しにあんなことやこんなことをやらせている欲望の掃き溜めを推しが見て、しかも続きを求めている…?そして今回の配信、正直橙紫すぎた。つまり、これはもっと俺たちのBLを生産してくれという意味ではないのか…?と思う一般ピーポーが続出。某イラスト小説投稿サイトは一時、stxxxタグが席巻していたという。
「ーージェルくん神」
紫月は自室に戻った後、ペクシブをみながらそう呟いていた。うん、確かに橙紫タグ急増した。でも、それに触発されたように他cpも増えていっている影響で俺の推しcp作品も当然、増えている。よくやってくれたジェルくん。でも俺は自分が受けの二次創作を見る趣味はないんだ残念ながら。受けが自分達について書かれてる二次創作をオカズにしてる所を攻めに見つかって…みたいなシチュエーションは好きだけど。お願いだからさとちゃんとの配信でこういう感じのふざけ方をしてくれ。神様、どうか桃橙をくっつけてください。普段毛程も気にしたことのない神に向かってそう祈るくらいには舞い上がっていた。
「っ待ってこの作者さん新刊出してんじゃん買お」
紫月は気付かなかった。いつもなら気づくはずなのだが、いかんせん作品急増と新刊発売で心に羽が生えていたのだ。嬉しさのあまりパソコンに向かって『ありがとうございます』と頭を下げる様子を、一台のカメラが中継していた。
「ヤバかったぁ…」
赤羽は配信が終わると同時に地に崩れ落ちた。配信中、一言一句吐息までも見逃さないとばかりに耳と目を酷使していた反動だ。
「ジェルよくやった、最後の一言特によくやった」
何を隠そう赤羽は重度の腐男子だ。そして尊敬している人は紫月だ。この流れで紫月受けにハマらない人類がいるだろうかいやいるまい。しかも、彼には特技があった。絵だ。そして推しのためとあらば文才もみるみるうちに伸びていった。そう、人気紫受け創作者「いぬ」とは赤羽の事である。
「なんかインスピレーションが湧いてきた気がする!」
猛然とタブレットに向かい、マッハにしか見えない速度で漫画を描き始める。
『ジェルくん、さっきの放送なに⁈なんかもう匂わせの域超えてない?』
『なんか今日は好きやーって気持ちが抑えきれんくて』
『あぁ…牛丼食べたいよね』
『いやそのすき家やないで』
『違うの?』
『どっちかって言ったらなーくんのこと食べたい』
『ごめん無理』
『そこはキュンってなる場面』
『無理だよ感情は制御できない』
『ちょっとガチ目に傷ついたわ』
『え…』
『……』
『跡は付けんな』
『やったーー!』
ギャグタッチの後日談を描いた漫画を投稿すると、秒で何百といういいねがつく。コメントも多数ついており、一つ一つのコメントに山より高く海より深い共感を示していると、あるコメントに目が止まった。『橙紫のR18お願いします!』
「書けるもんならとっくに書いてるっつーの!」
そう。彼は、ある程度見たことのあるものしか書けないのだ。実際、好きとすき家勘違いはこの前起こった。R描写をリアルで見れば絶対に書けるという確信を持っているのだが、残念ながら見る機会は訪れていない。
「やっぱさとジェル応援しとくべきだったーーー!」
そして傍観者として盗聴器とカメラを取り付けさせてもらうのだ。明確な目標ができた赤羽は勢いよく立ち上がった。こうなったら絶対に桃紫橙を成立させて見せる。プライドにかけて!
『……』
東京都某所。ごく普通のマンションの一室で、ビデオ鑑賞会が開かれていた。
『っ待ってこの作者さん新刊出してんじゃん買お』
いつにない緩んだ顔でベッドにダイブする彼は控えめに言ってめちゃめちゃ可愛かった。もし内容が普通であれば二人は尊さで死亡していただろう。しかし、内容が普通ではなかったため、二人は若くして鼻血により死亡する危険を免れた。
「…ジェル」
「おん」
「……ヤバくね?」
「おん」
「………昨日の夕飯なんだった?」
「おん」
「やべえジェル壊れた」
何に対しても『おん』としか返事しない橙乃だったが、桃宮も正直脳機能を停止させたい。確かに好きな子が、自分ともう一人その子の事が好きなやつとのBLに悶えていたらそんな反応をしたくなる。
「え、なーくん、え、え、え?」
「落ち着け宇宙に行くな」
「え、やって、あの本の表紙……」
震える手が指差す先は、一冊の薄い本。そこには、『拝啓、ゲームの罰ゲームで処女を奪われました。』と書いてあった。いやまだそれだけならばいい。良くないが。問題なのはそこに書いてある絵だ。赤く頬を染めながら焦った様子で桃宮を止めている橙乃と、全く気にせずにそのまま押し倒そうとしている桃宮が描かれていた。沈黙の時間。二人で顔を見合わせて。……盛大な嘔吐パーティー。
暫く休憩。二人とも訳あってトイレないしバケツから離れられなかった。
ようやく喋れる程度まで回復した二人。まだ未知のものを見てしまったという気持ち悪さは抜けていないが、少しは耐性もついた……のかもしれない。
「……見てはいけないもの見てしまった感半端ないけど」
「人生で一番吐いたわ」
青白い顔をしたまま橙乃が記憶消去の努力をする。消えなかった。
「……どうする?」
「うーーん…」
その時だった。
「お前らーーー!」
『莉犬⁈』
窓ガラスを破り、空から突っ込んできた赤い物体。その正体は赤羽だった。
「…どうやって来たん?」
「そんな事はどうでもいいんだよ!」
「莉犬が空を飛んでた衝撃よりデカい衝撃……あったわ」
再度思い出してしまったのか桃宮が震える。このままだとトラウマルート一直線だ。
「なーくんが桃橙好きなんだったら利用したらいいじゃん!」
『は?』
つらつらと計画をのたまう赤羽に、二人は『こいつやべぇ』と思った。あと地味に腐男子だったことに衝撃を受けた。このグループ、結構カオスなのかもしれない。いや、元々か。
「なーくん、ちょっと相談あるんだけど」
「どしたのー?」
よし。桃宮は心の中でガッツポーズを決めた。返事をしたら最後、地獄まで連れ込んでやる決意でここに来た。あとは桃宮の演技力に全てがかかっていると言っても過言ではない。上等だ、アカデミー賞主演男優賞取ってやるよ。
「俺、好きな人いるんだよね」
「え、誰々?」
相談する感を出しつつ、少し頬を赤らめて恥ずかしい気持ちを演出する。流石すぎる俺。と桃宮は自画自賛をしていた。
思いがけない恋の相談にテンションが上がる紫月。決して無いと思うが、もし万が一橙乃が相手だった場合、祭りの準備をしなければならない。ていうか相手が橙乃以外だったら正直地雷だ。
「…言っても、引かない?」
「だってさとちゃんが決めた人でしょ?いい人に決まってるし、応援するよ」
このリアクションは俺が知っている人物かつ男である可能性が高い。そう名探偵紫月は推理した。となるとかなり数は絞られてくる。お願いします神様相手ジェルくんでありますように。
「……ジェル、なんだけど」
不安演出、間の取り方、全てにおいて完璧。もはや考えている事が舞台の音響担当のそれだが、全く桃宮は気づいていない。そして紫月。橙乃だったらいいなーくらいの気持ちだったのでまさかまさかで思いが実現してしまい、逆に現実が理解できていなかった。数秒考え、理解できると脳内はピンク色に染まった。おめでとう。おめでとう。ありがとう世界。
「いいじゃん、応援するよ!」
「反応よw」
つい興奮のあまり大袈裟な対応をしてしまったことに紫月は気づいて、やば、バレてないかなと思いつつしっかり謝った。バレてないどころか吐かせていることは知らない。
「それで、告白したいんだけど……不安だから、なーくん一緒に着てくんない?」
「いいよ」
完全に網にかかったな。いっている事が悪役のそれだが、桃宮は脳内でハレルヤを流しながら上機嫌だった。無事主演男優賞受賞。素晴らしい演技。
なんで?と思いつつも根が優しい性格なのでついていくことにしてしまった紫月。彼は気づく事がなかった。この提案を受けてしまったことによって立場が『相談を受けてアドバイスする友人』から『告白現場に立ち会う友人』へと変化したことを。そして、その立場の人間が真の受けポジになりやすい事に。
二人は、全く違う理由でテンションを上げながら、橙乃の部屋へと向かった。
「あれ、ジェルいねぇ…」
「あー、また今度行こっか」
気を落とすな、と慰める。うん…と頷いた桃宮は本当に落ち込んでいるように見えて、紫月は対応を考える。しかし、桃宮のその表情は実は喜びを隠すためのものであり、紫月が考えている隙に合図をして橙乃を呼び、入って来たところで静かにドアを閉めた。
しかし、紫月も流石にそこまで鈍感では無い。ドアが閉められたことに違和感を持ち、後ろを振り返る。すると、橙乃の姿があった。
「……ジェル、くん……」
言いようのない不安に駆られる。何か、得体の知れないものと対峙している感覚。逃げ出そうとしても、橙乃にすぐ捕まえられてしまった。
「なに……?」
優秀な脳細胞は全く機能しなかった。予想外の展開に混乱しているのだ。そして、次の瞬間、桃宮は紫月の唇を奪った。ちゅ、と軽いリップ音をたてて体が離れる。
「あ、さとちゃんばっかズルい」
不満そうな顔をした橙乃も、紫月との距離を縮め、キスを落とす。
「…ん、ぅ、ぇうく」
離せ、と言わんばかりの抵抗も、ゆっくりと口内を蹂躙していくと次第に弱くなっていく。キスを終えた時には、紫月はとろんとした目で橙乃を見つめていた。
「待ってなーくんクソ可愛い」
「お前ちゃっかり舌入れやがって」
「まあまあ、これからやるんやし」
「うまくまとめやがって」
ひとしきり相談した後、二人は紫月の方を見る。不思議そうにしていた紫月だったが、何か合点がいったのかふにゃりと笑う。二人はその笑顔に急所を貫かれ、真剣な顔でお互いを見たかと思うと、そのまま紫月を押し倒した。
例の事件から何ヶ月かが経過した。三人は何故かあのままずるずると付き合ってるみたいな関係になっている。体を重ねることもあったし、別に付き合うことに対してやぶさかでもない自分がいることを発見した。極め付けはペクシブだ。あれだけ嫌っていた紫受けを見るようになって、『こんなことされてみたい』と思うようになってしまってはもう手遅れだ。それはそれとしてやはりさとジェルも好きだが。特に好きな作者は『いぬ』という人だ。絵も上手く、共感できる作品が多い。少し前からR18も上げ始めてるみたいだったが、なんとなく気恥ずかしくて見ていなかった。
「……見てみる、かぁ……」
見た。全部見た。そして、紫月は橙乃と桃宮の証言より、赤羽の元へ向かった。